青いやつ

青春ものを以前書いたことがあって、そのデータを探していたら、読んでて「うわあ」ってなっちゃう作品が出てきた。

確か【雪】【月】【花】【鳥】【風】【光】【水】【時】【無】を使ってショートショートを書けってバトンを受けて描いたものだと思う。ルールは同じ単語を何度も使ってよいが、全部使うことだったかな。

タイトルはつけてなかったんですが、「長電話」かな。

「――聞いてる? ああ、だからちゃんと聞いてくれって。マジ。マジマジ。本気だって。……うん。うん。あー、分かってないね。
お前が微笑んでくれたら、それだけでくらくらするんだ。世界中の【雪】が全部溶けちゃわないか心配なくらい、温かいんだよ、お前の笑顔は。
――うん、うん。いや、俺もちょっとそれは思ったよ。熱いよね、それじゃ。確かに。だから太陽みたいっていいたかったわけよ。笑ってるし。いやだから好きなんだって。本気にしてねーな。
……あのな、じゃあ、どれくらい好きなのか、分からせてやろう。好きって気持ちを数値化してやろうじゃん。そうだな、お前、京極夏彦好きだったな。うん、俺もあの探偵は好き。いやだから、数値化の話、数値化の。でな、カレーが好きだって気持ちが、京極堂の本二冊分で表現できるとしよう。歪みの国のアリスは本十五冊分。そう。
で、お前への気持ちが本何冊分になると思う? お前への好きは、本にして積んだら【月】にまで届くよ。
――それってひどくない? 長いって、どうよ感想として、長いって。まあ、俺もそう思ったけどさ。あ、じゃあ、こんなのはどうでしょう。
もしもお前がかぐや姫だったとして、んで、月に帰っちゃったとしたら、俺は【月】までお前を迎えに行く。そのくらい好き。
……盛大に笑ってくれるねー。いや、いい、いい。お前の笑う声、好きだから。電話で聞くとさ、耳元で笑ってくれてるみたいで嬉しい。
それにさ、こういうのって笑って流してくれるほうがいんだよ。捨て案みたいなもんだから。
捨て案ってのは、広告でさ、プレゼンするじゃん。ああ、俺だってちゃんと働いてるって。お前が高校生相手に数学教えてる時間に、俺は広告売って歩いてるの。ん。
そうそう、捨て案の話な。あのな、プレゼンするときって、最初から最高の案を出しても、クライアントはケチつけてくるわけ。これはほぼ確実なんだ。だから、最初に提示するのは、自信のあるものじゃなくて、ケチのつけやすいものにするわけさ。時には笑いのネタにしかならないやつを提出する。その後に本題に入ると、一発目の案と無意識に比較するから、けっこう良く見えてくるんだ。変化球の後にストレート投げるピッチャーみたいなもん。気障な口説き文句も一緒だよ。
いやだから計算とかじゃなくて、それっくらい本気なの。お前を手に入れたくて必死なんだよ俺は。好きなんだ。
あー、黙るな黙るな。今のがな、変化球の後にストレート投げるって見本。そう。そうそうそう。だから困ったりするな。笑ってろ。地球を水浸しにしろ。
よし、口説き続行するぞ。
――何? え? ……ああ、確かに口説くのに気合入れるのって変かもな。
でもな、男だったら一生に一回くらい、手が届かないくらい高い場所に咲いてる花が欲しくて、気合で崖とか登っちゃうもんだろ。落ちたら死ぬなと思うけど、でも綺麗な綺麗な花なんだよ。【花】はお前だよ。
……用意してねーよ。必死なの、俺は。一生懸命頑張って口説いてるの。実力以上発揮してるだけなの。
いや、二人きりで手を出さないから本気じゃないって、それは違うぞ。違うって。お前な、押し倒すのが勇気とか訳分からないこと言うなよ。勇気ってのはな、気障な口説き文句を口にすることを言うんだ。一生に一回、あるかないかだろ、こんな恥かしいこと言うの。恒常的にこんなこと言うヤツは、羞恥プレイが好きなだけじゃん。たりめーだろ、お前だけだよ、こんな恥かしいこと口にできるの。
ちょっと真面目な話になるけどな、レイプとかストーカーのニュース見ると、いつも思うんだ。口説けよってな。そんなに好きなら口説けばいいじゃんって。口説いて口説いて口説き倒して、オッケーもらえばいいんだよ。それもできないやつが女を押し倒そうなんて、百万年早いってんだ。
つか、まだ大丈夫? 話せる。良かった。いや、こんな話より、俺はお前を口説きたい。
照れてるんじゃない。お前それは違うぞ。
――なんで俺が本気なのが伝わらないのかねー。ん? ああ、それよく言われる。俺も思うもん。俺は恋人としては最低のタイプだけど、友達としては最高だろうなって。自覚はあるの。うん。
でもな、好きになっちゃったんだよ、しかたねえじゃん。サラブレットがただ早く走るために生まれてきたように、【鳥】が大空を高く飛ぶために生まれてきたように、俺はお前を好きになるために生まれてきたんだ。
だーかーらー。分かった分かった、うん、確かにね、ペンギンはそうだよ。うんうん。
いつからお前が好きだったかっていうとな、え、聞いてない? お願いだから聞いてください。頼むよ。え? え? 嘘? 風の噂ってどういうことよ。二年前つったら、まだ一緒にバイトしてたときからってこと?
いや、いやいや、動揺なんて全然してない。うん、あれだな、忍ぶれど、色に出にけり、我が恋はってヤツだな。きっと俺があまりにお前のことが好きだったから、【風】が俺の恋を届けてくれちゃったんだな。……今、吉竹から聞いたって言った? ふうん、そうなんだ――あの野郎、ただじゃおかねえ。え? なんでもない。こっちの話。うん。
分かってるよ。二年前は男いたもんな、お前。でもな、俺は二年前も今も、気持ちは変わってない。ずっと好きだ。あの時、俺はお前に出会ってしまった。二年前はそれを後悔したこともあるよ、正直言って。なんで彼氏持ちなんかに惚れたんだろうってな。でもな、一回たりとも好きになった気持ちを捨てたり、無視したり、【無】かったことにしようなんて考えたことはないんだ。
植物に【光】と【水】が必要なように、俺にはお前が必要なんだ。
【時】の移り変わりで、セピア色に褪せるような、そんな半端な気持ちじゃないんだ。
だからさ、俺のこと、好きになれよ。
うそうそ、ごめんなさい。俺のこと好きになってください。
俺はお前のことが好きだから、お前にも俺のこと、好きになって欲しいんだよ。
あー、気がついたら、もうこんな時間だった。もう寝るだろう。いや、無理しなくても。うん、明日も仕事だろ? 寝ろよ。また電話する。うん、うん。じゃあね。お休み――お休み」

今読むと、お前さ、電話で口説くんじゃなくて誘い出せよなと思いました。しかし、何を書いてるんだ、昔のおれは。びっくりするくらい恥ずかしかったじゃねえかよ、まったく。

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