いつでもどこでも引き籠り(SS;2,100文字/エレクトロニック・ショート・ショート・カタログ)
《サナギ》を初めて目にしたのは、単身赴任先での1週間を終え、家に帰る新幹線の中だった。私は3人がけの中央席で、缶ビールをチビチビ飲んでいた。
右隣には学生らしき若者が座り、青年誌のヌードグラビアを見ながら、ヘッドフォンで音楽を聴いていた。左では、ちょいと太めの若い女が頻繁に煎餅を口に運びながら本を読んでいる。
右側のヌードグラビアはかなりきわどく、私は目玉が痛くなるほど無理に視線をねじ曲げていた。ところが、それを察知した若者は雑誌の向きを変えた。
(なんて心の狭いヤツだ!)
しかも、ヘッドフォンから音が洩れてくる。
「君い、もう少し音を抑えてくれないかな」
「はあ?」
若者は、一瞬、こちらを他の動物種を眺めるかのように見やった後、黙って目をそらし、足下から太い棍棒のようなものを取り出した。
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