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お呼びでないのかこの街に

トロントに来ておよそ3か月。語学学校卒業日&ホームステイ先退去日まで10日を切ったところで、ようやく次に身を置く部屋が見つかりました。
部屋探しは困難を極めました。かかった時間はおよそ2か月。メールは50通以上、内見は8軒。

つい最近まで頭の中は「部屋探し」でいっぱいで、静かに迫る退去日に毎日毎秒震えていました。街を歩けば「なんでこんな家があるのに見つかんないんだ」と思っていたし、電車に乗れば「向かいの人、2週間後に住む家があんだよな」と思っていたし、授業中も「早く休み時間にならないかなー。家探したい」という具合でした。近い将来暮らせる場所がなくなるという状態は、結構なナイトメアでございました。

次の場所が決まった今だからこそ思える話ですが、部屋探しは、ミュージカルの1曲でも書けそうなくらい面白いことだらけでした。ということで今回はその備忘録です。実際にここに暮らしてる人もいるので、失礼にあたるかもなと思いつつ、毒を吐かせてくださいね。

1軒目 友達できた

空いてる部屋は1部屋。でもなぜか居合わせた日本人の女の子と同時に内見、というスタイルでした。駅近の一軒家。調味料が使い放題なのは良かったけど、シャワーが夜10時までというのは私には厳しく、また部屋が思ったよりも狭かったので、断念。一緒に回った子と気があい仲良くなりました。家は決まらなかったけど、友達ができました。

2軒目 ブラウニーくれた

急に内見のアポイントが取れたので、初めて1人で伺いました。トロントの物件探しはオーナーと直接取引なので、詐欺をはじめとした事件がちょいちょい起こるといいます。1人で行くにはちょっと怖かったので、会社員時代の後輩がくれた防犯笛を鞄に入れておきました。おうち周辺は治安よし。お家の外観も新しくて綺麗。出てきたオーナーは大柄であまり笑わない男性だったので少し警戒しましたが、足が悪いということが分かり、「最悪逃げれる」と思いました。
外観通り、部屋も綺麗で広くて住みやすそうだったのですが、ルールが多く、周りにティムホートンしかなかったために諦めました。オーナーは見かけによらず(失礼)スイーツ作りが趣味だそうで、帰りにお手製のブラウニーを分けてくれました。毒が入ってたらどうしようと思ったけど(失礼)、結局おいしくてたいらげました。

3軒目 最高に綺麗!

別のお部屋の内見を依頼したところ、どうやらそこは既に埋まってしまったとのこと。オーナーが親切にも違うお家を教えてくれました。行ってみると大当たり。ホテルみたいに美しい部屋!キッチン!バスルーム!ジム付!その上オーナーは爽やかなご夫婦!! 絵に描いたような素敵な家でした。しかし、最寄駅からとてつもなく遠く、周りに何もない。トンネルを通らなければならず、夜道を考えて躊躇してしまいました。

4軒目 段ボールベッド

「1人でも大丈夫そう」と謎の自信が湧いてきたので、この日も1人で伺いました。都心に近い立地で期待大でしたが、いざアパートに来てみると周りはホームレスだらけ。フロントには警備員が2人駐在していたのですが、2人の後ろの壁にかかっていた掲示板には、指名手配犯たちの写真が敷き詰められていました。震えながら上階へ。1人で向かった自分の勇気を褒めたいです。いや叱るべきなのか。待っていたのはアジア系の中年男性。優しそうな人でしたが、部屋もキッチンもシャワールームも「男!」という感じでちょっと戸惑いました。さらにベッドが不思議な質感で、掛け布団をめくってみたら、段ボール箱3つの上にマットレスが敷いてある斬新なスタイルでした。oh段ボールベッド…アスリートになれそうです。

5軒目 実家に似てる

それでも懲りず、この日も1人で向かうことに。駅から徒歩1分、スーパーもモールも近くて、値段もよくて好立地! 清潔感のあるイラン出身のオーナーさんでした。部屋は綺麗で日当たり良好。ベッドもしっかりしていて、バラのいいにおいがする。それでいて間取りが、どことなく実家に似ていました。ただ気がかりなのは、都心から遠く、オーナーのスキンシップがちょっと多めだったこと。文化が違うからしょうがないかなあと迷っていたらルームメイトが「”文化”って我慢するのは違くない?」とはっきり言ってくれて、心が決まりました。家探しをもう少し続けることに。

6軒目(未遂) なぜ私にこだわる

内見依頼をした直後、友達伝いに依頼先の部屋はおすすめできない、という情報をもらいました。部屋探しにつかれ始めていたころなので、これ以上労力を使いたくないなと思い、お断りメールを入れました。「その日いけなくなっちゃった。また連絡しますね」みたいな遠回しの言葉づかいが悪かったのでしょう。その後しつこく「なんで返事くれないの?」「話がしたい。話せばわかり合えると思うんだ!」「君はきっとポライトな人だよね?」「日本人ってそういうのが普通なの?」などなど毎日のようにメールがくることになります。ちゃんとお断りしてもなお途切れず。今もときどき叫びのようなメールがきます。

6軒目 刃がないハサミとキャットフード

夏みたいに暑かった日曜日。今回は友達についてきてもらい(ありがとう)、都心に近い物件を伺いました。少し年忌の入ったお家の前で、オーナーを待つこと20分。ようやくやってきたのは中国系の女の子。「オーナーの妹だから、あんまり詳しいこと知らないんだよね…」という感じでした。案内されたのは、なかなかの生活感があるベースメントの部屋。少しじめじめしてて、よくみると壁のいたるところに虫がおりました。キッチンスペースはなぜかキャットフードが散らばっていて、奥の方にはぬいぐるみみたいな灰色の猫がおびえた様子でこちらを見ていました。名前を聞いたけど、「知らない」とのこと。床に刃がない取っ手部分だけのはさみが落ちてあり、私も友達もちょっと不気味に感じてしまい、逃げるようにその場を去りました。

7軒目(未遂) literary粒大の涙出た

トロントサブウェイの中で一番好きな駅に近いお家だったので、張り切って1時間前に到着。先に外観と周辺状況をチェックしました。カーサローマの近くということもあり、西欧風の家々が並ぶ気持ちのいいところ。スーパーも近くにあり申し分なし。レンガ造りの大きくておしゃれな家でした。きれいに手入れされたガーデンも好印象。「今日こそ決まるのでは!」と息を巻いて、近くのタピオカ屋さんで内見の準備を始めました。しかし、約束の15分前、大家さんから「たった今埋まりました」のメール。タピオカ片手にさすがにちょっと泣いてしまいました。

7軒目 なんで案内してくれたんだろ

よく晴れた日曜の行楽日和、ルームメイトを連れて(ごめんね)いきました。便利な駅近でしたが、駅からの道は落書きとゴミだらけで、夜道に一人で歩くには勇気のいりそうな道でした。着いたお家は年忌が入っていて、家の前のガーデンは草木が生えっぱなしでした。迎えてくれたのはインディアンらしきオーナー。優しそうな人でしたが、やはりおうちが……。壁は穴だらけ、日当たりのよい部屋はエアコンなし。うーん、と思っていたらオーナーが「でももうここ埋まってんだよね」と驚きの告白。じゃあなんで案内してくれたんだ……。

8軒目 決めてやったぜ

最終的に決めたのは、中国人系のオーナーのお家。予算超え&少々危険エリアであるものの、都心で部屋がきれいだったので、もういい疲れたという感じでその場ですぐに敷金を払いました。いろいろと不安はあるけど、もしだめだったらまた頑張りゃいっか……。

こうもいろんなことが起こると、町全体に歓迎されていないのではないかと思えてきます。でもやっと、こうして家が決まりまして、さらに最近仕事も決まってしまったので、もう少しここにいようと思います。無理になったらすぐ帰ればいいのさ。

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