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医療機器産業は"Go Global"しか生き残る道はない

厚生労働省が発表した「医療機器産業ビジョン2024」を読んだ。これは、医療機器企業へのヒアリングをもとに、医療機器産業の現状の課題と今後目指すべき将来像を有識者交えて討論した内容となっている。
結論から言ってしまうと、医療機器メーカーはGo Globalして海外マーケットに進出しないと未来は暗い、という内容だ。詳しく見ていこう。



日本国内市場の成長率は低い

大前提として、医療機器のグローバル市場は明るい。2023 年に約 5,176 億ドルのグローバル市場規模(このうち47%がアメリカ、5%が日本)が、2027 年までに約 6,543 億ドルにまで成長すると予測されている。これは先進国の高齢化や新興国の経済発展による影響を受けるので納得できる。
しかし、日本市場を見てみると、1990 年に世界市場の22.1%ものシェアを日本市場が持っていたにもかかわらず、2018 年には7.3%まで低下してしまっている。日本の市場は世界市場から見て小さくなっているのだ。これが国内医療機器メーカーが日本市場にに依存せず、海外市場を獲得しなければいけないと考える主な理由だ。

厚生労働省「医療機器産業ビジョン2024」より

2018 年から 2027 年の内に年平均成長率(Compound Annual Growth Rate:CAGR)を見ても、日本の成長率は欧州と比較して小さいことがわかる。日本市場も全く成長していないわけではなく、2027 年までに約 380 億ドルの市場になると見込まれているが、絶対的な規模、および成長率は欧米の市場と比較して年々小さくなっていくことが明らかになっている。


輸入品が支える日本市場

日本市場も成長しているが、この要因はなんだろう?
国内製造出荷額(つまり国内で製造された医療機器の出荷額、輸出品を含む)は横ばいで推移している反面、輸入品は右肩上がりで増えており、つまり国内市場の成長は輸入品によって支えられていると言える。決して日本の製造出荷力が成長しているわけではないのだ。

厚生労働省「医療機器産業ビジョン2024」より


日本国内市場への期待と課題

日本は高齢化先進国であり、新製品の開発・実証場所と適しているという声もあり、期待が集まっているもの事実である。
その他の期待として;

  • 潜在的に要求品質が高く、日本を満足されられたらグローバルで通用する

  • 世界的に医療水準が高いため医療機器の価値や競争力を高めるためのエビデンスを取得する市場として適切

  • データ取得/利活用環境の整備等により海外市場に通 用する医療機器を生みだすポテンシャルがある

などが挙げられているが一方で、懸念点として、以下が挙がっている;

  • 人口減少により市場の伸びが限定的である

  • 原材料・輸送コスト増、円安により製造原価は増える一方であるのに保険制度により価格が決定するため価格転嫁が困難

  • 保険制度ではイノベーションに対する評価が低く投資リスクが懸念される

特に最後の「保険制度ではイノベーションに対する評価がされていない」というのは、医薬品で薬価を決める際にも同様のことが示唆されている。新薬がどれだけの患者のQOLを向上し、医療費を削減するのかは測定されず、純粋に原価にかかったコストなどから薬価が決まってしまうのだ。だから基本薬価は他国に比べかなり低く見積もられる。
ここのルールは早急に変更されるべきと思われる。

海外展開が必須

上記理由から、、国内の市場のみで医療機器企業の売上を成長させるには限度があり、海外展開により売上を拡大させることが必要と考えられる。
面白いデータとして、国内医療機器企業19社で、海外売り上げ比率が高い企業がより売上成長率が高い傾向にあることも示唆されていた。

厚生労働省「医療機器産業ビジョン2024」より

日本企業が米国市場で注目されグローバルに成長した例として、朝日インテック株式会社が挙げられる。1995年に開発された同社のCTO(慢性完全閉塞)治療用PCI(経皮的冠動脈形成術ガイドワイヤー)は、それまでCTO治療は開胸手術スタンダード治療法だったのだが、PCIのおかげで全身麻酔を使わずに動脈からカテーテルを挿入することで治療ができるようになり米国で話題となった。その後、日本人医師とともに米国での臨床実績を積み重ねることによってグローバルでスタンダードな治療法となり、海外売上比率は50%アップ、売上高は12倍となる驚異的な成長を遂げた。


海外展開における課題

このようなアメリカンドリームを、多くの医療機器企業が目指していないわけではないが、現実にはいくつもの乗り越えなければならない障壁があるのも事実だ。企業ヒヤリングで上がった課題としては、

  • 海外現地企業とのパートナーシップ戦略

  • 開発初期より、海外展開を見据えたニーズや規制等の制度を把握できる環境

  • 日本で承認を得た場合に、外国申請が免除される仕組みの検討

  • 多数の保険会社との交渉、ノウハウがない企業には高いハードル

  • 販売後の継続的なフォローアップ拠点設立に大きな投資が必要

  • アジアでは自国優先主義による売上先細りやサプライチェー ン維持が困難

などが挙げられた。多くの企業が海外市場のことを熟知している人材の確保に課題を感じているようだ。諸外国のニーズや規制などをよく知り、保険会社との交渉もスムーズに進め、その後の継続的なフォローアップができるような人材・企業とパートナーシップを構築することが最重要と考えられるが、果たしてそんな人材はどこにいるのだろうか?
日本企業はここにどれだけの投資できるのかが鍵になりそうだ。


グローバル展開を実現するためには?

グローバル市場を獲得するには、なんといってもまず先に米国市場を獲得するべきである。そのためには、米国での臨床試験、許認可、保険収載、流通といった多くのステップをクリアしなければいけない。もっと言うと、現地流通事業者、臨床専門家、行政機関、保険会社、関連学会、標準化団体などとのパートナーシップにより、米国固有の制度、商習慣に対応した製品開発、米国展開戦略を策定できる環境を作るのが最優先事項だ。

これを実現するため、米国展開まで後押しするパッケージ支援を構築し、米国での臨床試験を補助金等で後押しすると厚生労働省が発言している。これは日本医療機器企業にとってはチャンスであり、全日本医療機器企業はこのチャンスに投資するべきと考える。

また、現地専門家とのネットワークを構築も支援のため、国際学会参加の促進や、日本貿易振興機構(JETRO)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)、独立行政法人医薬 品医療機器総合機構(PMDA)等の支援組織を巻き込むと提言している。

各国の規制制度の統一化(日本の臨床試験がクリアできたら米国で臨床試験免除、等)の促進は国家間に任せるとして、繰り返しになるが、各医療機器企業は開発当初から海外市場のニーズや規制の情報にアクセスし、海外臨床試験を経験してきた人材または知見を確保することに全力で投資するべきだと私は考えている。国が声をあげて、22ページもの資料を作り、「医療機器企業はGo Globalするべき」と言っているのだから面白い時代になった。私も医療機器企業がGお Globalを実現するための少しでも役に立てればと思い今後も活動していく。


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