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1995年生まれは本当に「悪魔の世代」なのか?

 最近は殊更「Z世代」という言葉を見聞きします。今の若者を指す世代のくくり方ですが、かつてこれほどまでに「世代の名前」が使われて、他の世代と比較されたり特徴を説明されたり馬鹿にされたりしたことがあったでしょうか?特定の世代に名前を付けて区別する考え方は、団塊の世代・バブル世代・氷河期世代というように昔からありましたが、「Z世代」はテレビの番組名にも使われたりして見聞きする機会は圧倒的に多いと感じます。確かに彼らは物心がついた時からインターネットに触れ、中高生時代の主な情報源がYouTubeやまとめサイトというのを聞くと、我々とは倫理観に差異は出てくるかもしれません。しかし、この世代に隠れて「悪魔の世代」と呼ばれるある1年度生まれが存在するのです。

節目の年に色々と

 「Z世代」の定義に固定されたものはありませんが、おおむね1990年代半ばから2009年頃に生まれた世代です。現在の高校生~20代半ばの世代です。それ以前はいわゆる「ゆとり世代」と呼ばれることが多いですが、その中でも何故だか「やばい」と言われるのが1995年生まれです(正確には1995年4月2日から1996年4月1日生まれ)。何を隠そう私もその1人です。いつからそういう風になったのかは不明ですが、特によく言及されるのが、人生の節目に大きな出来事が起きるという点です。

・生まれた年に阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件
・中学に入ったらリーマンショック
・中学を卒業したら東日本大震災
・大学に入学したら消費税増税
・就活を始めるタイミングでイギリスのEU離脱

 このようにキリの良い年にことごとく何かが起こることから、1995年生まれは「悪魔の世代」と呼ばれることがあります。上記のことは確かに事実なのですが、果たしてこれらの例を挙げて「悪魔の世代」「ハードモード」と言われるのは妥当なのか、1つずつ検証していきます。

 まず「生まれた年に阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件」ですが、これは自分の生まれた年を言った時に高確率で言われることです。「1995年は日本にとって厄年だったね」と言う人もいるくらい、それほどこの年のイメージは2つの災害・事件の印象が強かったのでしょう。ただ前者は1月、後者は3月の出来事のため、1995年度生まれは誰も生まれていません。これから話すことはあくまで1995年4月2日から1996年4月1日生まれの人の話なので、生まれる前の出来事でどうこう言われても正直どうしようもありません。ただ1995年の印象というとこの2つの出来事を思い出す人が多いでしょうから、「阪神淡路の年」「サリンの年」と思うのも無理はないでしょう。
 次に「中学に入ったらリーマンショック」です。リーマンショックは2008年9月にアメリカの投資銀行リーマンブラザーズが経営破綻したこときっかけに起こった、世界的な大不況です。95年生まれはこの年の4月に中学校に入学しました。確かに中学の3年間はとにかく「不景気」という印象が強いです。リーマンショックのニュースを見て「サラリーマンみたい」と思ったり、麻生政権下での定額給付金、2009年の総選挙での政権交代で民主党が政権を取ってもずっと不景気で、漫然と漂う閉塞感を思い出します。
 3つ目の「中学を卒業したら東日本大震災」は、人によって捉え方は違うかもしれません。私は3月11日より前に卒業式を済ませていましたが、卒業式が中止になったり卒業式当日だった人もいることでしょう。そういった人達は折角のお祝いムードが台無しになったと感じたと思います。横浜在住だった私は震災翌日の3月12日に来年度から入学予定の高校の説明会があり、開催はされましたが余震が続いており、すぐ避難できるように土足で校舎に入る形になっていました。高校に入っても、地震・原発・放射能関連の話題はよく出ていました。横浜にいた私でさえこれだったので、東北地方の人達はより人生を一変させた災害だったのは間違いなく、卒業や進学に大きな影響があったことでしょう。
 2014年4月、大学に(浪人せずに)入学したら、今度は消費税率が5%から8%に上がりました。1989年から導入された消費税が3%から5%に増税されたのは1997年なので、95年生まれにとっては初めて消費増税を経験することと同じです。この年の4月1日はこの消費増税と大学初日ということで頭がいっぱいで、エイプリルフールなど考える余裕がなかったという記憶があります。増税で自身の購買動向に大きな影響があった訳ではありませんが、大学初日とかぶったことで、より忘れられない出来事になったのは事実です。
 2016年には国民投票によってイギリスのEU(欧州連合)離脱が決定的なものとなり、それに伴う経済混乱や不況が予想されました。95年生まれ(=2018年卒)は就活の開始を翌年の3月に控えており、不況により2018年卒の内定獲得は難航するものと予測されました。しかし、株価の変動等はあったものの大きな影響はなく、逆に今でも続く就活の「売り手市場」の風潮が始まったタイミングになりました。

 他にも95年生まれの特徴として「大学入学の年は広島県の豪雨があり、新卒1年目の年には大阪府北部地震があった」という記事を見かけましたが、日本では自然災害が多く発生しており、「〇〇の年に〇〇があった」というのはどの世代にも当てはまることです。上でお話ししたように人生の節目での大きな出来事で大なり小なり影響はありましたが、他の世代と比べて突出して大きな変化があった訳ではありません。「悪魔の世代」と呼ぶにはこれだけでは無理があると私は思いますが、95年生まれにしかない大きな特殊な事情が、1つあるのです。

「ゆとり」「ゆとり」と言われ続けて

 95年生まれはゆとり教育を受けたいわゆる「ゆとり世代」に当たります。ゆとり教育は、戦後の知識量重視の「詰め込み教育」から脱し、「ゆとりある教育」を目指して文部省と日本教職員組合を中心に進められた教育課程です。ゆとり教育仕様に改訂された学習指導要領は小学校・中学校では2002年度から始まり、2010年度までそれは続けられました。土日が完全に休みになるなど授業時間は減り、教科書は薄くなり、「総合学習」が新たに始まりました。知識量だけで勝負するのではなく「生きる力」を身につける学習指導要領に変わったわけですが、小学1年から中学3年まで、このゆとり教育を義務教育全てで受けた唯一の世代が1995年生まれなのです。確かに土曜日に授業があったことは一度もありませんし、指導要領から外れた台形の面積を求める公式や小数第二位以下を含む計算は、小学校では教えられるものの「発展的内容」として扱われました(ゆとり教育は円周率=3と教わったというデマが未だに信じられているのもそのせいです)。事実、小数第二位以下の計算がある問題は教科書に「電卓マーク」が付いていて、建前上は自分で学習しなくても良い扱いとなっていました(実際は全員手計算をしていましたが)。

 「スーパーゆとり世代」などと呼ばれる1995年生まれですが、この世代に限らず「ゆとり」は無気力で生意気な若者の代名詞として使われていました。『ゆとりですがなにか』というドラマもありましたが、「ゆとり世代の特徴」と検索してみると、叱られることに耐性がない・競争意識が低い・昇進や昇給への執着が低い・職場の付き合いを最優先にしない・仕事の指示待ちが多い・ITスキルが高いといったものが出てきます。
 労働環境については概ね正しいでしょう。これはゆとり世代の特徴というよりも、ゆとり世代「以降」の特徴と言ってもいいかもしれません。旧態依然とした日本の会社の風土や仕組みは肌が合わず、異議を唱えていったことで残業(サービス残業)の減少や労働時間や環境に関する法令遵守意識・モラル意識が高まっていったと感じています。「叱られることに耐性がない」という特徴も挙げられていますが、ゆとり世代が30歳前後になった現代、私はそれと同じくらいに「叱ることが嫌い」でもあると感じています。良くも悪くも他人に興味がなく人畜無害な世代であるため、相手に強く出ることも苦手であり嫌いなのです。
 ITスキルについては、今はスマホでほとんどが行える娯楽(動画投稿サイト・画像や動画の管理・ゲーム・その他ネットサーフィン)をパソコンで行なっていた世代なので、基本的なPCスキルは大抵の人は自然と身についているのです。ちなみにスマホの普及率がガラケーを上回ったのは2013年とされています。1995年生まれは高校3年生になっている年ですので、高校の情報の授業やプライベートで基本的なPCスキルをマスターした形になります。大学に進学すればレポートの提出や履修登録もPCで行なっていましたので、社会人になった時には、PCについては中級以上の機能を教わるだけで良かったのです。

 ただネットの世界に目を向けると、ゆとり世代は尋常じゃないほど叩かれていました。というのも、中学・高校辺りからネットサーフィンをしていたため、現在よく使われる表現で言えば目障りな「キッズ」として当時は認識されていたのでしょう。世間やネット上で何かあれば「これだからゆとりは」と言われ、「ゆとりは黙ってろ」「ゆとりには分からんだろうな」と目の敵にされていました。You Tubeが2005年、Twitterが2006年、ニコニコ動画が2007年に始まりましたが、ちょうどその頃に中高生だったのがゆとり世代なのです。今のZ世代の叩かれ方・嘲笑されっぷりを見ると、少し同情するものがあります。

同い年の有名人を見ると

 節目の年に大きな出来事があり、義務教育が全てゆとり教育に浸かった1995年生まれですが、この年に生まれた有名人は誰がいるのでしょうか。1995年4月2日~1996年4月1日に生まれた人達を挙げてみます。

森香澄(フリーアナウンサー)
馬場ふみか(モデル)
peco(モデル)
小倉唯(声優)
りゅうちぇる(モデル)
平岡卓(スノーボード選手)
松井裕樹(プロ野球選手)
井之脇海(俳優)
水瀬いのり(声優)
サーヤ(お笑い芸人)
桐生祥秀(陸上選手)
松丸亮吾(タレント)
生駒里奈(アイドル)
藤原さくら(ミュージシャン)
大原櫻子(ミュージシャン)
橋本愛(女優)
稲村亜美(タレント)
小松菜奈(女優)
ウルフ・アロン(柔道選手)

 2024年に29歳になる世代なので、各界で結果を出してそれなりの地位にいる方が多いです。1つ上に大谷翔平や羽生結弦がいるためやや地味に感じるかもしれませんが、まだまだこれから飛躍できる顔ぶれが揃っている印象です。悪い意味で有名になった人は今のところほとんどいないですし、大きな犯罪を犯した人もいません。「キレる17歳」と言われた世代もありましたが、犯罪絡みで95年生まれがとやかく言われることがないのは非常に良いことだと思います。

 何かとヤバいと言われがちな1995年生まれですが、冷静に分析すると他の年代生まれの人と比べて突出して特徴があるわけでもないように思えます。どの世代にも他の世代にはない特徴があり、良い所・悪い所があるものです。1995年生まれは社会的に見れば「若者」と呼ばれるギリギリの年齢ですので、これから色々なシーンで結果を残せたら良いなと思っています。

 


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