その日、熊は皮を切った。 01

別段どうということはない。

ただ、少し具合が悪いだけさ。

そんな風に考えていた時期が、ぼくにもありました。


*ご注意*

ここから先は、直接的な性器表現があります。ぶっちゃけちんこ的なものの話というか、ちんこそのものの話です。また痛みを伴うグロテスクな表現が出る可能性もあります。というわけで、そういうのが苦手な方はバック。


『亀頭包皮炎』。

この疾病名を知っている人とは割と仲良くなれる気がする。あの苦しみを知っているということは既に同志だ。そしてこの亀頭包皮炎は、泌尿器科ないし皮膚科で処方される薬をしっかり塗布したり服用したりしなければ治らない。ということは、皮膚科ないし泌尿器科のドクターやナース達に、ただでさえお恥ずかしい部分、略して恥部、しかもそれが患部となっており弱点となっている状態をさらけ出し

「あー。こりゃひどいね」

などと診察されたり診断されたりしてきたということだ。そりゃ同志の絆も深まるというものだ。お互い苦労したなガイズ。ああ、今ではちょっとした笑い話にもできるさ。そう笑って煽った発泡酒が必要以上に苦いのは、多分季節じゃないからだ。


それは突然やってきた。

というわけで『亀頭包皮炎』である。詳しくはそれぞれ調べてもらえればいいのだが、ちんこの病気である。亀頭の包皮、つまりちんこヘッドの包皮の炎症だから亀頭包皮炎であり、また亀頭も炎症を起こすわ、包皮も炎症を起こすわだから、亀頭包皮炎だったりもする。

きっかけはよくわからない。別段、奇声を上げながらちんこをかきむしって『あ行』に濁点をつけながら泡吹いてまわる趣味はない。なにかの儀式か。

不潔にしていたわけでもなく、自慢できることでもなんでもないが、不特定多数の異性同性と身体を交えたり、性交渉をしたり、プロのお店の世話になることもない、「答えろ。性器か泌尿器か」と問われれば後者と即答するようなちんこである。バンッ! 越後製菓ッ!! 泌尿器ッ!!

でもなっちゃったんである。最初はもう何年も前である。気づいたのは、せがれいじりをしようとしたときのことである。ゲームではない方だ。察しなさい。

ちんこが明らかにひび割れていたのだ。正確には亀頭に赤い筋が走っていた。ついでに亀頭の直下にもひび割れのようなものがあった。ぼくのせがれは仮性包茎である。世の70%を占める標準的なものだ。なおサイズは標準以下だ。うるさい黙れ殺すぞ。

ともかく、なんかちんこが傷ついていたのだ。何が起こっているのかわからなかったが基本バカなので、せっかくだしそのまま儀式を続けた。そしたらティッシュに血がついた。

焦った。ちんこから出血である。これは普通にビビる。傷は清潔にしなければならない。摩擦を加えたりしたし、なんかこう、色々ダメだ。消毒? こんな敏感なところに? 外に出てるけどこれ内臓みたいなもんやぞ。アルコール? 絶対ダメだ。よし、洗おう。

賢者タイムを利用して賢者っぽく判断したのだが、ちょろちょろとシャワーでぬるま湯をかけて洗い始めたところ、さほど痛みはなかったので、ボディソープを泡立てて洗ったらしみてしみて、風呂場で「んヌぉッ!」という、まるでちんこに塩を揉み込まれたかのような声を出してしまった。

多分、これがぼくとあいつとのファーストコンタクトだった。


そうだ、病院へ行こう。

数日経って病院に行くことにした。とりあえず清潔を心がけ、せがれいじりを禁じ、シャワーを浴びて洗ったらオロナインを塗布するということを繰り返していたのだが、一向によくなる気配がなかったのだ。

挙げ句、ひび割れの傷は少しずつ悪化しているようにも思えた。

「これオロナインじゃダメなやつだわ」

気がつくのが遅い。昭和生まれはオロナインを神の妙薬かなんかだと思いこんでいるふしがある。あとアロエとかも。火傷にはアロエ。

そんなわけで、まず近所の皮膚科・泌尿器科を並べている開業医を訪ねた。よく調べるべきだった。女医さんだった。といってもベテランの女医さんであり、こちらも照れこんで「あの、お、おちんちんがいたいんです……」などと云わず、中指でメガネをクイッとしながら

「ええ、ペニスがひび割れておりまして。ハイ。ああ、そう。皮もです。出血もしました。清潔を保ちオロナインを塗布していたのですが一向によくならず。あ、ハイ。ここに仰向けになってパンツ脱げばいいんですね。あ、ハイ」と極めて冷静に堂々と診察していただいた。

結論としては化膿止めの薬と、抗生物質、あとステロイド系の軟膏を出されたのだが、これでよくなることはなかった。

原因は他にあったのだ。


専門医を探せ!

処方された薬を塗っても飲んでも、さほどよくはならない。その頃には傷だけでなく、亀頭は全体的に爛れ、包皮も翻転した内側も外側も随分と爛れていた。

清潔に保とうとも、やはり小便を出すところである。塩分を含んでいるのだから刺激になるし、そもそも蒸れる場所でもあるから、さして状況がよろしいわけではないのだ。

そんな中でも、別段悪くなる一方のちんこを凝ッとみていただけではない。ブラウザの検索履歴がちんこだらけになり、日本語でちんこの病気について調べている人達の検索データベースにかなり貢献したであろうほど色々調べて回ったところ、一つ思い当たる症状があったのだ。

『カンジダ性包皮炎』。

ぶっちゃけると性病に属するものだが、ようは菌に感染しておこる包皮炎だ。パートナーもいないしプロにも相手をしてもらっていないのにそんなもんになることがあるのかと思ったが、雑菌性とカンジダ菌の混合タイプや、白癬菌(水虫)からの悪化というものもあるとのこと。

はい。ぼく、水虫持っています。


サディスティック老医

そんなわけで普通の皮膚科や泌尿器科じゃダメだと、男性器のアレをアレしてくれる泌尿器科・皮膚科を探し、駆け込んだ。

二駅ほど離れてはいるもののローカル線なので地元と云えば地元。そこで親子二代に渡って男性器の悩みをアレしている泌尿器科があった。電話で問い合わせて待合で待つことしばし。1番に呼ばれれば若先生。2番に呼ばれれば老先生だ。

事前の口コミでは、お子さんの皮膚疾病で通院しているというママさんがたからの口コミで「大先生(先代)は厳しい」という評価をみていたので、ちょっとだけドキドキしていた。

そしてぼくが呼ばれたのは2番。

細かいことはあまり思い出したくもないが、散々「どうしてこんなになるまで放っておいた」「(表面)ぬぐって培養するまでもなく菌だ」「どこまで菌がはびこっているかわからん。尻を出せ。指を入れて中からしごきだす」「これから導尿して膀胱内も調べる」「いつまでお嬢さん気取りでいるんだ。もっと気合いをいれろ。ここは軍隊だぞ」という感じで、ぼくは「グギィ!」とか「ンゴァ!」とか悲鳴を上げる暇すらなく「ハイ!」「ハイ!」とハキハキと返事をしては、ぬぐわれたり、しぼりだされたり、導尿されたりして、診察室を放り出された。

なにか色々なものを一度に体験しすぎた結果、色々なものを一度に失ったような気さえしていた。

その日はどうやって帰ったのかよく覚えていない。


<続>

※よろしければ応援お願いいたします。傷の再生にはカカオポリフェノールと亜鉛がいいらしいです。


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