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昭和生まれは、セーラームーンの夢を見るか?|サンプルワークショップ2020「出す。」レポート#6

自分はどうして女なんだ?どうして男なんだ!?と考えたことはありますか?
または、男になりたい、女になりたい、と思ったことはありますか?

2020年9月21日、女装カルチャーを作る組織を作る代表・モカさんにより「女装を体験できるワークショップ」が開催されました。
演劇の枠を超えて、価値観を揺さぶるワークショップとして何か良いテーマはないか、と考えていた時に見つけた「女装」というキーワード。

なぜ女装するの?それを考えるワークの中で浮かび上がってきたのは、軽やかに「違いを理解し、受容しあう」カルチャーでした。
松井周の標本室メンバーがレポートを書いてくれたので、共有します!

<書き手:那木慧 編集:松井周の標本室運営>

モカ

<ワークショップタイトル>
女装体験ができるワークショップ

<講師プロフィール>
モカ(もか) さん  女装カルチャーを作る人/コミュニティデザイナー

株式会社UNI、経営者、元男子、戦略家、デザイナー。女装サブスク「ガールズクローゼット」や、女装サロンバー「女の子クラブ」などの飲食店経営など、女装カルチャーを作る組織の代表。
2016年から無償のお悩み相談を開始。2019年に高野真吾氏との共著『12階から飛び降りて一度死んだ私が伝えたいこと』を上梓。

男だから見たいのに、その男が邪魔して

モカさんのWSレポートを書くにあたり、不思議と小学生の時に放送されていたセーラームーンのことが思い出されました。

セーラームーン放送当時、多くの男子が「あんなの見てるヤツなんかいんの?気持ち悪い」と牽制し「見てませんよアピール」をしていたように思います。

中には、「いやスラムダンク見忘れんように7時からテレビつけとる」とか「姉(妹)が見よんけんさー」なんて、さもありなんな理由をつけて「見てますけど宣言」をする猛者もいました。しかしそれは少数派であり、多くは親の目を気にしつつ、ザッピングするフリをしてしっかりとセーラー戦士たちの変身シーンを目に焼き付けていたのです。

振り返ってみると、なんであんなにコソコソしていたんだろう?小学生ながら、なにか見てはいけないものを見ている気がしたあの背徳感はなんだったのだろう?

……もしかしたら、セーラームーンは母親でも姉妹でもない大人の女性の身体をボクたちに突きつけ、まだ眠っている男性ホルモンを刺激した初めてのお相手なのかもしれません。それが分からなくて、「女の子が見るものなのに、なんで男であるボクがワクワクして見てしまってるんだ、一体どうしちゃったんだボク?!」と混乱していたのでしょうか。

掛け声をきっかけに、プリズム色に輝く背景からかっこいいBGMが流れ、女性を強調するボディラインに沿って赤いリボンが巻きついていく。女子高生から戦士へと変わっていく華麗なる変身。

男だから見たいのにその男が邪魔して、あんなの見てないし!と強がって。
女の子のものは女の子だけ、男の子のものは男の子だけという圧力は、もうあの頃から静かに始まっていたのかもしれません。

モカさんのWSに参加を決めた理由は2つ。

1つ目は、服装によってジブンが変えられたこと。
普段、私は黒や紺でかつ動きやすい洋服しか着ません。でも今年の7月、連日雨で冴えない天気が続く中、晴れやかな気持ちになりたくて黄色いめちゃくちゃ派手な洋服を購入しました。

それを着て街へ出ると、オレを見ろと言わんばかりに颯爽と歩き、敷居の高いオシャレなお店にも所構わず入っていける。普段やらない自撮りもやりました。もしかしたら洋服によって我々の行動や考えは実はかなり縛られているのかもしれないぞ?という考えが湧いてきました。

2つ目は、性別のボーダーが溶けてきていると感じるから。
昔から、女装している中年男性は見かけたことがあります。でも「あぁ男性が女性の格好をしているのね」とわかるものでした。
しかしここ最近は女性と見紛う男性を見かける機会が増えて、思わずみとれてしまうことも。肌が綺麗で、髪はサラサラ。身体は細い。服装はゆったりしていてどこか中性的。
この人どっちなんだろう?わからん。となることが多くなりました。

一緒に学ぼう!女装カルチャー

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女装ビジネスをしっかり軌道にのせているモカさん。

このワークショップは、サンプル・ワークショップのシリーズの1コマであり、私をはじめとして、参加者は普段から女装カルチャーに通じているわけではありません。
そこでワークショップは、LGBTや女装とはなにか?のレクチャーから始まりました。

・女装とは?
女装とは、戸籍上の性別が男性の方が、女性の性表現をすること。
LGBTでいうと、女装は"T"に当てはまることが多いと言えるそうです。

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芸能人に当てはめて考えると、すんなり理解できました。

女装界隈ってどんな人がいるの?

女装と言っても一括りにできず、タイプは様々。女の子クラブ(通称オナクラ)に足を運ばれる方たちをA〜Fに分類して解説して頂きました。

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お話しているのは、女の子クラブのくりこさん

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同じく女の子クラブのしのぶさん

その他にも、色々なタイプの方がいらっしゃるそう。

・Cさん
女装男子。ファッション感覚が強く、女性の服を着る理由は可愛いから。第一人称はオレで、恋愛対象は女性。

・Dさん
女装はしないが、女装さんが好きな人。女装さんと友達になりたい、ご飯に行ったりデートしたりしたい。

・Eさん
女装さんが好きな女性。ジャニーズ・ビジュアル系など綺麗な男性が好きな女性が多い。女装さんの化粧時、すっぴん時と二面性を楽しむ。

・Fさん
いつかは女装したい人

女装界隈の中でも、女装への熱は人それぞれで想いも様々。

モカさんのお話を聞き、女装に対する先入観が溶けて、カジュアルに、というかもっとラフな感覚でやってもいいのだと思えました。

・セクシャルはグラデーション

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女装カルチャーになじんできたところで、「その人がどのタイプか、どう判断したらよいの?例えば、戸籍上は男性だが、性自認は女性の人に対して、トイレの案内はどうしたらいいのか?」という質問が。

モカさんのお答えは、本人が思っている内面と外面が違うパターンがあるため、女性の格好してるから女性と決めつけてはいけない。なのではじめに、「あなたはちゃんなの?くんなの?」とスタンスを聞いて距離を合わせていくというもの。

LGBTの象徴がレインボーである理由は、性別とはひとつの色ではなく、グラデーションであるため。ちょうど履歴書に、男・女の欄が無くなるという報道を目にしたばかりでもあり、セクシャリティはグラデーションであるということに、非常に納得したのでした。

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女装用語の解説も。皆さんはどれくらいわかりますか?

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女装エピソードも満載でした!

ムーンプリズム・パワー!メイクアップ!

次に、希望者は本格的な女装体験にチャレンジ。
もちろん私も、いざ、初めての女装です。

<おおまかな女装のステップ>
①洗顔
脂を落とし、ヒゲがある人は剃っていきます。

②着替え
スタッフの方がインスピレーションで洋服を決めていきます。たくさん用意して下さって、不思議と、えーこれ可愛い!こっちのほう着たい!!と目移りしちゃう自分がいました。
ブラジャー。なんでしょう、このツンとして重力に逆らう感じ。なんか肩を張らさせれてる感あり、下を向けなかったです。

③メイク
1番ここに時間かかりました。肌の質もあるかと思います。私はヒゲが濃いので、ヒゲ隠しのため、舞台用の血のりや赤い口紅を使って口周りの血色を良くしていく。この過程をやるだけで、青味が減って出来が変わってくるとか。
そして目元。アイシャドウやつけまつげをしていく。目って顔の中でも大切なパーツなんだなと感じました。かなり印象を左右します。初めての私には、つけまつげが重く感じられ、強制的に目を開かされている感じに耐えられず途中で外しました(例えるなら、映画 時計仕掛けのオレンジのルドヴィコ療法のシーン)。
口紅。よく女性がやる、んーパッをやれるとは!最後はチークで仕上げて頂きました。

④ウィッグ
おろしたてはまだ馴染まなくて締め付けられる感じがありました。マイウィッグだとジャストサイズになっていくそうです。

ズボンからスカートになり、ノースリーブで肌の露出多めになることでなんか解放的な気分になっていきました。同時に変な言い方ですが、股間に力が入らなくなり去勢された感じ。この時点で、みんな内股になっていました。

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私達のメイク中に、参加者の方はハイヒールとウィッグを体験!

美少女コンテスト

仕上がりの確認は、参加者の皆様の前で行われました。
そこで、初めて女装した自分と対面…!

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!!!

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え?!これ、だれ?

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え!!!

鏡に映ったのは見飽きた自分の顔ではなく、ガッツリ化粧バッチシ二重。
新しい自分に驚きと戸惑いを隠せず、思わず胸と股を隠してしまった。これとても不思議。ブラを付けてるからか、おっぱいというものを意識させられ手が無意識に伸びてしまったのではないかと思ってます。ちなみに女装すると母親に似るパターンが多いそうです。

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思わず胸と股を隠す。

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戸惑いながらも、女装姿をお披露目していきます。
女装していない参加者の方も「人が初めて女装する様子」を見ることはなかなか無いようです。

その後、撮影会が始まりました。光の集め方や角度によって綺麗に写ったり、手を顔の付近に当てると小顔に見え、よりかわいく見えるなどレクチャーして頂きました。おすすめアプリUlikeもその場でインストール。
どんどんと男であるという境界線が消失していって、可愛いと言われるとテンション上がっていく自分がいました。

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ノリノリの自撮りタイム。
皆で一緒になって、この角度かわいい!いいよ!と
プロデュース合戦が始まります。

女性の自撮りが前から謎でしたが、時間を費やして化粧し可愛くなっていくんだったら、そりゃ自撮りに熱あげるよね。保存したくなる気持ちもわかる。そしてヒールやパンプスを履いて歩くのはとても大変でした。

相手の立場を経験することで、わかること、実感することや配慮の無さに気がつきます。化粧をして下さったスタッフの方が、「女装すると、女性に優しくなりますよ」と仰ってました。なるほど。これからは時間かかっても急かさず、化粧へのコメントをし、連れ立って歩くときは、ゆっくり歩くようにしようと心に誓いました。

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自然と振る舞いが変わり、足を閉じて座る皆さん

終わらない「らしさ」

後半は女装してみて、女装した人を見てみての、感想をシェアしました。

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この時トピックに上がったのが「らしさ」。

男の子なんだから泣かないの!とか、女の子らしくしなさい!と幼少の頃に1度は言われたことがあるかと思います。その「らしさ」に今も苦しめられている人もいれば、指標となる「らしさ」が無くなりどこへ向かえばいいかわからなくなる人もいる。

どれもその通りで、正解はないのだと思います。
モカさんから、ドラマ金八先生で上戸彩さん演じる人物が性同一性障害で、それが話題になり世間から認知され、急速に理解が深まっていったというエピソードをお話しされていました。私はこのドラマを見ていたし、たまたまクラスにそういった人がいて、あぁあれねと特別不思議に思うことなく接することができました。

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「自分は普段ボーイッシュな服しか着ない。皆さんがボーイッシュな服で女装していたら、また感想は変わったのだろうか?」という感想も。

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理解できないことや未知なものを拒絶しないこと。いったい何を大切にし、喜びを感じ、怒りを感じ、苦しんでいるのかを身をもって体験すること。
女装は、どんどん不寛容になり、切り捨てられていく社会に対しての反抗手段のように思えました。

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モカさん、くりこさん、しのぶさん、ありがとうございました!

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「松井周の標本室」とは

松井周が主催する、スタディ・グループです。
芸術やカルチャーに興味のある、10代~80代で構成されており、
第1期(2020年度)の活動期間は2020年4月~2021年3月の1年間です。
標本室メンバー自身も「標本」であり、また、
標本室の活動を通しあらたな「標本」を発見していきます。

「標本」を意識することで世の中を少し違って目線で見たり、
好きなことを興味関心の赴くままに自由に話しあえる場を作りたい。

そんな思いのもと、テーマに応じたトークイベントやワークショップを開催し、ゆくゆくは演劇作品のクリエイションを行っていく予定です。

お問合せ先:hyohonshitsu@gmail.com


サポートは僕自身の活動や、「松井 周の標本室」の運営にあてられます。ありがとうございます。