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コロナ対策最前線の経験から③社協を辞めた人間がどうしても伝えたいこと:医療崩壊だけじゃない!「相談崩壊」の危機


▶ コロナ対策最前線から①「先が見えないのが一番つらい」緊急事態宣言     ▶ コロナ対策最前線から②総合支援資金を借りると余計に苦しくなる?? 
の続きです。


■社協を辞めた人間から、最後のお願いです


突然のご報告で恐縮ですが、社協を退職しました。

理由としては、3月から睡眠障害が酷くなり、生理が止まり、歯が欠け、原因不明のめまいで立ち上がれないことが度々発生し、体力の限界を感じたこと、加えてトリプル介護の開始と、何より本来の相談援助ができない社協に展望を持てなくなったことです。

ただ、退職を決めていたから腹を括ってこれまで発信できた面もあります。共鳴し拡散下さった方々に感謝します。力及ばず申し訳ありません…。もう現場社協職員としての発信は出来ませんが、それでもどうしても伝えておかねばならないと思う制度の矛盾や現場の実態等だけは記させてください。

これまで、「一番大変なのは相談者だから職員の愚痴はなるべく言うまい」と思って封印してきました。しかし発信しないと問題自体が存在しないことになってしまう。だから現状が1ミリでも良くなるよう願って綴ります。

現場で何が起こっていたのか。

大変さを強調したいわけでなく、カウンター越しに相談者と現場職員が削りあうような事態を終わらせてほしいのです。

そして政府には今度こそ付け焼刃でなく、困窮した世帯が安心して再建できるよう生活保障の実現をしてほしい。そのために政治家の方々は党派を超えての尽力をどうか伏してお願いします。

(数回に分けて掲載します)


■突如始まった緊急対策、サンドバックの日々


社会福祉協議会(略して社協)で実施してきた「生活福祉資金」は元々が低所得世帯を対象とする貸付で、貧困の再生産を防いだり再建を支援するのが目的です。私の職場だった市区町村社協はその申請窓口で、相談者と面談し世帯の状況を詳しく聴き取って方向性を一緒に考えながら最適な制度等に繋げつつ、返済終了まで支援していくのが役割です。申請者から提出された申請書類を都道府県社協に提出し、都道府県社協が審査と貸付を行うシステムになっています。

しかし今回のコロナ禍で突貫創設された「特例貸付」では、全くそんな伴走型支援をできる状況ではありませんでした。

何の根回しもなく国から制度が発表されたのは去年2020年3月19日、申込書などの詳細が国から都道府県社協を通じて現場に示されたのは、なんと制度開始前日3月24日午後。そのまま3月25日当日に突入しました。

新型肺炎で困窮なら相談を 生活福祉資金の特例スタート(週刊福祉新聞3月30日号)

貸付対象が低所得世帯限定から「コロナの影響で減収・失業した世帯」と大幅に緩和されたため、膨大な方々が対象となりました。制度開始初日は開所時間前から長蛇の列ができ、連日電話鳴り止まず、職員総出でも追いつかず、国会やワイドショーで取り上げられる度に問い合わせ件数が跳ね上がり、「返さなくていい」「申し込んで2日で(貸付が)出る」という誤情報を修正して説明するのに時間を要し、相談者からは「電話が繋がらない」という苦情が入り、ようやく申請できた人からは「いつ結果が出るんだ?!何が緊急対策だ」と罵倒され、さらに時間がかかってしまうという悪循環。通常業務は日中全くできないため終業時間後にやらざるを得ず、職員の疲弊は累積していきます。他部署からの応援が入るも毎日は到底無理で、焼け石に水状態でした。

制度開始の3月25日から最初の緊急事態宣言直後の4月18日までに、全国の社協で受け付けた申請数は7万1922件。1日当たりの申請件数は4月18日の週の平日は6300件超え。瞬間風速とはいえ通常の190倍以上、10年分の申請が一挙に殺到したのです。
※数字の根拠詳細は注釈をご参照ください

リーマンショック後の対策として総合支援資金が創設された時には、国から各市区町村の申請窓口社協に1人ずつ専任職員が増員されました。今回はそれすら無し。例えればほぼノーガードのまま応援部隊も兵糧も一切ない丸腰で最前線にいきなり立たされたようなものでした。

■「きめ細かい支援」など物理的に不可能

感染拡大防止のため多くの自治体がホームページからのダウンロード可能にしたり郵送受付に切り替えましたが、それでも待ちきれずに飛び込みの来所相談があります。条件に該当すれば申請書類を手渡し。提出された申請書類をチェックし、不備の場合は連絡してとにかく書類を揃えて都道府県社協へ送付する、延々とひたすらその繰り返し。

制度発表時、3月19日付の厚生労働省マニュアルには「きめ細かく配慮」「聴き取りを丁寧に」といった記載がありました。言われずともわかってます、そもそも生活福祉資金はそういうものだから。
わかってますけど!ひとりひとり丁寧に聴き取りたくても、1人5分以上話を聞くと滞ってしまうこの状況でどうしろと?? 

聴き取る人間が! 現場には!! これ以上おりません!!!

憤怒し続けても何の好転もない日々に疲れ果て、ある瞬間から私も諦めました。そうしないと終わらないから。そして相談者もそんなことを求めていなかったからです。

高齢や介護、病気や障害等のため、貸付ではどう考えても余計に困窮化すると思われる世帯からの相談も少なくありませんでした。生活保護でいったん立て直してはどうかと提案もしましたが、「それだけは絶対にイヤだから相談しているのに、なぜそんなことを言うのか」と頑なに拒絶する人が殆どで、「細かいことはどうでもいいよ!貸せるのか貸せないのかどっちなんだよ?!」と逆上されることも。
金貸しとしてしか宣伝されていないのだからそれも当然でしょう。だから何も考えずひたすら「申請書類を送る装置」と化しました。日々、自分の中で何かが死んでゆくのをどうすることも出来ない。

それでも必死に処理し続け、私たちの職場は5月の連休までに受理したすべての申請書をなんとか都道府県社協へ提出し終えました。

■ベルトコンベアと化しても間に合わない無力感

しかしその後の審査結果がなかなか出ない。申し込みが殺到し、審査機関である都道府県社協はどこもかしこもパンクしていました。自治体によって相当の差が生じており、緊急小口の貸付決定まで早いところで10日、遅いところで1か月、総合支援資金は早くて3週間、遅い自治体は3か月かかっていました。
毎日毎日鳴る電話。「審査結果はまだなんですか?」といった縋るような声、「あなたに言っても仕方ないって分かってるんだけど、ホントに急いでるんですよ。なんとかなりませんか?」という繰り返しの問い合わせ、そして「早くしろ!どれだけ待たせるんだ?!」等といった怒号を浴びせられ続けました。

一番必要な時に間に合わない、こんなに時間がかかるんじゃ役に立たない。それは誰よりも私たち職員自身が痛感していました。でもそれ以上、窓口では何も出来ることが無い。あとは申請者同様、審査結果が出るまで待つしかない。自分が壊れるか他の職員が倒れるかどちらが早いか…と感じる中、ある日問い合わせの電話がピタリと止まりました。自治体での特別定額給付金10万円の申請受付が始まったのです。

今度は行政窓口で、電話殺到・行列・罵声という光景が再現されることになりました。

                        (続きます)


注釈 

100倍以上の根拠:
▶ニュースソース:4月24日NHKニュース
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200424/k10012403591000.html
3月25日特例貸付制度開始から4月18日までの全国申請数は7万1922件、1日当たりの申請件数は緊急事態宣言直後の4月18日の週の平日は6300件超え。

▶ニュースソース:週刊福祉新聞4月27日付
東京都社協も「リーマンショック後10年間でも9,000件ほどだった。今回は1か月も経たずに、特例の貸付だけで10年の年間支給件数を上回った」と指摘。

貸付件数データ
▶ニュースソース 厚生労働省HP  令和元年11月13日付資料より
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000633459.pdf
平成29年の貸付件数 緊急小口資金と総合支援資金 小口7,547件 総合731件 計8,278件

上記データから計算しました
29年度の平日(土日祝除く)日数の247日で8,278件を割ると1日当たり全国の通常貸付件数は33.5件
3月25日制度開始~4月18日の全国申請7万1922件を23日間で割ると1日当たり3,127件→通常件数の94.75倍
緊急事態宣言直後4月18日の週の平日1日当たり6,300件→瞬間風速とはいえ、通常件数の190倍以上

なお申請は必ずしも全件貸付とは限りません。制度開始後は緊急時だったため土日祝も日数にカウントしています


ヘッダーPhoto by anaritaさんです。感謝して拝借いたします

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