【Mr.Bike復刻】みやもと春九堂通信 vol.11
ネットの世界には「夏厨」という言葉がある。一見すると何か季節のものを表す古い言葉の様だが、読み方は「なつちゅう」。「夏休み中の厨房」という言葉の略語だ。
「厨房」という言葉は、そのまま受け取ればキッチンの事だが、ここでは違う。中学生のことを指して「中坊」と呼ぶことが日常でもあると思うが、この「ちゅうぼう」をパソコンの漢字変換を使うと、一般的には一番最初に出てくるのが、この「厨房」なのだ。
発祥はおそらく、なにかと世間をお騒がせな巨大掲示板群2ちゃんねる。そこの住人達が、いちいち「中坊」に変換し直すのが面倒だということから定着したものだろう。
実際には正真正銘の中学生に対しての呼称として使う訳ではなく、頭と素行の悪い中学生並みのダメな輩に対する蔑称として使われる事が多い。そもそもネットの世界では相手が本当に中学生かどうかはわからないのだから、これも当たり前といえば当たり前だ。
「夏厨」という言葉に話を戻すと、これはつまり夏休み中で時間がたっぷりある中学生が、普段は触らないパソコンで暇つぶしがてらにネットの世界を彷徨き回り、挙げ句に例えば掲示板で空気の読めない書き込みをしてみたり、掲示板を荒らしてみたりというような事をついついしてしまう……つまりはそういう輩をして「夏厨」と呼ぶわけだ。
そして事実、10年来ネットの住人として過ごしてきたぼくの目から見ても、学生達が夏休みに入る頃になると、ネットに少し変わった動きが出てくるようになる。それはまるで夏祭りの日に活性化する暴走族やら、平日の夜にも鳴り響くようになる違法改造車の排気音のように、ある意味「夏の風物詩」のようなものなのだ。もちろん、どの存在も迷惑この上ないのだが。
さて、この夏、ぼくの運営するサイトでもちょっと面白い出来事があった。
ぼくのサイトには、Yahoo!やGoogleといった検索エンジン経由でアクセスした場合、どんなキーワードで検索をかけて、ぼくの記事に辿り着いたのかがわかるようにアクセス解析をしかけてある。普段はサイト名や、ぼくのペンネーム、記事の内容に該当するキーワードなどが多いのだが、8月某日のキーワードが非常に愉快な事になっていたのだ。
インリン・オブ・ジョイトイ
インリン ハダカ
インリン セクシー おっぱい
インリン M字 ハダカ
インリン ハダカ おっぱい
——アクセス解析のキーワード欄にズラリと並んだエロテロリストなグラビアアイドルの名前。そして思いつく限りの「求めるもの」のキーワード。解析データによれば同一人物が何度も検索したものなのだが、目眩を憶えるほどに力の入った検索っぷりである。「どんだけインリンのおっぱい見たいんだよ!」と、思わずPCのモニターにツッコミを入れてしまったほどだ。
なんというかもう、若さ迸り過ぎというかなんというか。そのエネルギーの20%もあれば、山村に一日分の電気を供給出来そうな気さえする。
もちろん、ぼくのサイトにはインリンのヌード画像はなく、あるのはぼくが彼女のファンであるということを書いた記事だけだ。つまりこのキーワードで検索をかけて来た人は空振りに終わったわけだが、そのあまりにも情熱的な検索っぷりに、なんとなく申し訳ないような気持ちになってしまったりもした。ぼくにはまるで責任ないのだが。
ちなみにその記事を公開したのは今春初頭。こんな検索ワードでアクセスされたのは、もちろん初めての事だった。
ぼくは想像する。
使い慣れないパソコンに向かい、検索エンジンにたどたどしく何度も「インリン」と打ち込む男子中学生の姿を。
夏休みの少年よ。広く深い情報の海であるネットにも、無いモノだってあるのだ。
夏休みの少年よ。本屋に行けばセミヌードの写真集やDVDは売っているぞ。
夏休みの少年よ。インリンに対する情熱もいいが、宿題はちゃんとやっておけよ——。
こんな風にネットの世界でも季節を感じることもある。
ちなみに、ぼくがついついインリンのヌード画像を探してしまったのは、全くの余談である(そして無かった)。
ああ、夏なのだなあ……。
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