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東京という《病》

所用があり、東京に行ってきた。

都知事選挙の巨大なポスター掲示板を見かけたが、べニア板だろうかそこに貼られているポスターは10に満たなかった。
ちなみに、『veneer』という英単語には、『張り板(=べニア板)』という不可算名詞と共に、『虚飾/見せかけ』という意味の可算名詞もある。

立候補者の資質や動機に関して批判があるようだが、それは東京特有の問題ではない。暴露系ユーチューバーが参議院議員に当選したことからも明らかなように、国全体の問題であり、東京知事選がショーケースになり易いだけのこと。

JR駅構内のスーパーは混みあっており、かつ客はみな先を急ぎ、その中をよろよろと杖をついた高齢者が突き飛ばされないよう慎重に歩いていた。狭いためショッピングカートは置いておらず、杖突き老人はもちろん、幼い子供連れもバスケットを手にの買い物は苦行に見える。

駅を出て目的地に向かうと、すぐに狭く曲がりくねった住宅街に入る。
子供を保育園に送り届けるのであろう、自転車が相当なスピードで駆け抜ける。一時停止標識などで止まってなどいられない。ここを学童も通り学校に行く。
その狭い道にタクシーが入ってきたので塀際に避ける。さすがに慎重に運転しているが、いや、その道には普通サイズの消防車は絶対入って来れないだろう。
稀に廃墟のような建物もある ── 相続問題が片付かないのだろう、狭い土地でも巨額だろうから。そもそも、この廃墟を解体することになれば、小さな重機と小型トラックを駆使しないといけないだろうな、と想像する。
こんな状態で大地震でも起こったら大変だ、と改めて思う。

一方でタワーマンションがそびえる地区もある。あの頂上まで水道水を送り届けるには相当なエネルギーが要るだろう、と仰ぎ見る。

都知事選立候補者が訴える政策を眺めると、共通しているものが多い。
・災害対策
・子供政策/少子化対策
・都市計画
・高齢化対策
などなど。

災害対策は急務だろうが、あのごちゃごちゃとした住宅街に消防車が通れる広く直線的な道路を通すだけでたいへんだろう。田舎で田畑を少々削るのとは大違いだ。何せかなりの利権保有者がひしめいているのだから。
日本全体の食糧需給がよく議論されるが、東京という都市の食糧需給も災害対策の一環として考えた方がいい。物価高の紹介で都内食料品店がニュースに出るが、膨大な量の食料を狭い地域に運び入れていることには決して触れない。

子供問題は、出産費用、保育園問題、給食費、そこまでは議論されるが、平均収入の家庭で住居内に小学校高学年ぐらいに成長した子供のスペースを確保するのはたいへんだ。思春期になればなおさらだろう。
そこまで想像して子供の数を考える人もいるだろう。

高齢者問題も共通点がある ── 東京では高齢者問題は介護よりむしろ住居かもしれない。

おそらくは相当ノー天気な候補者でもない限り、みんなわかっている。
東京の問題は東京に人が多すぎることであり、この国が首都圏一極集中であることなのだ。

けれど例えば、比較的合理的思考をする石原慎太郎でさえ、首都機能移転には大反対した。いや、合理的思考 ── その『合理』とはかなり狭く短期的視野での『合理』であるが ── ゆえの大反対だったかもしれない。
政権与党もかつて『首都機能移転』を公約としたが、ほとんど進んでいない。

『一極集中』こそが東京と、東京に住み働く人たちの『利権』の源である、と上から下まで信じているからだ。

地方で選ばれた国会議員もその多くが家族と共に東京に住む。若者が地方から上京して東京の大学に入り、中央官僚として勤め上げた後も故郷に帰ることはない。

個人だけではない。
地方で興った企業も、ある規模になるとその多くが『ステイタスを求めて』東京に本社を構える。
その結果、東京に多額の法人税が落ち、東京都の財政は異例の豊かさを誇っている。

── 人が多すぎる
それが東京という都市の《病》であり、その《病根》は、
── 一極集中
にある。

その一方で、
── 地方創生
と政権与党も野党も合唱するのは滑稽ですらある。

明治の初め、最も人口の多い府県は新潟だった。
その頃は人口を支える食料生産が鍵だったからである。

東京には、皇居もあり、中央政府も、国会も、大手マスメディアも、娯楽番組制作機能もある。主要な大学もその大学に進学する中高一貫校もある。何より多くの巨大企業の本社がある。

多くの《機能》を一手に引き受けたがために、《ヒト》という栄養をどんどん貯め込み、貯め込み過ぎて《病》にかかっているのではないか?
でも、その栄養の取り込み自体が快楽でもあり、都知事選候補者はみな、栄養を控えて根本治療する道ではなく、ひたすら対症療法的政策を訴えている。

機能を減らし、人口を減らし、地価を下げ、その上で候補者の皆さんが訴える政策を迅速に進めようではありませんか?

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