コロナ対策最前線の経験から④制度自体の矛盾・現場を使い捨てないで欲しい


▶ コロナ対策最前線から①「先が見えないのが一番つらい」緊急事態宣言出すなら生活保障を!      
▶ コロナ対策最前線から②総合支援資金を借りると余計に苦しくなる?? コロナ対策最前線の経験から③社協を辞めた人間がどうしても伝えたいこと:医療崩壊だけじゃない!「相談崩壊」の危機  の続きです。


■追いつかない人員体制、厚労省マニュアルの矛盾  

ナゼこんなに時間がかかるのか? なぜこんなに使いづらいのか??

まず人員体制ですが、制度開始から1年経つにもかかわらず、100倍を超える申請に対応できる体制に全くなっていません。

人件費については、2月19日の国会での高井議員の質問に対し、厚労省・生活困窮者自立支援室の岩井大臣官房審議官より「貸付原資と貸付事務費一体で全額国庫負担1兆1800億円を計上しており、ここから人件費を支出することが出来る」との回答がありました。しかしどういう仕組みか知りませんが、少なくとも制度開始の年度末になっても市区町村の申請窓口社協には人件費は付いていないままです。職員は一人も増えていません。

そして、根本的な問題は、審査のある貸付という制度自体の矛盾です。
厚労省マニュアルは「迅速に」と言いながら、「きめ細かい支援を」と言います。審査の段階で自立支援の目途を立てろという。例えるなら、今すぐ緊急手術が必要な急患に対して「術後のリハビリプラン出来てからね!」と言ってるようなものです。

いやいや救命が先でしょ!!!

緊急性と「きめ細かい支援」は物理的に両立しません。まずは緊急手術、リハビリとかは命を取り留めてから、その後のハナシのはず。
二つの矛盾するオーダーをいっぺんに出してるからおかしなことになってる。オーダーと現実があってないんです。
緊急性を優先するなら、審査なんてやってる場合じゃない。最低限の確認でいくしかない。しかも返済不要なら、そもそも貸付である必要があるのか。職場の同僚はみんな言ってました。「こんな申請とか審査なんか意味ない、もう最初から給付でいいじゃないか」、と。


■全国の社協職員の声 ツラいのは激務だからじゃない 

現場の社協職員が苦しんでいるのは、究極的には激務だからじゃないんです。社協本来の相談援助が出来ないからです。
どんなに心身がキツくても、制度が役に立っているのならまだモチベーションも保てます。最大の問題は、膨大な時間と労力をつぎ込んでいるにもかかわらず、一番必要な時に役に立てない、相談者の方々の生活再建に繋がるとは言い難いからです。
手続きを簡素化すればいいとか、窓口の人間を増やせばいいとかのレベルで済む問題ではないんです。これは全国の多くの社協職員の声でもあります。

「関西社協コミュニティワーカー協会」が立ち上げた「社協現場の声をつむぐ1000人プロジェクト」にて実施した
特例貸付に関する緊急アンケート「速報」を公表 しています。

(全国の社協職員1,184人が回答)


【緊急メッセージ】(2月4日、中間報告の追記)より抜粋
1. 特例貸付の意義と限界
特例貸付は、迅速な資金を供給してきており、他の給付が少ない中、「命と生活」をつないできました。しかし迅速さを求める一方で、「丁寧な相談支援ができないジレンマ」を非常に多くの職員が抱えています(76%)。新型コロナウイルスの影響が長期化する中、貸付だけでは生活に困窮している状態にある方を支援することには限界があり、公的支援の一層の拡充と、さらなる重層的な相談支援体制の強化が必要不可欠です。
2. 特例貸付だけでない新たな困窮者支援策が必要
2回目の緊急事態宣言、新型コロナウイルス感染症収束の兆しが見えない中、生活が困窮し深刻化する世帯が増えています。特例貸付借入後もなお、生活に困窮している世帯が生活保護を申請するにはハードルが高い状況にあるため、生活保護制度のより一層の弾力運用を求めます。そして、何よりも貸付に代わる新たな困窮者支援策の早期創設など、「より良い困窮者支援」に向けた公的施策の実施を求めます。


全くその通りだと思います。
迅速さを求める一方で、「丁寧な相談支援ができないジレンマ」を8割強の職員が感じている。
貸付だけでは生活に困窮している状態にある方を支援することには限界があり、だからこそ貸付に代わる新たな困窮者支援策の早期創設など、「より良い困窮者支援」が不可欠だと思います。

問題はこれから先です。


■出口が見えないから皆苦しんでいる


去年3月の特例貸付開始直後から最初の緊急事態宣言下の相談殺到の「第一波」、延長申請の「第二波」に続いて、今年2月19日からの再貸付開始で「第三波」が到来しています。制度開始から現在までの申請数は170万件に達し、延長や再貸付でさらに倍増すると見られています。
しかし、6月で国の緊急対策がほぼ時限を迎えるため、持続化給付金、住宅確保給付金(家賃補助)、そしてこの特例貸付といった制度が終了します。


その後、国はどうするのか。緊急事態宣言やまん延防止重点措置が出る度に特例貸付を延長するのでしょうか。

国は出口戦略を示してほしい。先が見えないから相談者も社協職員も苦しんでいるのです。
もしまた特例貸付延長となったら、これまでなんとか耐え凌いできた社協職員の疲弊は限界に近く、今度こそ持ちこたえられないかもしれない。申し訳ありませんが、私は力尽きて離脱しました。知っているだけで何人もの社協職員が辞めており、突然新人が担当せざるを得ない場合も少なくありません。こんなことが続けば、相談者にとっても支援を受けたくても相談できない「相談崩壊」が現実になりかねません。そもそも現在、審査結果が出るまで2ヶ月かかってる時点で既に崩壊しています。


■現場職員を使い捨てないで欲しい


現場職員が住民との板挟みの犠牲になる事態は、既に被災地で何例も起こってしまっています。
東日本大震災の復興応援で現地へ長期出張していた自治体職員が、「自分が被災地に役立っているのかわからない」と苦しんで自殺した痛ましいケース↓


復興派遣の宝塚市職員の自殺、被災地に悲しみ 対策強化へ
”時期は不明だが、宝塚市の元上司に「復興の役に立っているか分からない」と打ち明けていたのが、かすかなサインだった。”
”カレンダーに「大槌は素晴らしい町です。大槌頑張れ」と書き残した職員の死。岩手県内の応援職員の自殺は昨年7月、陸前高田市に盛岡市から派遣されていた男性職員(35)が自殺して以来2例目で、県や各市町では職員のケアに入念に気を配ってきたはずだった。”


また、福島県でも、被災者でもある自治体職員のメンタルヘルスが著しく低いという報告がされています。


福島のもう一つの危機 被災自治体職員の疲弊 
ヒーローにしなくてもよい。ただ、もっともっと理解が必要だ

前田正治 福島県立医科大学教授


一般住民より著しく低かったメンタルヘルス指標
(福島県の2つの被災自治体職員約150名に対して、複数の精神科医による面接調査を実施した結果)”ほぼ全員に診断面接を行った結果、約2割の職員がうつ病と診断され、1割弱に自殺リスクを負っている職員がいたのである。さらに7割超の職員が睡眠障害で悩んでいた。彼らの多くが面談で言葉にしたのは、仕事の量的負荷が大きいことはもちろん、将来が見通せないこと、住民からの怒りに頻回に接したことなど多岐にわたる業務上のストレスであった。そして、彼ら自身もまた被災者であるにも関わらず、立場上被災者としての苦悩を語ることができずにいる、すなわち支援を求めることができずにいることも明らかとなった。”


もちろん震災とコロナ禍は違いますし、苦悩は比べ物にならないでしょう。ただ、国の制度と住民の間で生じる矛盾で批判をぶつけられるのはいつも現場職員です。


職員にも心があります。毎日板挟みで平気な訳がありません。
もうこんなことは繰り返させないで欲しいんです。


相談者と窓口職員がお互いをすり減らすような不毛な事態をいつまで続ければいいのですか?


現場を使い捨てないで欲しい。
国は、その場凌ぎの矛盾のたらいまわしはもういい加減やめて、今度こそツギハギでなく根本的な困窮者支援を構築して欲しい。
こんな緊急事態に、ほぼ特例貸付しか救済策が無いというのはあまりにも手薄過ぎる。制度の不備であり政治の怠慢です。社協職員個人や全社協がどんなに頑張っても、現場だけではどうしようもありません。

どこが困窮者支援を担うにしろ、きちんと相談を受け止めることが出来る体制にしてください。現場職員が燃え尽きて去ることで窓口崩壊が起こる前に。もう頑張れなかった元職員からのお願いです。

もしサポートいただければ幸いです。