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み 「みかん」

僕は愛知県蒲郡市というところで生まれた。母親の生家がある(今は跡地だ)。蒲郡というところは人口7万人の小さな街で、特に何もない。三谷温泉という温泉街があるが廃れてきている。ラグーナ蒲郡というテーマパークが20年前にできて、それなりに頑張ってはいる。あと、小さな港があったり海岸があったり、競艇場があったりする。海と山に挟まれた細長い土地に、実はいろんなものがある。

蒲郡は「みかん」でも有名だ。「蒲郡みかん」。愛媛や宮崎はもちろん有名だが、愛知の蒲郡や静岡の三ヶ日もまたみかんの産地で、かなり味が良いことはあまり知られていない。今でも毎年冬に、母が段ボールで蒲郡みかんを送ってくれる。子どもがいるので今はけっこうすぐに食べ終わる。子どもは美味しいみかんを毎年食べている。他と比較参照したことがあまりないけれど、スーパーのものと比べると段違いに美味い。皮が薄くて、甘みが強くて、瑞々しい。太陽を食べているようだ。

幼い頃、「豊橋のおばあちゃん家」と「蒲郡のおじいちゃん家」という表現が我が家にはあった。父の実家が豊橋にあり、母の実家は蒲郡にあったのだ。父方の祖父と母方の祖母は僕が小学校低学年のときには他界していたので、そういう呼び方になった。豊橋のおばあちゃん家で正月を過ごすときには「こたつみかん紅白歌合戦」という、日本人に典型的な過ごし方をした。僕の家にはこたつはなかったから、あの状況が嬉しくて今でも覚えている。今になって考えれば、あのときに食べまくっていたみかんは、母の父親(おじいちゃん)が、毎年、父の母親(おばあちゃん)に、お歳暮的に送っていたのものだと思われる。

おばあちゃん家で正月に、お手玉を教えてもらった。僕はみかんでお手玉ができるようになり、最後は片手で二つを扱えるようにまでなった。今でもその技術は残っている。披露する場所や状況はどこにもないが。「みかん」って庶民だ。りんごも庶民だが、りんごよりさらに庶民だ。いちごはお高くとまっている。マンゴーやシャインマスカットは貴族だ。人から「別になくてもいいけど、あれば食うよ」と言われ、お手玉にされても嫌な顔ひとつせず、人に太陽の香りとビタミンCを供給し続けるみかんを僕は尊いと思う。「雨ニモ負ケズ」じゃないけど、そういう存在に私はなりたい。


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