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ポケットにいつも君を(SS;2,100文字/エレクトロニック・ショート・ショート・カタログ)

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 アラブ富豪とのきわめて難しい商談を終えた後、車に乗り込むとほとんど同時に、彼は背広の内ポケットに手を入れた。取り出した手の中には、身長10センチほどの人形があった。
「ああ、カズミ、今日は参ったよ。手ごわい相手でさ、本当に疲れた。キミはどうしてた? 日本は今、夜だね? もうお風呂には入ったかい? 」
 つぶやきながら、彼は両のてのひらに人形を横たえ、身体のあちこちを指でつまんだり押したりする。人形は毛糸で作った栗色の髪を肩まで垂らしている。しかし、ドレスではなく、黒いボディースーツのような服を着せられており、彼はどうやらそのスーツのあちこちに触れているようだった。
「風呂上がりにも、ちゃんと僕の言いつけを守っているだろうね?」
 彼は人形に頬ずりしながら言った。
 運転手はルームミラーに映るその姿を気味悪そうに盗み見た。

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