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ハチミツ二郎の自伝


いいか、ひな壇と短いネタは、絶対やるなよ
―――ビートたけし(『マイ・ウェイ』ハチミツ二郎 142頁)


▼▼▼図書館の効用▼▼▼

正月明けから、すごい本を読んだ。
お笑いコンビ・東京ダイナマイトのハチミツ二郎さんの、
『マイ・ウェイ』。

なんか、面白い本だという噂は聞いていて、
図書館に予約したのが昨年夏頃。
数十人待ちの予約があって、
半年後に「用意できました」のメールが。
年明けに図書館の出張所に取りに行く。

僕は図書館のヘビーユーザーで、
多い年だと年間100万円分近くの本を借りる。
本だけで払った税金のほとんどを「取り返している」。

これを読んで、
「そうか。オレも本を借りまくれば税金を取り戻せる」
というのは間違いだ。
年間300冊読めるなら良いけど、
「取り返している」というのは本から得る効用の話であって、
価格の話ではない。

効用と価格は違う。

ここが分かっていない人が、
食べ放題で「元を取った」とか、
意味のわからないことを言い出す。
「原価率」とか言い出す。

店に損をさせたことと、
あなたが満足したことの間に何の相関もない。
ブッフェで皿にとったのが全部乾いたスパゲティでも、
あなたが満足すればそれで良いのだ。
全部ローストビーフでも、
あなたが満足しなければそれは得したことにならない。

効用と価格は違うのだ。

人間を幸せにするのはいつも効用であって、
価格ではない。
(『お金の向こうに人がいる』田内学より)

目の玉が「YENマーク」になってる、
万物の尺度がお金になっちゃった人を、
昭和の時代には軽蔑する良識が世間にはあったが、
今の「コスパ・タイパ・時短・節約・損得」の世の中で、
YENマーク人間のほうが大多数になり、
効用と価格の話をする必要が出てきた。

黒板五郎さんに再び登場願わねばならない。
「幸せだけを見ろ。
 金なんて求めるな。」

、、、話を戻す。

僕は公共図書館で、
あえて金額に換算するなら、
年間100万円近い「効用」を得ている。
それは教養・知識・将来の飯の種・技術
純粋な楽しみ・幸福な読書体験・友人との豊かな対話etc.
といった無形の資産となって、
僕の内側とEvernoteに蓄えられていく。

そのうちの1冊の、
『マイ・ウェイ』の話をこれからしようとしている。


▼▼▼岡山県立倉敷南中学校▼▼▼


『マイ・ウェイ』はすごい本だった。
ページをめくる手が止まらず、
2日間で一気に読んだ。

まず、前に誰かから聞いていた可能性もあるが、
この本を読んで初めてはっきり認識したことがいくつかある。

ハチミツ二郎さんは、
僕と同じ中学校の出身で、
1974年生まれの彼は、
僕が中学に入学する年の前年まで同じ中学に在籍していた。
1つ上の僕の姉が中学1年生のとき、
ハチミツ二郎さんは中学3年生の在校生だった。
中学3年生の担任はたいてい、
翌年に1年生の担任になり、
その後持ち上がり、、、
というケースは多いので、
僕の中学1年生のときの恩師の岸田先生(通称きっさん)は、
ハチミツ二郎を担当していた可能性がある。
きっさんはもうこの世にいないから、
確かめようもないのだが。

とはいえハチミツ二郎さんは札付きのワルで、
中学3年の1年間は2日しか学校に行かなかった、
って『マイ・ウェイ』に書いてあるから、
たぶん僕の姉もハチミツ二郎さんを学校で見かけてはいないだろうな。
きっさんは「札付きのワル担当」だったから、
ハチミツ二郎さんの実家にいって、
お母さんと相談ぐらいはしていたかもしれないけれど。

ちなみにその中学の名は、
岡山県立倉敷南中学校。
今はどうか知りませんが、
当時はとんでもなく荒れていた。

ここ数年、年に二回、
僕はこの倉敷南中学校時代の同級生3人と、
「Zoom飲み会」をしている。
それぞれ関東にいたり関西にいたりアメリカにいたり、
それもまた転勤で変わったりと流動的だが、
僕を含むこの4人の共通点は、
倉敷南中学校出身だが、
今は岡山に住んでいないという点だ。

僕を含む4人のうち3人は実家が岡山になく、
岡山は思春期を過ごした「通過点」なのだが、
魂の一部が岡山に残っているから、
Zoomで倉敷南中学校の担任のきっさんの話や、
水島臨海鉄道の話や、
蒜山ジャージーヨーグルトの話や、
鷲羽山ハイランドの話をしては、
「バーチャル帰郷」を味わっている。

親が転勤族だったりして、
「地元」がない人間は、
こんな風にして「故郷」を複数持つ。
僕にとっては岡山、北海道、愛知が、
そんなバーチャル故郷になっている。
「故郷のポートフォリオ」だ。


▼▼▼ハチミツ二郎さんにボコられていたかもしれない▼▼▼


ハチミツ二郎さんの話に戻ろう。

僕はだから、小学6年生のとき、
調子にのって倉敷南中学校の前でぶらぶら遊んでいたら、
ハチミツ二郎先輩と肩がぶつかって
ボコボコにされていたかもしれないのだ。

途端に親近感がわいた(何故!)

でも、肩がぶつかってボコボコ、
の部分はフィクションではない。
本当に倉敷や水島はそんな街だったのだ。
ブルックリンみたいなものだ。
よく死なずに生き延びたものだ、と今は思う。
僕は運が良かったのだ。

街を歩いていると理不尽な形でヤンキーにお金を奪われるから、
お札は財布ではなく常に靴の中敷きの下に入れていたし、
倉敷南中学校のクラスでの会話は、
「3組の○○が、
 4組の××に、
 昨日ボコられたらしいよ」
「え、マジで、
 じゃあ1組の△△は、
 4組の××を今度ヤるってこと?」

映画「仁義なき戦い」の会話ではない。
中学生の掃除時間の会話だ。
僕たちは毎週読んでるジャンプの『ろくでなしブルース』と、
現実の区別がつかなくなっていった。


▼▼▼岡山の漢の美学▼▼▼


そんな我が愛する母校、
倉敷南中学校のハチミツ二郎先輩の本は、
本当にとんでもなかった。

この本をひとことで形容するのは難しい。
僕はわりと頻繁に芸人さんが書いた本を読むが、
その中で、頭一つ抜けている面白さだった。
「芸人本」とくくらないほうが良い。
ひとりの男の、いや漢の、
魂の彷徨、とでも言ったら良いだろうか。

魂が震えるような熱い生き様の本であり、
それでいて、テレビ越しにも伝わる、
彼の目の奥の底知れぬ悲しさ、哀愁の入り交じった、
今までにないジャンルの本だった。

倉敷×芸人×プロレス×ビートたけし×吉本×闘病×家族愛×離婚×……

という、リストが延々と続く、
もうノージャンルもいいとこ。
これはいったい何を読まされているんだ、
と思いながらページをめくる手が止まらない。

とことん悲しく、
でもとことん楽しく、
そして「かっこいい」。

そう。

岡山の男はかっこいいのだ。
岡山の男は「漢」なのだ。

これは僕が岡山を離れてから約30年経った今、
やっと言語化できるようになってきたことなのだが、
岡山の男は「かっこいい」。

いや「かっこいいかどうかを何より重視する」という意味で、
メタ的に格好いい。
その格好良さは、
外見的なルックの話ではない。

生き様の「美学」みたいなところで格好いい。

要領よくスマートにポジション取りをする。
これはかっこ悪い。
不器用に正面衝突して砕け散る。
これは格好良い。

メンズエステにも通い女の子にキャーキャー言われる。
これはかっこ悪い。
無骨な出で立ちでタバコを吹かしダチと酔い潰れる。
これは格好良い。

本当に言語化するのは難しいのだが、
こういったほうがわかりやすいかもしれない。

千鳥の大悟は格好良いが、
あれは岡山の格好良さだ。

クロマニヨンズの甲本ヒロトは
日本の歴史で一番格好良い(異論は認めない)が、
あれも岡山の格好良さだ。

ウエストランドの井口のノーガード悪口は格好良いが、
あれも岡山の格好良さだ。

千鳥もヒロトも井口も岡山出身だ。

どことなく、
ビートたけしのような、
東京で言えば下町的な、
「粋」の文化にも通ずる、
無骨で酔狂なかっこよさに、
岡山の「漢」たちは憧れる。

ハチミツ二郎さんはだからビートたけしに師事した。
そのあとオフィス北野の事務所の社員がクズだと気づいたとき、
誰よりも早く離脱し、吉本興業に移籍した。
彼は「格好良い」から、
その格好良さに惹かれて、
数多くの芸人たちが彼のもとに集う。
今では日本一の売れっ子だが、
サンドウィッチマンの伊達ちゃんは彼の弟分だし、
猫ひろしや、タイムマシーン3号の関太は、
彼が芸名を名付けた。

ハチミツ二郎さんは岡山の漢の格好良さを身にまとっている。

こんな僕も、
自分の中に岡山県人が住んでいるから、
心のどこかで「漢」でありたいと思っている。
「かっこつけマン」なのだ。

でもその格好良さは何度も言うけど、
ジャニーズ的な格好良さとか、
若手イケメン俳優的な格好良さとは異なる。
あくまで「男がしびれるような格好良さ」であって、
女子にキャーキャーいわれるような格好良さではない。

長渕剛であり、
甲本ヒロト(岡山出身)であり、
ビートたけしであり、
オダギリジョー(岡山出身)なのだ。
(長渕とたけしは岡山にゆかりはないが、
 オレ調べでは、岡山の漢にはこの二人のファンが多い。)

女性ファンより男性ファンが多いのが、
多分、岡山の漢の格好良さなのだ。

そして男というのは大抵、
女性よりIQが低い(偏見)。
これは偏見だけど、以下のようなネット画像を見ると、
確かに男はIQが低い、と納得する。

▼参考リンク:男女のIQ
https://bit.ly/3GAPhXi

、、、とにかく、
岡山の漢はバカだ。

「細く長く生きる」より、
「太く短く生きる」ほうが、
格好良いと思っている。

バカだから。

そして不器用に、
あくまで不器用に、
政治的に立ち振る舞うことを潔しとせず、
真正面からぶつかって砕け散る。

生き物として、
これほど愛おしい存在があろうか。

可愛いじゃないか。
抱きしめてあげたくなるじゃないか。
愛すべき「かっこつけ男」たちに贈る、
人生賛歌。

これがハチミツ二郎の『マイ・ウェイ』だ。

マジで凄い本を読んだ。

終わり。

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参考文献および資料
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・『マイ・ウェイ』ハチミツ二郎
・『お金の向こうに人がいる』田内学



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