マレーシアのブレークスルー感染死亡者の分析

はじめに

「分析」と大きく出ましたが、いろいろなグラフでブレークスルー(BT)感染による死亡のデータを調べ、また、ワクチンの比較をできるだけ公平な形でしたいと思っています。

(ここでは、ブレークスルー感染を2回接種後14日以降に陽性判明した場合としています。)

前回のnoteでは、マレーシアでブレークスルー感染による死亡者がどのくらいいるかをワクチン別に表で示しました(こちら)。元データはGithubの保健省のデータです。

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見た印象では「シノバックの死亡者が多いね」ということになると思います。

ただし、これだと、ワクチンの接種回数もワクチンの種類回数も違うので、今回はグラフでなるべく公平に比較したいと思います。

もう一つ気づくのは、3-5月にはほとんどブレークスルー感染による死亡者がいないことです。

初めのうちは効き目が強いということなのかもしれませんが、どうもそうでもなさそうだということがのちほどイスラエルのデータと比較するとわかります。

以下では、2021/9/13時点のデータを用いています。

ワクチンの構成比 シノバックが半分

結果を見ていくときに、気をつけておかないといけないのはあるワクチンがどれだけ使われたかだ思います。

ワクチンの構成比は、以下のようにおおむね半分がシノバック(49.6%)。ファイザーが43.2%、アストラゼネカが6.1%で、あとがその他です。

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BT死亡者の平均年齢68歳・基礎疾患あり82%

細かい比較の前に、ブレークスルー感染死亡者の平均年齢や基礎疾患の有無、男性比率を一般の新型コロナ死亡者と比べます。

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ブレークスルー感染全体(濃い緑)と一般の新型コロナ死亡者(橙)を比較すると、ブレークスルー感染者死亡者は平均年齢が高く、基礎疾患のある人の割合が高そうだということがわかります。

一方、男性比率は違いがないと思ってよさそうです。

こう見ると、ワクチンを打っても高齢者や基礎疾患のある人のリスクは高そうだということになるでしょうか。

シノバックのブレークスルー感染死亡が多い

陽性判明時の月別のブレークスルー感染死亡者。ワクチン接種回数での違いを均すために、2回目接種10万回あたりで示しています。

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これだと、「やはりシノバックのブレークスルー感染死亡者が多いね」ということになりそうです。

グラフだけ見ると、ワクチンの良い順に

アストラゼネカ>ファイザー>シノバック

になっているように見えます。

チリ保健省からは、

ファイザー>アストラゼネカ>シノバック

という順序になるというデータが出ています。(下の図で、左から、症状の防止、入院の防止、ICU入室の防止、死亡の防止です)

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WHOの関係者からも、有効性は

mRNAワクチン>ベクター(Vector)ワクチン>不活化(Inactivated)ワクチン

の順であるというデータが出ています(こちらの表C)が、

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ファイザーはmRNAワクチン、アストラゼネカはベクターワクチン、シノバックは不活化ワクチンですから、この結果も間接的にですが、

ファイザー>アストラゼネカ>シノバック

という順になることを示唆しています。

マレーシアでは、アストラゼネカの接種数がかなり少ないので、変則的な結果になっているだけなのかもしれません。

BT死亡者の感染は全コロナ死亡者の多い8月に多い

もう一つ、上のグラフから気づくのは、8月に感染したブレークスルー感染死亡者が多いということです。

そして、新型コロナの感染死亡者も8月に最も多いです。つまりは、死亡者が多く出るくらい蔓延すると、ブレークスルー感染者の死亡者も増えるということだと思われます。(このことは、あとで、イスラエルのデータとの比較でまた考察します)

BT死亡者は全死亡者よりさらに高齢者寄り

年齢層ごとに見た比較です。新型コロナの死亡者全体と人口全体の年齢層を比較のために一緒に示しています。(人口全体の年齢構成比はマレーシア統計局などの正式な資料が見当たらなかったので、PopulationPyramid.comの2021年の推計を用いました。)

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まず、新型コロナの重症者、死亡者は高齢者に偏っていることが知られています。

マレーシアでも例外ではなく、新型コロナの死亡者(右から2番め、”Covid death”)は人口の年齢構成(一番右、”All pop.")に比べて、ずっと高齢者が多いです。

そして、ブレークスルー感染者全体(右から3番め、”BT(all)")と新型コロナ死亡者全体(右から2番め)を比較すると、ブレークスルー感染者はさらに高齢者に偏っていることがわかります。

また、ファイザー(一番左)はシノバック(左から2番め)に比べて高齢者に偏っていますが、ワクチン会場で高齢者はファイザーを指定されたりしたことがあるらしいので、この比較からだと「シノバックだとワクチンを打っても若者が死んでいる」と言えるかどうかはよくわからないと思っています。

アストラゼネカは打っている回数、死亡者数も少ない(たったの7人)ので、年齢に関してまだ何か言うのは時期尚早と思います。

BT感染死亡者は、2回目接種後の経過日数につれて減少

2回接種後の何日後に、死亡につながるBT感染が起こったかを見たのが下のグラフです。これもワクチン10万回あたりでの死亡者数です。

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2回接種後28~41日後をピークに右肩下がりになっています。

ワクチンの有効性や抗体量のグラフは基本的に2回接種後段々と減少するグラフをみることが多かったのですが、そのことが上のグラフに現れるとすると、右肩上がりのグラフになるはずです。

しかし、実際のグラフはおおむね右肩下がりのグラフになっています。

感染予防効果は6ヶ月ほどで効き目が切れるということがよく言われているわけですが、死亡に関してはその効果がまだ現れていないということでしょうか。

陽性判明時の週ごとのデータ

イスラエルのデータに、陽性診断時別のデータを2回め接種の月別に示したものがあったので、対応を調べてみました。ワクチン2回目接種10万回あたりの数値です。

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2回めの接種を行った月よりも感染が判明した週でおおむね決まっているように見えます。

2回目接種が8月だった場合、効き目がまだ強いから増えていないということかもしれません。

一方、4月に接種を受けた人が増えていないのはよくわかりません。

さて、ここで全死亡者と新規症例者数のデータを重ねます。

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すると、感染拡大につれて、ブレークスルー感染者の死亡者も増えているということがわかります。

これは、月データで最初に見たのと同様な結果です。

イスラエルのデータと比べてみましょう。

イスラエルのデータとの比較

イスラエル保健省のデータ(2021/8/11付)には死亡者がなく、重症者のデータで、なおかつ60歳以上のデータです(こちらのp.6)。

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グラフの形式が違いますが、陽性判明時は1月から2月にかけて少し、その後しばらくほとんどなくて、7月から増えだしているのがわかります。

マレーシアの上のデータと比較するには、全年齢層の重症化データのほうがいいわけですが、それは示されていませんでした。

一方で、ブレークスルー感染のデータは若年層についてのデータがあって、そこでも1月から2月に少し感染があった後、しばらくほとんどなくなり、7月から増えだしていることがわかります(こちらのp.3)。

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イスラエルのデータを見ただけのときは、

「接種してすぐは少し感染しやすく、その後安定して感染が抑えられ、効き目が切れてくるとまた感染しやすくなる」

と思っていました。

ところが、マレーシアのデータを見ると、接種した後ブレークスルー感染死亡者はしばらく(3-5月)いません。

マレーシアのデータだけを見ると、感染が広がって死亡者がたくさん出るほどになると、ワクチン完全接種している人に中にも死亡者が増えるように見えます。

下の新規症例者数の変化(こちら)を見ると、イスラエルでは1-2月には蔓延していたので、それを反映して、(少ないながらも)ブレークスルー感染者(重症者も)出ているということでしょう。

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一方、マレーシアでは、2-5月まで感染者が少なかったので、ブレークスルー感染者も出なかったと考えられます。

ですから、ブレークスルー感染死亡者の増加は感染蔓延が大きな要因ということになると思います。

今後は、ワクチンの効き目が切れてくるのが現れてくるか

イスラエル、イギリス、アメリカで、ワクチン接種後4-6ヶ月後に感染防止の効果が落ちてくるということが言われています。

重症化防止の効果は大きく落ちないと言われていましたが、先程から用いているイスラエルの8/11付のデータによると、1月に2回目接種を受けた高齢者(65歳以上)の重症化に対する有効性が55%に落ちていることがわかりました(こちらのp.7)。

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このデータの公表に先立つ8/1にイスラエルは60歳以上に3回目の追加接種を開始しました(下の記事)。

マレーシア保健省は今後もデータを更新し続けてくるようなので、ときどきデータをチェックしてブレークスルー感染者の死亡者が増えていないか(ワクチンの効き目が死亡防止についても落ちてきていないか)を調べたいと思います。






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