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「結婚はまだ?」とか訊かれたり

  僕は今年で27歳になります。とある会社で正社員として働いており、気が付けば社会全体のカテゴリーで言えば立派な「大人」になりました。それと同時に周囲から「結婚」についてあれこれ質問されることが多くなりました。結婚だとか恋愛といった話題は自分にとっては複雑な物理の公式を眺めているような、とても難解な感覚に陥ってしまうのです。

大人になるまでの恋愛観

 思えば自分は恋愛といったものに無縁な人生を過ごしてきました。初恋は幼稚園の同級生でしたが特に何もせず、小学生の頃も好きな女の子はいましたがこれまた何もせず、中学校では絵に描いたような「陰キャ」のような学校生活を送り、高校では心身共にかなり持ち直したものの、彼女が出来るようなことはありませんでした。そもそも中学校に入って間もない時期までは、特定の彼氏・彼女を作って付き合うというのは最低でも18歳以上あたりの人達のような「大人がすること」だと思っていました。しかし、中学校生活を送る中でその認識は変わっていきます。クラスの友人と話したり、部活の先輩と話している中で「○○君と××ちゃんが付き合っている」といった恋愛に関する虚実の混じった噂を耳にするようになったのです。そして自分の友人もが「彼女ができた」と話してきた時に、初めて恋愛というものが自分の身近な範囲で起こり得ることなのだと認識しました。しかし自分はといえば前述したように光の当たらない学校生活を送り、厨二病もそこそこ患い、インターネットに入り浸っていたため、彼女が出来るようなことはありませんでした。当時流行っていた前略プロフを眺めて何とかして周りの恋愛事情を理解しようとしたりするのが関の山でした。そもそも、中学生の恋愛はほとんどが付き合ってから1年も持たず別れるのが常でしたから、将来結婚をする訳でもないのに何故わざわざパートナーを作って適当に遊んですぐ別れるような「無駄な行為」をするのだろうと当時の自分は考えていました。この時代のネットを闊歩していた「リア充爆発しろ」という言葉を、本気で唱えていたのです。

 高校に入ると、自分の学校生活はかなり改善されました。偏差値も比較的高めの高校に入り、中学時代に忌み嫌っていた所謂DQNのような存在もなく、中学時代と比べて明らかに精神的には安寧でした。それに伴い、人との付き合い方もオープンになっていきました。誰に対しても和気藹々と話せるようになり、異性との付き合い方も劇的に改善しました。中学の頃は自分に自信が無さすぎて、特に異性に対しては心を閉ざしており、その結果僕とざっくばらんに話してくれる女子は、同じ部活の数人程度になりました。今思えば杞憂というか、事務的にでも何でも普通に話せば良かったのにと感じますが、そうした事を出来るようにしてくれた土壌が、同じくらいの学力で揃っている高校だからこそ醸成されたのかもしれません。ある時期からは僕を含めた男女4人で学校から最寄りの駅まで一緒に帰ることが常となりましたが、中学の頃の僕を振り返ると、信じられないことでした。
 それでも彼女ができることはありませんでした。この頃になると「自分も彼女が欲しい」と思うようになりました。中学の頃に思い描いていた「青春」にはやはり彼女がいるというビジョンはありましたし、憧れている要素でもありました。しかし僕の毎日の高校生活は、登校して授業を受けて友達と話して部活に行って帰るということだけをしており、積極的に彼女を作ろうと努力はしていませんでした。何もせずとも出来てしまうような「天才型」はいますが、勿論僕はそんな人間ではないので、心の中で「彼女がいたらいいなあ」と思っている程度で、何か大なり小なりのアクションを起こしたことはありませんでした。この考え方が、今も僕を縛り付けることになります。

 身を粉にして受験を頑張り、僕は大学生になりました。どこの大学かは言いませんが偏差値で言えばMARCH以上の大学です。僕は大学デビューのような発想で眼鏡からコンタクトにし、ファッションや髪型などの容姿もかなり気にするようになりました。大学生活はといえば、学部では特に特殊なことはありませんでしたが(元々男女比が男に集中している学部学科でした)、サークルでは本当に男女分け隔てなく楽しい日々を過ごせました。大学生にもなれば男女の隔たりは無くなっていくものですが、入ったサークルも気に合う人が多く、異性とは同期とも仲良くなり、先輩にも良くしてもらい、飲み会や合宿も非常に楽しいものでした。そして僕は、生まれて初めて彼女が出来ました。
 相手はサークルの先輩で、雰囲気や考え方に何となくシンパシーを感じ、自分から告白して応じてくれました。その日の夜は「自分に彼女が出来たんだ」ととても嬉しかったことを覚えています。しかしそんな恋愛は長くは持ちませんでした。僅か数か月で終わりを迎えてしまったのです。理由は色々ありますが、僕が恋愛の何たるかをまるで知らなかったのが大きな理由でした。告白が上手くいって恋人関係になったのは良いものの、その後何をすればいいのか、デートに行っても何を話して何処に行けばいいのかまるで分からなかったのです。今思い出してもとても惨めな気持ちになります。

 大学生の頃はもう1つの大きな変化がありました。親や学校の先生やその近しい人以外で結婚している人と過ごすことが多くなったのです。主にバイトでの話になりますが、先輩たちの何人かは既に結婚していました。さらには小中高までの同級生の結婚報告や出産報告を耳にするようになり、大学での知り合いのカップルも明らかに結婚前提の付き合いをしており、遂に恋愛を越えて結婚というものが自分の身近に現れるようになったのです。

芽生えた結婚観

 大学も卒業し、僕は社会人になって間もなく4年が経とうとしています。人生設計について真剣に考えることが多くなり、そのうちの大きな要素として「結婚」というのは欠かせません。僕は結婚願望はどうかというと、したい気持ちとしなくていいやという気持ちが真っ二つに拮抗しています。何度か知り合いの結婚式に参加して「結婚って良いな」と思いましたし、一生のパートナーを見つけて子どもと一緒に家庭を築いていくのも憧れますが、仕事をしてお金を稼いでそれを自分のためだけに、趣味等に使って一人で楽しく生活する方が良いなとも思います。ただ、仲の良い友人が結婚しているのを見たりすると焦燥感は抱きます。「周りが結婚し出して自分も焦る」というのはドラマや漫画でもよく見る光景ですが、これは本当にそうだなと実感しました。母親も、僕がどういう人間か分かっているのでとやかく言っては来ませんが「やっぱり孫の顔は見たい」と言われた時は返す言葉がありませんでした。

 現実的な視点で見ると、一人で生活して趣味等に興じるような日々は、相当強い個性でも無い限りは、どこかで精神的に限界が来る年齢があるのだと思います。その年齢が大体の人は30歳前後なのでしょう。ずっと一人暮らしで仕事と休日を繰り返していると、結局「何のために働いているのだろう」「何のために生きているのだろう」という考え方が頭をよぎってしまいます。それが結婚している人であれば「家族を養うために」「守るべきものがあるから」「子どもの成長を見たいから」という、よく見る言葉ですが大きなモチベーションが存在します。こういった月並みな言葉がそうである由縁が、現代人の潜在的な人生観にあるのかもしれません。

 では僕が結婚出来るのかどうかといえば、自信はありません。自分自身で「結婚できるような人間ではない」と思ってしまっているからです。「恋愛をしたことがない人は人間的に未熟である」という説があります。これを中高生の頃に知った時は「何言ってるんだ」と思いましたが、今ではこの言説は正しいと思っています。人は若い頃の恋愛で様々な成功と失敗を繰り返し、人との付き合い方を学ぶ。そして「この人はどう思っているのか」「何をすれば喜ぶのか」といった気持ちを読むことや気遣いといったものが出来るようになるのです。

 では僕はどうかというと、恋愛をほとんど知らずに26歳まで過ごしてきました。それ故、人並みのコミュニケーション能力はありますが、一歩先の付き合いや気遣いについてはやや欠如している所があり、万人に好かれるような人間とは到底言えません。それに、じゃあこれから彼女・結婚相手を探そうとしても、どうやって親密になっていったらいいのか分からないのです。それはもっと若い時に恋愛経験をしていないことに他ならないからです。高校の頃を振り返った時にお話ししましたが、心では「彼女が欲しい」と思いつつも、髪や眉毛を整えたり好きな人の事を知ろうとするなどの努力を碌にしていませんでした。それでは良い結果が出る筈もなく、「誰か自分のことを好きになって導いてくれないかな」と、いつの間にか僕は恋愛に関して非常に受動的な人間になってしまいました。理想のデートは夜景を見たり遊園地に行ったりするのではなく、家でゲームや飲み食いをすることだと思うようになったのもその影響でしょう。大体の人は学生の頃に知るような恋愛のイロハを、5年10年遅れてこれから学んでいかなければならないのです。

 そんな僕に親戚や友人は「結婚はまだなの?」と訊いてくることがあります。「いやーまだなんですよね〜」と笑って誤魔化していますが、これから年を重ねるにつれ笑えない話になってくるでしょう。30歳に近づいた辺りから「必死」になり「妥協」していく様子が予想できます。「良い人止まり」になるくらいのコミュニケーション能力は持っていますし、容姿も決してイケメンではありませんがそこまで不細工ではないという一定の自信もあります。これからの人生を考えてますが、一人で生きていくのか、理想の人を見つけるのか、誰かの理想の人になるのか、それはまだ誰にも分かりません。

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