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この地の人びとの、鯱(しゃちほこ)への《偏愛》を語る

定期検診のため、久しぶりに地下鉄に乗りました。
彼 or 彼女のポスターにも久しぶりに会った。
そう、名古屋市交通局のゆるキャラ、《ハッチー》です。

「魚人」というが、よく見れば不思議な体構造を持つ《ハッチ―》

ハッチー基礎データ
性別:不明
年齢:不明
所属:名古屋市交通局
性格:まじめで時間に正確
種別:魚人一体型キャラ

https://www.kotsu.city.nagoya.jp/jp/pc/ENJOY/TRP0000646.htm

名前の由来は間違いなく、名古屋の「市章」である「丸八」マークから来ている。

なんて単純なデザインだろうか!

そして、このマークの由来は、
➀ 尾張藩の略章として、小使提灯、小者用の紋所、小荷駄などに使用されていた《丸八印》。
➁ 「末広がり」でめでたい!

マンホールの蓋にも「丸八」!

私は一市民として長らく、この単純かつ「ダサい」デザインを恥ずかしく思っていたが、不思議なことに近頃は愛着をおぼえている。
むしろ、極限まで「虚飾」を削ぎ落とした、
《Best Simple》
では?……とまで。

プロサッカーチーム「名古屋グランパスエイト」の『エイト』もこの「丸八」由来であーる。

いや、今回は「丸八」は脇役、主役はハッチ―の頭部、魚人の「魚」部分である。
これは当然、誰がどう見ても、
《金シャチ》です!

修復を終え、名古屋城に戻された
うろこひとつでもかなり大きい

この街・名古屋の住人によるしゃちほこ」への《偏愛》はかなり激しく、他所者よそモンの想像をはるかに超える。

私は名古屋市立の小学校から中学、そして市内の県立高校を卒業したが、小学校と高校の校章にはシャチがデザインされていた

数年前にその小学校のグラウンドで創立ウン周年を記念した学童による人文字作成&航空写真写真撮影が行われたそうですが、人文字のデザインは、ウン周年の数字と向かい合った2頭のシャチの絵、ただそれだけでした。

卒業した高校は、校章が2頭のシャチであるばかりか、このマークが、例えば野球部のユニフォームにもデザインされており、いまや「ダサさを通り越した斬新さ」で、夏の県大会のたびに(勝てば…)注目される
(旧制中学時代も基本的に同じデザインで、1度だけ夏の大会で全国優勝している!)

ユニフォームの胸で、鯱が睨み合っている!

そればかりか、体育館の名称は「鯱光ここう館」!
こいつらみんな、どこまでシャチが好きなんだ!という話です。

ここまで来たら、高校卒業後は金城学園大学、に進むべきところですが、当時は「金城女学園」だったのでそうはいかない。
ただし、金城学園の校章デザインは十字架で、そこにシャチはいません。

でも、名城大学の校章にはちゃんと鎮座しています。

名城大学校章には金シャチ二頭

ちなみに、1936年から1940年までの間、この地には
《名古屋金鯱きんこ軍》
というプロ野球団があり、1936年2月9日に(当時は)名古屋郊外の鳴海球場で行われた、
名古屋金鯱軍 対 東京巨人軍
日本初のプロ野球球団間の試合であり、既に巨人軍の大エースだった沢村栄治をノックアウトした金鯱軍が10-3で勝利しました。

つまり、

日本のプロ野球史上初勝利は、《金シャチ》がもぎ取った

という次第です!

鯱もなか」や「金しゃちパイ」のような土産物には驚きませんが、海老の天ぷらやエビフライをシャチに見立てたメニューには脱帽です。

山本屋総本家「金シャチアクション煮込うどん」

こんな《お座敷芸》もあるようです。
トライしてみたいけれど、かなりの訓練が要りそうですな。

さらに、東京の「はとバス」に相当する観光バスは、当然シャチバス」

正面に「金シャチ」マーク

名古屋市が発行するプレミアム付き商品券の電子マネーはもちろん、金シャチマネー

スーパースター「金シャチ」に何から何まで頼り過ぎでは?
名古屋城のお堀沿い「金シャチ横丁」にはもちろん……。

それにしても、なぜこの地では、ここまで「金シャチ」がスーパースターなのだろうか?

名古屋城の天守閣に金の鯱が備え付けられたのは1612年、尾張徳川家の権威を誇示するためだったようです。
東海道を行く旅人も、
「天下様でもかなわぬものは 金のしゃちほこ あまざらし」
と、金鯱をあまざらしにする尾張藩の豪気を称えたそうです。

この後は私の個人的な感想ですが:
信長・秀吉を輩出した尾張の民は、徳川御三家といえども、「郷土のヒーロー」の後釜を占めた三河人・家康の間接的支配に対して、けっこう複雑な心境だったのではないでしょうか。
上記の「天下様でも…」というあたりに、
《三河の田舎モンが大挙して移り住んだ江戸には、負けとれせんがね!》
というような心意気ではないでしょうか。
(いや、……私が田舎モンと思っているわけではなく……)

まあしかし、何であれ、ひとつの象徴への過度な依存は危険でもあります(ほぼ独裁の某国を見ても瞭然ですね)。

名古屋港水族館は第2期開館の目玉として、シャチ(Killer whale)の導入にこだわり、無理をしたのに間に合わなかったり大金を費やしたりと、いろいろ物議を醸しました。
「金シャチ」信仰がなければ、あれほど無理をすることもなかったのではないでしょうか。

そもそも、これ(Killer whale)は:

天守閣に載ってるシャチじゃないし……。

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