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マレーシアでのワクチン有効性の雑な見積もり

概要

■マレーシアでのワクチン有効性を見積もってみた
 ●陽性判明時の重症度別、ワクチンの有無から
■重症防止92%、入院防止62%、発症防止55%、感染防止74%
■重症・入院・発症防止については過小評価、感染防止については過大評価の可能性あり
 ●本来は、陽性判明時の重症度ではなく、経過をすべて追ってでの重症度を判定すべきことなどから
■マレーシアでは、主にファイザーとシノバックのワクチンを使っているが、両ワクチンの中間的な結果になっているようだ

保健省発表データから、雑ながらワクチン有効性を見積もる

 マレーシア保健省のノール・ヒシャム保健局長が陽性判明時の重症度のカテゴリー別、ワクチン接種ありなし別のデータを出しています(たとえば、こちら)。

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 正確でないことを承知で(一応の目安として)、上の結果から現時点でのマレーシアでのワクチン有効性を見積もってみました。あとで、いろいろな限界(問題点)について述べます。

見積もりの前提

●本来は、症例者の回復または死亡までの全過程を追いかけて重症度などを判定すべきだが、今回使うのは、陽性判明時の重症度のデータである。
●ワクチンありは「ワクチンの経歴があった」とあるので、1回でもあった人の意味にとった。
●データは7/26~8/1の重症度カテゴリー別、ワクチン接種有無別のデータ
●ワクチン接種率は7/26~8/1の平均を使用

早速、結果

重症(カテゴリー5)防止 92%
入院(カテゴリー3以上)防止 62%
発症(カテゴリー2以上)防止 55%
感染(全カテゴリー)防止 74%

重症化防止はかなりいいが、発症予防、入院予防はそこそこ

 重症化防止効果はかなりいいが、発症予防や入院予防はそこそこのようです。

 これは1回接種と2回接種の両方をふくめたものなので、2回目接種後7日後、14日後のいわゆる完全接種に対する有効性を調べるともっとよくなるでしょう。

 また、今回のデータはPCR陽性時しか見ていませんが、本当は経過がどうなるかを調べてその結果で有効性を求める必要があります。
 本当の有効性は上で求めた値と異なってくることになりますが、この点からも本当の有効性が、ここで計算した高くなる可能性があります

 というのは、イギリスやイスラエルのデータを見ると、ワクチンは発症防止効果よりは重症化防止が落ちにくいからです。ですから、ワクチン接種者がPCR陽性後にさらに重い症状になっていく可能性は、ワクチンを接種していない人に比べると低いと予想されます。

 となると、上で求めた数字は、上記2つの理由で過小評価になっている可能性が高いと思われます。

有効性がだんだん落ちている?

もう一つ、ここでは1週間のデータで評価していますが、3-5日のデータの移動平均を見てみましたが、そちらは有効性が落ちている傾向が少し見えました。あまりに短期のデータはいろいろなランダムな要素が入ってくるので、まだ断定的なことは言えないという保留付きですけれども。

イスラエルでは、1月に接種した人の発症防止効果が10%台に落ちているというデータも発表されています(こちら)。なお、重症防止効果は80%台をキープしていました。

今後も保健省がデータを発表してくれるなら、推移にも注視したいところです。

他の国との比較

 数値が過小評価されていることを念頭に置きつつ、他の国の結果と比較してみましょう。

 マレーシアで多く使われているのはファイザーとシノバックのワクチンなので、他国のそのワクチンの結果と比較してみましょう。

1.イギリスのファイザーの結果

 マレーシアは少し前までは、ベータ株(南ア株)が主体でしたが、最近はデルタ株(インド株)が主体になってきましたので、イギリスのデルタ株への有効性と比較してみます。

 イギリスでは、ファイザーワクチンのデルタ株への(発症防止の)有効性は1回接種で35.6%、2回接種で88.0%です(こちら)。また、入院防止の有効性は1回め94%、2回め96%でした(こちら)。

2.チリのシノバックの結果

 次に、チリのシノバックの結果と比較してみます。

 チリでは、2021年2月2日から5月1日までの結果で、

●感染防止 部分接種15.5%、完全接種65.9%
●入院防止 部分接種37.4%、完全接種87.5%
●ICU入室の防止 部分接種44.7%、完全接種90.3%
●死亡の防止 部分接種45.7%、完全接種86.3%

でした(こちら)。ここで

部分接種・・・1回め接種14日後以降
完全接種・・・2回め接種14日後以降

という定義だそうで、求められた有効性は、接種から1-13日目のデータは除外して求めているので、実際より見栄えのいい数字になっている結果と思われます。

 なお、チリで主に流行していたのはガンマ株(ブラジル株)、ラムダ株(ペルー株)でした(こちら)。

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マレーシアは、ファイザーとシノバックの中間的な結果

 今回計算した結果は1回目接種と2回目接種を分けた結果ではないので、比較が難しいですが、おおむねマレーシアの結果はファイザーの結果とシノバックの結果の中間的な結果になっているといってよいのではないでしょうか。

 これは、マレーシアが、ファイザーとシノバックの両方を使っている(一部、アストラゼネカ)ことを反映しているということだと思われます。

 一方、今回のマレーシアの感染防止の数字が、症状防止の数字より高くなっているのは、ワクチン接種している場合、検査を受けない人が多く、陽性者の捕捉率が低くなって、過大評価している可能性があると思われます。

今回の見積もりの限界・問題点について

今まで書いたことの繰り返しもありますが、今回の見積もりの限界について書いておきます。

1. ここでは、PCRで陽性とわかったときのデータを使っている。本来は、症例者が重症化しないか追跡する必要がある。ワクチンは重症化を防ぐ傾向があるので、(重症度の高い症状の)予防効果(有効性)が過小評価される可能性あり

2.1回接種と2回接種を分けて扱っていないので、それぞれがどの程度の有効性かを求めることはできない。完全接種(2回接種後2週間経過後)の場合は、もっと有効性が高くなるだろう。

3. 有効性を求めるときは年齢などの補正をすると思うが、それはできない(「補正前の有効性」になる)

4.感染防止の有効性が発症防止の有効性より高くなっているが、ワクチン接種者が無症状の場合、検査を受けない可能性が被接種者より高いと考えられ、そのせいで、見かけの有効性が実際より高くなっている(過大評価の)可能性がある

ーーー以下、補足ですーーー

補足1 カテゴリーと症状の重さについて

マレーシアは症例者を5段階に分類しています(たとえば、こちら

カテゴリー1 無症状
カテゴリ-2 軽症者
カテゴリー3 肺炎のある場合
カテゴリー4 酸素が必要な肺炎
カテゴリー5 ICU、人工呼吸器が必要

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※カテゴリー1,2は軽症者収容施設にかつては送られていましたし、現在はおおむね自宅療養となります。なので、カテゴリー3から、基本的に入院と思われます。

以上から、

●感染はカテゴリー1以上
●発症はカテゴリー2以上
●入院はカテゴリー3以上
●重症はカテゴリー5

として、人数を計算して、有効性を求めました。

補足2 計算法

ここで使った有効性の算出方法について述べておきます。アメリカCDCのウェブサイトを参考にしています。

ワクチンの有効性の計算をするには、ワクチンのリスク比を求めなくてはいけない(こちら)。

(有効性)=1ー(リスク比)

リスク比は

ワクチンを接種した人のうち陽性(発症、入院、重症)になった人の比率を、ワクチンを接種しない人のうち陽性(発症、入院、重症)になった人の比率で割ったもの(こちら)。

たとえば、

重症者(カテゴリー5)でワクチン接種者は29人(7/26~8/1合計)
重症者(カテゴリー5)でワクチン非接種者は523人(7/26-8/1合計)
ワクチン接種比率は40.3%(7/26~8/1平均)
ワクチン非接種比率は59.7%(=1-40.3%)

以上のデータから、ワクチン有効性は

1-(29/40.3%)/(523/59.7%)=92%

と求められます。

考察、計算の誤り等があればご指摘ください。

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