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【ネタバレ有】『ライブ・スペクタクルNARUTO』8年分の感想/後編~劇団NARUTOはなぜ「スターが育つ」のか【 #舞台NARUTO 】

前回、前々回の続きです

ライブ・スペクタクル『NARUTO~忍の生きる道~』大千穐楽おめでとうございました。後編では少々ネタバレを含むエピソードもまじえながら、全体の総括をしていきます。


2.5次元舞台は「新人公演的」である

当作に出会って8年間、一番強く感じたのは、2.5次元舞台やミュージカルから、なぜこんなにもスターが排出されるのかということでした。
そして最終章が始まったとき、1つの気づきがありました。

2.5次元舞台でスターが育つのは、漫画という”究極のお手本”があるから。そんな仮説を思いついたのです。

面白いことが担保されている筋書と、ビジュアルを中心とした確固たるお手本。それを読解していきながら、自分の演技に落とし込んでいく作業。
2.5次元舞台の俳優たちはこれをやっているから強いのか、と気づきました。もとい、他の舞台をたくさん見たわけではないので……、少なくとも「劇団NARUTO」の若手俳優たちはそのようにして毎回驚くべき成長を遂げて行っているなって。

私はこの若手たちが「舞台のOJT」とばかりに頑張る姿に見覚えがありました。
それは、宝塚歌劇の新人公演のようだと思ったのです。

宝塚の新人公演とは、大劇場で興行される本公演と同じ演目を研究科7年目までの出演者だけで上演する1日限りの「研修公演」のようなものです。本公演の役者たちは「本役さん」と呼ばれ、新人たちは公演中、自分の役や役割と別に、その「本役さん」をお手本として研修公演のお稽古をします。
圧倒的なお手本を前に、完全にトレースしようとがんばるのか、オリジナリティを出すのか。それもまた新人さん1人ひとりの個性であり、どちらにしても、彼女たちはその「圧倒的なお手本」と格闘することで心技体を磨き、一人前のタカラジェンヌになっていく、というものです。

2.5次元舞台やミュージカルにとっての「本役さん」は、まさに原作。
アニメの声優さんを参考にする人もいました。一方、アニメは観ずに、漫画だけに向き合った子もいました。しかし、どの子たちも「圧倒的なお手本」を前に、それぞれが必死に自分に役を入れようとしたことは、舞台上からひしひしと伝わってきました。それも、8年間ずっと。

その結果、8年舞台を守り続けた佐藤・伊藤は押しも押されぬトップコンビになり、中尾くんを中心に途中からジョインした若手たちをリードする存在に。若手たちも続いて目覚ましい活躍を見せました。
8年で、”全員が主役級”と言っていいほどのスターぞろいの座組になりました。

私は拙著でも、宝塚歌劇団を「スターを育てる学校」と言ってきました。そしてそれは、唯一の存在だと思っていた。
しかし、劇団NARUTOも、ただの作品を越えて「スターを育てる座組み」となったと思っています。8年ロングランという異例の興行形態がそれを叶えました。すごいものを目の当たりにしてきたなと、今も感動で震えるようです。

児玉さんと悠未さんもまた、その昔”木ノ葉の子どもたち”だった

なぜ「宝塚の新人公演」の話になぞらえたか。
実は、脚本・演出の児玉明子さんと、大蛇丸役の悠未ひろさんをつなぐキーワードが「新人公演」だったからです。

2004年宙組大劇場公演『白昼の稲妻』。約20年前、この作品の新人公演主演を悠未ひろさんが務め、その演出を児玉明子さんが担いました。
しかも、二人は1997年入団。児玉先生は大卒ですので年齢こそ違いますが、二人は入団同期でした。

私は部外者ですから、彼女たちがどんな絆で結ばれていたかは知りません。むしろ、児玉さんは特に座付き作家の中でも、そういう「仲良しエピソード」を口外しないタイプです。
ですが、悠未さんは2013年に退団し、2015年の初演からジョインしています。ということは、退団直後に出演のオファーがあったのではないかと……。ネルケが今から辞めてくる人のことを良く知ってるとは思い難いので、児玉さんからの提案なのかなと予想してしまうわけです。

「そういえば白昼の稲妻の二人だな」「え、この2人って同期入団だったの?」
あとからそんな”因果”に気づくとき、最終章の舞台の上が本当に「木ノ葉隠れの里」に見えました

柱間とマダラがお互いの友情を諦めずに、ともに手を取り合って夢をかなえることができたら、こんな景色なのかもしれない――

私は「新人公演的」な劇団NARUTOを見て、松岡くんや佐藤くん、優衣ちゃんをはじめとした若手スターたちを「木ノ葉の子どもたちのようだ」と思ってきました。
ですが、彼らだけではなかった。

悠未さんも児玉さんも、ともに芽吹き火の意志を燃やした「木ノ葉の子どもたち」だったのです。

”抜け忍”と”忍び耐える者”のつくった、現実が創作が超えた”木ノ葉隠れの里”

悠未さんは2013年宙組日本青年館公演『逆転裁判3』で主演を務めたのち、同年に退団しています。宝塚はスターシステムというものがあり、トップスターを中心としたピラミッド型の組織で興行しています。
悠未さんは包容力と色気のある素晴らしい男役スターでしたが、その「トップスター」を目指すレースには一歩及ばず、ご自身で勇退することを選ばれています。

一方、児玉さんはどのように宝塚を後にされたか。その件は、前々回の記事に書かせてもらっています。

児玉さんは元宝塚歌劇団の座付作家でした。
今ここまでの大作を生み出し、スターを育て、ワールドツアーまでするような作家になっていますが、在団中の宝塚ファンからの評判は芳しいものではありませんでした。先述の『メイちゃんの執事』のように支持された作品もありつつ、トップスター率いる本公演の演出がファンの間で物議を醸し、表向きはそれのせいということにはなっていませんが、なかば追い出されるように2013年に退団しています。
つまり、彼女自身が「里を抜けた」経験がある
サスケやイタチ、マダラ、暁の面々でもあるわけです。

【ネタバレあんま無】#舞台NARUTO ”抜け忍”が描く本当の「愛とリスペクト」【2.5】

自らの道に自らで見切りをつけ、里から降りてきた悠未さん。
自らの信じる道を必死に追い求めながら、里を追われた児玉さん。
ここまで話せば、『NARUTO』を知る人なら、いろんな人物たちに重ねずにはいられないと思う。

柱間とマダラ、オビトとカカシ、ナルトとサスケ・イタチ……

しかし、面白いのは、一見「うちはの者」のような児玉さんが一番、「ナルト魂」を心に秘めた作家であるという点です。
彼女って宝塚時代から、希望に満ちたキラキラした物語と歌詞を書くんですよ……。それはナルステのファンのみなさんの方が、多かれ少なかれ感じていると思います。児玉さんの「内なるナルトっぽさ」みたいなものを。

だから、『NARUTO』と違うのは、誰も闇落ちしていないという点です。
悠未さんは相変わらず大らかであたたかい。いろいろ解決した後にまで、サクラちゃんから「モラル欠如のヘビ野郎」なんて言われるような奴🐍を演じるには、あたたかすぎるほどあたたかい方。
児玉さんは、誰よりも自分の信じた道を曲げません。続編を続けていくなんて、しかも72巻もある作品を……。それを書ききられたのには、宝塚にいるとき以上に「私たち観客を信じてくれている」と思えました。

柱間とマダラ、オビトとカカシ、ナルトとサスケ・イタチらが、誰かの心を壊したり、血を流したりしないと得られなかった「夢」が、確かに眼前に広がっている。それが「舞台NARUTO」だったなぁと思うのです。
漫画よりも奇跡のようなことに立ち会えた幸せを、強くかみしめました。

元宝塚の座付きならではの「究極のサヨナラ公演」でもあった

最終章は、見せ場につぐ見せ場の連続でした。
特に印象に残ったのは、伊藤優衣ちゃん演じるサクラと七木奏音ちゃん演じる香燐の「ナルト/サスケを死なせない」と絶唱するデュエットでした。

長くなってきたので埋め込みで逃げてるんですが()、こういった、単に原作を追うのではなく、8年もともに歩んでいるからこそ「演者と演者のファンに寄った」と感じられる見どころもたくさん用意されていました。
そして、それにも私は”見覚え”がありました。

それは、宝塚歌劇の「サヨナラ公演」。つまり、退団公演ということです。
宝塚歌劇では近年、トップスターやトップ娘役などのスターが退団するとき、それ相応の“はなむけ”に値する作品や場面を用意することが通例です。
さらに、スターたちに限らずその公演で退団する人たちに対して、セリフやソロを与えるなどして、送り出す風習があります。

今回の『~忍の生きる道~』は、まさにその様相を呈していると思いました。
全員がこれで最後。まさに最終決戦。主人公の2人や先述の伊藤・七木以外にも、多くの演者が見せ場を用意され、両手いっぱいのスポットライトを浴びていました。

宝塚を25年以上見ていて、その歴史や伝統を愛している私ですが、たった8年でそれに匹敵する「スターを育てるカンパニー」に育ち、さらに「貢献したスターたちを送り出している」こと。かつ、それがメインディッシュではなく、あくまで物語の飾りとして、物語は原作からそれることはない……

宝塚は何という人材を手放したんだろうなと思います。
私は『宝塚の座付き作家を推す』なんて本を出していて宝塚の座付き作家を熟知していると自負していますが、こんなに演者を大きな愛で包み、作品の質にもしっかりこだわれる作家を後にも先にも知りません

舞台NARUTOを応援なさっているみなさまくらいには、ぜひその点を知ってほしいと切に願うばかりです。

単なるロングランを超えた”長編完結”というネルケの英断

当作は、2015年の初演から5部に分けて72巻を完結するという、異例の興行となりました。これまでワーワー絶賛してきたことも、この異例の興行形態に基づくものです。

だからこそ、ライブ・スペクタクル『NARUTO』シリーズを語る上では、単なる作品の良し悪しだけでなく、制作サイドの英断にも目を向けねばならないと思います。
なぜなら、これは演劇に限らず出版も同じなのですが「続編」って売れないのがセオリーだからです。制作会社の英断に改めて敬意を表したいです。

続編に進むにつれて集客ができるようにという魂胆で、2.5次元のスター候補たちを木ノ葉の子どもたちに集め、育てることで集客につなげるという目論見もあったのかな?と想像してはいますが、それにしたって大きな賭けです。
いくら原作者や版元全面協力の旗揚げとはいえ、初回のクオリティが低かったらこけるわけだし。そこは、児玉さんの責任、重大過ぎる。
そこを乗り越えたからといって、見出した彼らが、その後ずっと俳優を続けてくれるかも保証はできない。
今日、サクラ役の伊藤優衣ちゃんが、サスケ役の佐藤流司君に向けて「この8年間サスケくんで居続けてくれて本当にありがとう」と、Instagramのストーリーズで発信していたけど…… それぞれの場所で活躍しているからこそ、辞めたいときも投げ出したいときもあっただろうから、この、役者から役者への「続けてくれてありがとう」って、本当に重いなと思うんですね。

だから本来は、演劇をやる人ほど「すげぇことやってんな」と思うはず……なんですよね、この興行。
でも、どこか2.5次元舞台やミュージカルは、骨太なことをやっていてもミュージカル界からもストプレ界からもイロモノ扱いで見られる節があるので、その「伝わらなさ」には歯がゆい思いをした8年でもありました。
ま、わからない人にはわからなくていいんだけど。
とはいえ、もっともっと観てもらいたかったな、という心残りも若干あります。

単なるロングランもめずらしい日本演劇界において、”長期完結”で1つの物語を完遂しようとする、ある種映画的な手法を舞台で取り入れること。
2.5次元ミュージカルの枠を超えて、日本演劇界においてもエポックメイキングな作品となったはずです。これはどうしても遺しておきたい。

よそむけの御託はこれくらいにして、最後に。
精神世界でナルトが六道仙人に向かってこういいます。

「死んでさえずっとなげーこと見守ろうとしてきた世界が こんなになってんのに まだオレたちのことを信じてくれてありがとう」

私は、この言葉をそのまま、児玉さんとネルケに伝えたいです。

正直、大衆は愚かです。観客も、増えれば増えるほど愚かさは増していくでしょう。

でも、六道仙人がそうしてくれたように、世の中を信じ、過去の反省を活かしながら少しずつ前に進んでいけば、もっともっといいジャンルになるんじゃないかなと。

集客とかプロモーションとか、いろいろご苦労はあったと思いますが、なにとぞ今後も、こういった骨太な作品が拝見できることを期待しています。
そのためにも、ネルケ製作の他の作品も関心をもっていこうと心に決めていますので、マジでがんばってくれ。がんばれ~~~

翻案を見る、読む楽しさを再認識し、可能性が広がった大切な作品

繰り返しますが、漫画『NARUTO-ナルト-』は大好きな作品です。何度も読み、隅から隅まで「オタク」のつもりでいました。
でも、それは違いました。
生きている人が演じることで見える人物の深層。それらが有機的にかかわりあって紡ぎだす新しい解釈。
毎公演発見ばかりで、私なんか何も見えていなかったんだなと痛感しました。だからこそ、ただただ楽しい8年間でした

私は大学の卒論で”翻案”を扱いまして(それも実は児玉先生の作品だった)、人より「原作厨」ではないはずなんです。ものによっては、香が死んだだけで暴れたりするけど、基本的には「翻案1回見てみよ~!」の姿勢でいます。
それでも、大好きすぎる原作を前に、当作を観るのは結構勇気が要りました。
それなのに。改めて、本当に出会えてよかったです。

こんなに好きな作品でも、自分の目と頭だけでは到達できない読解があると知れたから。

ただ、先ほどから香が死んだだけで暴れたりしているように、何でもかんでも翻案を受け入れろということではありません。私も、見たうえで怒り狂っている作品はあります。ガストン・ルルーの原作を愛するからこそ、『ファントム』絶対に許せないということは、これからも永劫譲るつもりもはありません。

長編の漫画や小説の翻案って、書かなかった人、書けなかったエピソードなどが多く存在するものです。
でも、”縮小”しているように見えて、演者や作者を通して世界が広がっていくときがあるんですね。
そんなところに、翻案の一番の面白さがあるなって。劇団NARUTOが紡ぎだしてくれた「木ノ葉隠れの里」を眼下に思い出して、そう思うのです。

「自分の目を一度疑う」ということを今後もして行きたいと感じるし、そうやって読む楽しさを広めていきたいと再認識させられた作品。それを、大人になって読んで一番心震えた漫画『NARUTO-ナルト-』で経験できたこと。とっても幸せだったなと思います。

本当~~~~~に
大好きだ

★★★2023年3月・書籍を上梓しました★★★

宝塚の座付き作家を推す!   スターを支える立役者たち 七島 周子(著)
四六判  280ページ 並製
定価 2000円+税
ISBN978-4-7872-7453-3 C0074

https://www.seikyusha.co.jp/bd/isbn/9784787274533/

ISBN978-4-7872-7453-3 C0074
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