見出し画像

回帰の館(SS;2,100文字/エレクトロニック・ショート・ショート・カタログ)

マガジン「エレクトロニック・ショート・ショート・カタログ」を購読していただければ、ワンコインで本作を含む(毎週投稿&最終的に)30作品以上が読み放題となります。


 その場所で特に非合法のサービスが行われているわけではない。しかし『回帰のやかた』は、一般に広告を出すことなどない会員制クラブだった。
 客は辺りの人目を気にしながら館に入る。
 結構金のかかる道楽だが、10日ほども間があくと、もう我慢できなくなってしまう。今日も妻に内緒で来てしまった。

 無人の受付で会員証をかざし、ロッカールームに入ると、もう5,6人の先客が着替えを始めていた。
 みな、組織の中で疲弊したビジネスマンだろう、くたびれた動作で、けれど明るい表情で背広を脱ぎ、ネクタイを外している。
 私も専用ロッカーを開け、洗い立てのコスチュームを取り出した。タオル地の『ツナギ』に顔をうずめる……。
(ああ、いいなあ、この匂いと肌ざわり!)
 私の横では、もう着替えを済ませた50がらみの男が、ロッカーを閉め、よつんばいになって部屋を出て行った。私も急いで『ベビー服』を着ると、『ハイハイ』しながら廊下を通り、『RTBの間』に出た。

ここから先は

1,724字
この記事のみ ¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?