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携帯キッス(SS;2,200文字/エレクトロニック・ショート・ショート・カタログ)

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「もう! いつもいつもアタシにべたべたまとわりつかないでよ!」
 妻が爆発したのは、見合い結婚からわずか2ヶ月後のことだった。
「ええ? べたべた? だって、好きなんだもん」

 長い、長い、このまま老後を迎えるのかと一時は覚悟したほど、途方もなく長い独身生活を経た後に得た伴侶である。確かに密着度は、ちょいとばかり高かったかもしれない。
 朝起きてすぐ、朝食支度のさなかに、顔を洗ってから、ごちそう様の後で、トイレを出て直ちに、歯を磨いたらもちろん、そして玄関で家を出る際には必ず、私はかわいい妻を抱きしめ、キスをした。
 彼女もそれを喜んでくれるものだと、信じていたのだ。

「もう! アンタと暮らしていたら、唇がタラコみたいに腫れあがってしまうわ!」
 そう言い捨てると、妻は家を出て行った。

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