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フィルターにかければ(SS;2,500文字/エレクトロニック・ショート・ショート・カタログ)note初公開

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「ねえ、あなた、聞いてよ、お向かいの奥さんったら、あんないい年して、花柄のついた真っ赤なワンピース着てスーパーに来てるのよ……」
 また始まった。そんなこと、どうでもいいじゃないか。
「……ほう、……そりゃそりゃ」
「今日、お義母さんから電話があってね、嫌味じゃないかしら ── こんなこと言うのよ……」
 もう、勘弁してくれよ。こっちは疲れてるのに。
「……へえ、そうかい」
「そうしたらね、PTAの委員やらないかって誘われちゃったの。だから……」
 おいおい、うるさくてニュースが聞こえないじゃないか。
「……ふうん、なるほどねえ」

  結婚当初は妻のくだらない繰り言も可愛く聞こえた。今から考えれば魔法か呪いにかかっていたとしか思えないその時期が過ぎると、よく喧嘩になった。

「おい、いいかげんにしろ! よくもまあ、それだけ意味のない御託を並べられるもんだな!」
「ちっとは黙れ! 野球見てるんだぞ! 解説者よりでかい声でわめくな! 何言ってるか、全然聞こえないじゃないか!」

 しかし、やがて私は徒労を悟った。いくら文句を言っても、妻の愚痴が激しくなることはあっても治まることはなく、それどころか事態を悪化させるばかりだった。

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