見出し画像

うふふ。な妄想を|舞台衣裳家・堂本教子「素敵な妄想」WS開催レポート

本記事は、2022年9月23日〜25日に開催されたサンプル・ワークショプ2022「起こす」の開催レポートです。

(執筆:星洸佳 編集:松井周の標本室)

はじめに

みなさんは最近妄想していますか?

私の話になりますが、物心ついた頃は妄想ばかりしていました。スパンコールの付いたドレスを着て、プラスチックの指輪をはめて、魔法のステッキを持って、かぼちゃパンツを履いた王子様が空を飛んで迎えに来てくれると信じていたあの日。幼き私は妄想にうつつを抜かして、プリンセスにも魔法使いにもなれないまま、一人前のおとなになりました。おとなになっても妄想していたい!とあがく私がレポートを書くのは、舞台衣裳家の堂本教子さんによるワークショップです。

「素敵な妄想」というワークショップタイトルとともに参加者の皆さんの勝手な妄想をお伝えできればと思います。


〈講師プロフィール〉
堂本教子(どうもときょうこ)さん 舞台衣裳家
コンテンポラリーダンス、舞踏、演劇、歌舞伎、オペラなどの衣裳デザイン製作。1999年と 2003年には、チェコ・プラハ カドリエンナーレ国際舞台美術展出展。2000年、文化庁芸術家在外研修として、バットシェバ舞踊団の衣裳デザイナーRakefet Levy に師事。99年伊藤熹朔賞奨励賞、第36回橘秋子賞 舞台クリエイティブ賞受賞。
HP:KYOKO88%

堂本さんと舞台芸術との出会い

講師の堂本教子さん

堂本さんは、京都の学校で陶芸を学ばれていたときに、大駱駝艦の舞台を見て、舞台芸術の世界に触れられました。
そこから、大駱駝艦の舞台美術のお手伝いや、スーパー歌舞伎にて衣裳のお手伝いをしながら技術を学び、現在はコンテンポラリーダンス、舞踏、オペラ等、踊りを中心に様々な衣裳製作を担当されています。

長くにわたり大駱駝艦の衣裳をご担当の堂本さん。
こちらは2017年の作品の衣裳です。
松井周作・演出の『半変身』でも衣裳をご担当いただきました。

 舞台衣裳とは、第二の皮膚

堂本さんが持ってきてくださった素材集!

これまでの堂本さんが手掛けた作品は、変わった「素材」を使った衣裳が多く、紙、発泡スチロール、防虫網をグルーガンで接着して生地にする等様々…!
普段生活していて思いつかないような素材がとてもきれいで惚れ惚れしました。

防虫網を素材にして製作した衣裳

かばんを着たり、下駄を頭につけたり、仏壇を背負ったり…
生地を直接見に行くより、ホームセンターに行って
これをかぶったらどうかな?背負ったらどうかな?と勝手な妄想を行うとのこと。
身近なものを衣裳にしていくユーモアが、堂本さんの衣裳に沢山籠められているなぁと思いました。

堂本さんにとっての舞台衣裳製作とは、第二の皮膚を作ること※。
素材から生み出される皮膚感を大切に制作していると言っていたことが印象的でした。
(※第二の皮膚の考え方はマーシャル・マクルーハンのメディア論を発端とします。)

興味津々に素材の解説を聞く一同

ワークショップは、コロナならではのアレをモチーフに!

いよいよ衣裳を考えていくワークに移ります。
今回はコロナ禍での開催ということで「マスク」をモチーフに衣裳を考えていくことになりました。マスクはこの2年で急に、していないと恥ずかしいような、まるでパンツのような感覚の「衣服」になりました。平安時代の烏帽子(えぼし)や、現在の下着のような、なくてはならないものになったのです。では、もしあの人がマスクをするとしたらどんなマスクだろう…?マスクを衣裳として捉え、妄想を膨らませていきます。

ワークショップ① だれにマスクを作りたい?

まず、参加者ひとりひとりが、だれ(人物でも生物でも、実在でもフィクションでも、なんでもOK)に「マスク」を作りたいのか妄想を膨らませます。

誰のマスクを作ろうか真剣に妄想中
  • 自分のおばあちゃん

  • 頭に花が咲く人(花が葉っぱに埋もれて見えない人)

  • ユニコーン

  • 近所の怖かった人が穏やかになるようなマスク

  • サンバを習っている友人

  • キルスティン・ダンストがハリウッド版の口裂け女を演じるときにつけるマスク

  • サボテン

  • ニコラ・テスラ(彼の発明したマスクをつけてみたい)

  • 女ヤンキーのボス

  • ハヌマーン神

  • 火星に移住した時に火星人に配る用のマスク

等、個性豊かなラインナップとなりました。

自分が誰のマスクを作りたいか発表!

ワークショップ② グループでマスクのイメージボードを作ろう。

作りたい対象が似た者どうしで集まり、マスクのイメージボードを作ります。
だれかひとりを対象に決めて作っても、みんなのモチーフを合体しても、ストーリーを作ってもOK!妄想は自由なのです。

堂本さんのアドバイスを受けながら
チームでマスクのコンセプトを練っていきます

各グループ妄想を膨らませて作った素敵なマスクをご紹介します。

・サボテン/頭に花が咲く人チーム

軽く、柔らかくても形を保てる新素材を使用。
空気穴から汚れた空気が入ると綺麗な空気が出て行くしくみ。
なかなか花が咲かないサボテン君にもデザインとしてお花を添えて。

人類は口と鼻を使わなくなり、光合成だけて生きられるようになった世界。
空気は常に浄化が必要なほど汚れていて、マスクは必需品です。

・おばあちゃん/近所の怖かった人チーム

むかしむかし200年ぐらい前におじいさんとおばあさんがいました。
おじいさんは短期でおばあさんは優しい性格でしたが、90歳、96歳くらいで亡くなって、天国でこのような姿に…!
怒っているときは般若のようで、穏やかな時は後光が入る、リバーシブルのマスク。

いつしか夫婦は一体化して神様になりました

・ユニコーン/火星人/ニコラ・テスラ/ハヌマーン神チーム

ユニコーンも火星人にもハヌマーン神にもだれにでも使えるマスクをニコラ・テスラが発明しました!
素材は水で土地の酸素濃度によらず水が酸素を運んでくれます。なんと温度調節可能で、暑い日も寒い日も大活躍です。
顔の形や利用する土地によって、自由にカスタマイズできるマスク。

左が着用イメージ、右が素材の構造図。
ほしい!宇宙旅行に活用できそう!など実用化希望の声が多数

・女ヤンキーのボス/口裂け女/サンバチーム

このマスクは隠しすぎません!
赤・金色を基調としたデザインはヤンキーの威嚇感、のれんはサンバからインスパイア。口裂け女・ヤンキー・サンバと3つの要素を組み合わせて。

口裂け部分を隠さない透け感がポイント。

個性豊かな面々でしたが、グループ内で良くまとまった!と堂本さんから拍手を頂きました。

ここからさらに、完成したマスクをつけて踊る、シーンを作る、デザインを言葉にする、動きにする、音にする…等、妄想が広がってきそうだ…!と感想が飛び交っていました。

終わりに

ひとりでする勝手な妄想も楽しいですが、
グループワークを通して、自分だけでは思いつかなかった妄想がポンポン生まれてくる過程が面白かったです。これこそ、素敵な妄想ができたワークショップでした。

舞台の衣裳じゃなくても、毎日着るお洋服に妄想をちょこっとプラスしたいと思い、魔法使いをイメージして購入したシャツをこっそりジャケットの下に忍ばせて、マスクの下でうふふ。となりながら、朝の満員電車に乗り込むのでした。

堂本さん、ありがとうございました!

(撮影時のみマスクを外し、無言で撮影いたしました)


サポートは僕自身の活動や、「松井 周の標本室」の運営にあてられます。ありがとうございます。