面白い推理だね探偵さん、あなたは作家になったほうがいいよ 5

最終回です。

残る作者は、Takemanさんと、鈴木無音さんです。

最初にTakemanさんから行きます。
Takemanさんは、貞久萬のペンネームでいくつかの作品を発表されています。

ナイトウォーカー
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19770725

貞久萬短篇集
https://losemind.hamazo.tv/e9606953.html

六枚道場参加作品
https://www.still-blue.com/sixdojo/

Tamamann先生のからあげホラー
https://note.com/stillblue/n/ne45a245b9df8?magazine_key=med7bf10ad92c

ぼくが特に好きな作品は、この二作。
「空白」
https://note.com/stillblue/n/n413b8b2a9757?magazine_key=med7bf10ad92c

「072 3分49秒間だけの魔法  貞久萬」※すみません072まで遡ってください、こっちのバージョンが好きなので。
https://note.com/p_and_w_books/n/n230fa82a3544

Takemanさんの作品は、ストレートなようで変化球、変化球のようで強めの真っ直ぐ、みたいなところがあります。
つまり、つかみどころがない、変幻自在なへそ曲がり、だと思っていたらストレートが飛んでくる。
手に負えません。
ということで、手に負えない作品を探せばいいことになります(推理じゃない)。

ぼくの推理がこれまで当たっていると仮定するならば、残っているのは六作品。
「あの星が見えているか」
「マジック・ボール」
「勝ち負けのあるところ」
「プシュケーの海」
「ベントラ、ボール、ベントラ」
「城南小学校運動会午後の部『マルチバース借り物競走』」

「マジック・ボール」とか、「城南小学校運動会午後の部『マルチバース借り物競走』」みたいなわかりやすく、面白い作品を書くようなタイプではないと思うんですよね。直球過ぎるというか。
「あの星が見えているか」は、わりと変化球なのでありそうな気もする。
「勝ち負けのあるところ」はなさそうな気がする。宇宙人の描写にもっと凝っていると思うんですよね。
「ベントラ、ボール、ベントラ」は文章が一階堂さんタイプなので、特殊なんですよね。長い文章で描写したら、短い文章で内心を表現したりするものですが、一階堂さんタイプの文章だと、長い文章で描写して、短い文章で学術的で抽象的なことを書く。だから、短い文章で笑いを持ってくるTakemanさんとはちょっと違うかなー。
「プシュケーの海」がぼくの持っているTakemanさんのイメージにはぴったり合います。
変化球っぽいのに、真っ直ぐなところもあって。「わたし」という一人称を用いたハードボイルドっぽい文章もそうだし(〝人間相手は苦手だ。動物のほうがはるかに付き合いやすい。〟とか、まさにハードボイルド小説に出てくる人のセリフみたいだ)、なにより、

ベンジャミン・リベットの実験にもとづく意識受動仮説によれば、意識が行動を決定させるのではなく、意識は意識以外の部分で決定された行動を認識するだけの仕組みでしかない。メイビスに埋め込んであるインプラントが処理した情報をツグミのインプラントに通信し、それをツグミの脳にバイパスする。受け取ったメイビスの情報をツグミの意識は自分の意思で決定した結果だと認識できるかもしれない。そうすればツグミはメイビスとなって自由に泳ぐことができる。

「プシュケーの海」より

ベンジャミン・リベットの意識受動仮説を使ってこんなアイディアにまとめるような変人はTakemanさんであって欲しいという、ぼくの勝手な幻想によります。推理ではないです。
他は外してもかまわない。ですので、これだけは当たって欲しい。

「プシュケーの海」を書いたのは、貞久萬ことTakemanさんです。
プシュケーの海 | VG+ (バゴプラ) (virtualgorillaplus.com)

Takemanさんは地域SFとして話題の『新潟SFアンソロジー「the power of N」』にも参加なさっています。
https://booth.pm/ja/items/4796588


ということで、ラストは、鈴木無音さんです。

鈴木無音さんは、『京都SFアンソロジー』収録の「聖地と呼ばれる町で」を発表なさっています。

……こちらにある情報は以上です。
無理、無理ですって、これだけで推理するのは。

ちなみに残りは五作品。
「マジック・ボール」
「あの星が見えているか」
「勝ち負けのあるところ」
「ベントラ、ボール、ベントラ」
「城南小学校運動会午後の部『マルチバース借り物競走』」

除外できるとしたら、「城南小学校運動会午後の部『マルチバース借り物競走』」くらい? これすら除外してもいいものかどうか。

他に情報があるとすると、参加表明されたブログですね。
ご無沙汰しております
https://suzukibuin.hatenablog.com/

ここで鈴木無音さん、小説の書き方を公開していらっしゃいます。
そして、「プロットの作り方は毎回忘れてしまうので、こちらを読み返してます」と、これを紹介していらっしゃいます。
https://note.com/poplar_jidousho/n/n0c193a381ea9

最初のほうに、こう書いてあります。

ハリウッド映画では最初の15分で<だれが・どこで・なにをする>という主人公の目的を見る人に明確に伝えて、観客の心をひきつけているということを学びました。

〈「かいけつゾロリ」🦊の原ゆたか流 物語のつくりかた〉より

映画が二時間だとすると、最初の十五分は八分の一。四〇〇〇字に換算すると五〇〇文字。ということは、最初の五〇〇字に「<だれが・どこで・なにをする>という主人公の目的を見る人に明確に伝えて、観客の心をひきつけ」るように書かれているのではないか。

では、残った作品の最初の五〇〇文字がどこまでになるか読んでみました。

「マジック・ボール」はたぶんこれからベースボールをやるんだろう、と思えるところで五〇〇文字に達します。
「あの星が見えているか」は、競視という競技のディテールで五〇〇文字に達します。
「勝ち負けのあるところ」は、主人公が女子プロレスラーで、「弱っちい私をお客さんはけっこうちゃんと馬鹿にして」という言葉で、主人公の苦しみを明確にしたところで五〇〇文字に達します。
「ベントラ、ボール、ベントラ」は、〈タムタムは、オリエの迂闊さを笑った〉ところで、だいたい五〇〇文字。
「城南小学校運動会午後の部『マルチバース借り物競走』」は、〈さて、この借り物競走ではそのアイテムを手に入れる方法が少しだけ〉で、五〇〇文字に達します。

これは作品の質ではなく、あくまでも最初の五〇〇字でプロットのお手本とした約束事と、同じように書いてあるかどうかです。
どの作品が、最初の五〇〇字で、「<だれが・どこで・なにをする>という主人公の目的を見る人に明確に伝えて、観客の心をひきつけ」るように書かれているか。
もちろん、世の中にはハリウッド映画方式ではなく文学的な作品を目指す場合もあります。だからあくまでも鈴木無音さんがどの作品を書いたのかを探るための五〇〇文字判定なわけです。
で、この方法だと、「勝ち負けのあるところ」が鈴木無音さんの作品っぽいです。

ただこれも決め手とは言えないので、他にも何かないか、ブログを読んでみます。

ん?

んん?

なんということでしょう、この期に及んで大発見がありました。
こちらに鈴木無音さんの作品がいくつかあることがわかりました。
https://www.pixiv.net/users/31437797/novels

読みます、読みますとも、ええ。

さて、読んできました。
なんていうか、「聖地と呼ばれる町で」とは文体ががらっと違う作品が多くて、マジでびっくりしました。
いくつか読んだ中で、好きだったのは、

群青色の夜
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14251595

こたつにみかん
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14453957

アイスクリームおばけの憂鬱
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19325775

九年前で待ってみる
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19992137

の四作。多いですが、全部面白かったのでしかたない。
読んでみた感じ、やはり文章やテーマの苦さ、それでいて明るい感じを与える雰囲気などから考えると「勝ち負けのあるところ」かなあという感じです。
シスターフッドという点から考えると、「マジック・ボール」もありそうだけど、タイムトラベルものとして考えたとき、「九年前で待ってみる」のような複雑な話を書くような人は、「マジック・ボール」のような、ストレートなお話は書かないんじゃないかと思うんです。
「九年前で待ってみる」を書くような人は、どうやったって、タイムパラドックスに言及しないわけにはいかない。そこはどうしても押さえておきたいポイントのはずなんですよ。
だから、「マジック・ボール」ではない。

「勝ち負けのあるところ」の、

対戦相手のサラはあんなクソ試合が人生最後の試合だなんてクソすぎると悪態をついた。宇宙人に囚われている怯えは全然なさそうだった。

「勝ち負けのあるところ」より

みたいな文章は、すごく鈴木無音さんの文章だな、という感じがしたのです。

えーと、ですので(推理ではなかったな)、「勝ち負けのあるところ」を書いたのは鈴木無音さんのはずです。

おわりっす。長かった。でも楽しかったし、めっちゃ楽しみました。

おい、かぐや!
See you next time!

https://youtu.be/x7RcvxCN56Y?si=0YdwC8t5JD5VqB3l
(5分20秒から見てください)

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