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Interview2/まっすぐに自分が好き

吉野 わいさん(元葬儀会社勤務)

20年以上同じ家で暮らし、ほぼ毎日顔を合わせてきた姉が
ついに一人暮らしを始めました。
家族にとってはちょっとしたニュース。
いい節目なので、まだ荷解きが終わっていない新しい部屋で、
今の心境とこれまでの自分について振り返ってもらいました。

姉は昔から、自分のことが好きだと断言できるタイプです。
自己嫌悪に陥りやすい私には、どうしてそれができるのか不思議で、羨ましくも思っています。
いつもより少し真面目に話しをする中で、それがなぜできるのかが見えてきました。

(取材:2021年11月)

“どこまでやれるか自分を試したいの”

吉野
今日、16時くらいに布団が届くと思う。

――じゃあそれまで話聞かせてよ。この家外観かわいいよね。ちょっとお城っぽい。

吉野
でしょ。結構一目惚れ。あとさ、さっきこのカーテンが来てさっき付けたんだけど、これも一目惚れ。色もかわいいし、キラキラしてんだよ。

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――ほんとだ。なんかちょっとアナ雪っぽいね。

吉野
そうかな? このグレーに合わせた部屋にしたくてさ。家具家電をグレー系の色とかアイボリーに揃えたらかわいくない? あとは、フレグランスとか置きたい。誰かと一緒に暮らしてると香りって気を遣うから、今まで置いたことなかったんだよね。だから自分の好きな香りを選んだりしてみたい。

――楽しみがいろいろあるんだね。今は楽しみと不安、どのくらいの割合なの?

吉野
楽しみ:不安=8:2くらい。自分の力で生活ができることだけで、もう楽しみ。冷蔵庫の中のものを把握してうまく自炊したりさ。あとやっぱ解放感がいい。
実は一人暮らしは、大学で就職活動してた頃からずーっとやってみたくて。でも遠くで働きたいとは思わなかったから、家からは通いにくい距離の会社を探したりしてたんだけど。

――そうだったんだ。なんで一人暮らしに憧れてたの?

吉野
うーん、家族は好きなんだけど、窮屈だなと思うこともあったんだよね。出掛ける行き先とか帰る時間とか、夕飯いるの?とかを言わなきゃいけなかったり、あと朝洗面台取り合いになったりさ。

――ああ~ははは。電気つけっぱで寝てると、私が鬼の形相で消しに来たりするのも?

吉野
ああ、そうだねそういうことも(笑)。

――でもあれは電気代、ほんと気を付けて!

吉野
うん。気を付けます(笑)。
やっぱさ、電気使うにもガス使うにも、お金がかかるんだなって思うね。あとさ家って、いろんな会社と契約しなきゃ、ガスも電気も水も使えないんだよ。当たり前なんだけどさ。

だから引っ越しってすっごく面倒くさいって思った。不動産、管理会社、ガス電気会社、水道局、配送業者……。あ、ネットの会社、これからやんなきゃ。いろんな会社と手続きしてやっと生活できるようになるから、生活を始めるまでにすごくエネルギーを使うなと思った。そういうことも自分でちゃんとできるのかなって、自分を試したくなったんだよね、節目の年齢なので。

地震・雷・虫・家族。

――私も2月に家を離れるから、ついに実家が両親だけになるね。

吉野
ね。子ども部屋おばさん卒業。普通に考えて遅いよね(笑)。多分娘2人一気に家からいなくなったら、お母さんもお父さんも悲しむと思うから、私はちょいちょい実家に帰ろうかなって思ってる。
一人暮らしを始めるのは私だけど、私だけ生活が変わるんじゃなくて、ほかの家族の生活も変わるんだよね。2割の不安って、お母さんとお父さんのこともある。

――ほかにはどんな心配ごとがあるの?

吉野
虫と、防犯と、地震と雷。

――ああ~。昔っから雷とか花火とか、大きい音苦手だったよね。

吉野
うんほんと。大きい音が来ると思うと、稲光も怖い。この家にいる時に雷が近づいたらどうしようかって考えたんだけど、歩いてすぐ地下鉄の駅があるから、最悪地下に避難しようかなって。

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――え。雷きたら地下鉄に逃げ込むの。ははは!

吉野
いや、本気で怖いんだって! 前の職場でも笑われたことあったけどさ~~。

自分が好きと言える理由

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――前の職場って、葬儀会社?

うん。

――葬儀会社で働くって、私にはちょっと珍しくて興味深いんだよね。なんでその仕事を選んだの?

吉野
親戚の葬儀で、ご遺体を清める湯灌(ゆかん)を見たときに感動したのが始まり。それまで「葬儀」とか「死」って、「怖い・冷たい」イメージだったんだけど、湯灌師さんが優しい笑顔で、女神様みたいにご遺体をきれいにしてくれて。尊くて温かい仕事なんだって興味を持ったの。お葬式に関係する仕事、素敵だなと。

――へえ、そんな心境の変化があったんだ。

吉野
私さ、小学生くらいからずっと、人一倍「死ぬこと」について考えてたような気がする。大学の時は、学科の勉強とは別に死生学の本を読んだりね。別に病気とか事故に遭ったわけじゃないんだけどさ。いつも「死」が、なぜか、ものすっごく怖くって。大地震とか大事件とかをニュースで見る度に、私はたまたまそこに居合わせなかっただけで、私が被害者だったかもしれないって。
だから自分は恵まれてるんだな~って思える。人間に生まれたでしょ。日本に生まれたでしょ。しかも大好きな東京に生まれた。家族も周りの人もみんないい人。自分の好きなこともできて、これまで不自由なく暮らせてることがなんて幸せなんだろうって何年も前から思ってきたんだよね。

――昔から、「自分のこと好き」って言っててすごいなと思ってたんだけど、そういう考え方からきてるのか。

吉野
そうかも。私自己肯定感が強い方だと思う。自分の性格とか顔も、私は好き。いろんな面で自分は恵まれているなって小さい頃からずーっと思ってるから、コンプレックスはいっぱいあるけど……うん、好き。

――そう言い切れるのはやっぱ好いね。ここはどうしても直したい、ってところはあるの?

吉野
雷が苦手なところと、

――ああ~

吉野
あと、誰かに意見や気持ちを伝えるのが苦手なところ。私はあんまり感情が高ぶらないし、誰かに対して「気持ちを分かってほしい!」「思いを共有したい!」とかあんまり思わなくて。あくまでも自分だけに興味があるというか。

――なるほどね。でもそれって他人と自分を比べたり、マウントの張り合いを回避することになってるから、結果的に純粋な「自分が好き」につながってて健全な気がする。

吉野
うーん、なるほどね。
でも、人に自分の好きな物をおすすめしたり、はしゃいだりして素直に気持ち伝えられる人が羨ましく思うこともあるよ。ミュージカルが好きなのも、だからかも。劇中にに出てくる登場人物って、自分の意見とか気持ちがはっきりしてるじゃん。気持ちを歌に乗せるくらい。だから羨ましさもあり。

――たしかに。お姉ちゃん、演技するのも好きだったよね。小学校の学芸会も、高校の文化祭の劇も。

吉野
うん。言うべきセリフや気持ちが用意されてるのが私にはいい。普段感情を露にしないから、ここぞと。自分の気持ちを伝えるのは苦手だからまあ、アドリブはダメなんだけどね。

〈ピンポーン〉

吉野
あ、きたきた。〈ガチャ〉ありがとうございます。……これで最低限のものは揃ったかな。

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あとは、大家さんにあいさつしてくるね。菓子折りってどうやって渡せばいいんだっけ。「つまらないものですが」?

――なんかもっと違う言葉なかった?「お楽しみください」?

吉野
あはは、ディズニーランドみたい(笑)。あ、「ささやかですが」かも。「3階に引っ越してきた吉野です。ささやかですがこちらどうぞ」でいいかな。ああ本当にアドリブ苦手だ。ちょっと家見てて。行ってきます。


(おわり)

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