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アニマル・ボディー・ランゲージ(SS;2,700文字/エレクトロニック・ショート・ショート・カタログ)

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 新入社員が私の課に配属された。
 犬飼というその男は、仕事はきちんとこなすのだが、どうも存在感に乏しかった。そればかりか、彼と話しているうちにこちらまで活力を失っていくような気がするのだ。
 犬飼を観察しているうちにその理由がわかってきた。

「なあ、君」
 終業後に彼を酒場に誘った私は言った。
「これは僕の思い過ごしかもしれへんけど、なんか君、表情に乏しいような気がするなあ。ほら昨日、君がええ企画出したんで僕がみんなの前で誉めたやろ? もっと喜ぶかと思うたんやけど、君、『あ、どうも』て言うたきり下向いていたやん。ま、照れてたんかもしれへんけど、誉めた方としてみい、何や張り合いないで、いや、君がホンマにうれしかったなら、みんなにわかるように喜んでくれると、こっちも誉め甲斐があった、て思うわけや」
「はあ。課長さんのおっしゃること、わかります」
 犬飼はやはり無表情のまま、そう言って頭を下げた。
「あの時は僕、うれしかった、気がします」
「ほうか。安心したで」
「今後、心して気をつけます」
 私はあわてて手を振った。
「いや、別に気ィ付けえ言うてるんやないで。僕が言いたかったんは、自然体でやってくれ、ちゅう事や。自分の気持ちをそのまんま、みんなにわかるように表現してくれた方が、課の連中にも受け入れられるんやないかな」
 翌朝、犬飼は私用で会社を休むと電話をかけてきた。
(少し言い過ぎたかな……)
 私は、整頓が行き届いた、彼自身と同じくらい無表情な机を見やった。

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