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天照大神と須佐之男命

須佐之男命の昇天(すさのおのみことのしょうてん)

葦原中国(あしはらのなかつにく)から追放されたスサノオは、高天原にいるアマテラスに会ってから黄泉の国に行くことにします。

スサノオが尋ねてくるたと知ったアマテラスは「私の国を奪おうとしている」と思い、男装して武装して待ち構えます。

「どういうわけでやってきたのか」と聞かれたスサノオは事情を説明します。そこでアマテラスは「どうしたらそれがわかるのか」と問い、スサノオは「では誓約(うけい・うけひ)をして、確かめましょう」と答えます。
*誓約とは吉兆を判断するときにルールを決めて占うもの。

さて。どうなることでしょうか。

天の安の河の誓約(あめのやすのかはのうけひ)

アマテラスとスサノオは天の安の河を中にはさんで、誓約(うけい)をします。

まずアマテラスがスサノオの十拳剣(とつかのつるぎ)を受け取って、3つに打ち折り、噛んで息を吐き出すと三柱の女神が生まれます。

●多紀理毘売命(タキリビメノミコト)
またの御名は、
奥津島比売命(オキツシマヒメノミコト)

●市寸島比売命(イチキシマヒメノミコト)
またの御名は、
狭依毘売命(サヨリビメノミコト)

●多岐都比売命(タキツヒメノミコト)

次にスサノオがアマテラスの玉の緒を噛んで息を吐き出すと、五柱の男神が生まれます。

左の角髪(みづら)の玉の緒から
●正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命
(マサカツアカツカチハヤヒアメノオシホミミノミコト)

右の角髪(みづら)の玉の緒から
●天之菩卑能命(アメノホヒノミコト)
※出雲系諸氏族の祖神

御かづらの玉の緒から
●天津日子根命(アマツヒコネノミコト)

左の御手の玉の緒から
●活津日子根命(イクツヒコネノミコト)

右の御手の玉の緒から
●熊野久須毘命(クマノクスビノミコト)

アマテラスは言います。五柱の男神は私の物から生まれたので
私の子です。三柱の女神はあなたの子です。

三柱の女神は、宗像三女神(むなかたさんにょしん)であり、多紀理毘売命は、宗像大社の沖津宮に、市寸島比売命は宗像大社の中津宮に、田寸津比売命は宗像大社の辺津宮に鎮座されています。

須佐之男命の勝さび(すさのおのみことのかちさび)

誓約(うけい)の結果を受けてスサノオはアマテラスに言います。

「私の心は忠誠です。だから私はたおやかな女性を生みました。
私の勝ちです」

お気づきでしょうか?この勝負、どうやったら勝ちなのかが事前に決まっていないのです。

アマテラスが男神5柱を生み、
スサノオが女神3柱を生んだ。

事実はこれだけです。
なのにスサノオが勝ったことになっています。

そして事態は悪化します。

スサノオは勝ちにまかせて、アマテラスが耕作している田の畔を壊したり溝を埋めたり、神聖な神殿に糞をまき散らしたり。

これをアマテラスは良いように解釈して許します。
するとスサノオの行為はさらにエスカレート。

神聖な機屋の屋根から皮をはいだ馬を落とします。驚いた機織女は、死んでしまいます。

スサノオはせっかく誓約で自身の心が清らかであると証明されたのに、その瞬間に傲慢になって悪行の限りを働くのです。

ここで本当は何が言いたいのか?
人の心の弱さなのか
祓の重要性なのか
考えさせられます。

そして、アマテラスがどうしたか?が次のお話です。

天の岩屋戸(あめのいはやと)

スサノオの乱暴がエスカレートしていくので、アマテラスは恐れおののいて天の岩屋戸に隠れてしまいます。これにより高天原も下界も暗闇になり、あらゆる禍が起こります。

困った神々は天の安の河原に集まって、タカミムスヒの子の
思金神(オモヒカネノカミ)
に考えさせて、
まず常世の長鳴鳥(ながなきどり)を集めて鳴かせます。

次に
伊斯許理度売命(イシコリドメノミコト)
に命じて鏡を作らせ
玉祖命(タマノヤノミコト)
に命じて大きな勾玉がついた玉の緒を作らます。

次に
天児屋命(アメノコヤネノミコト)と
布刀玉命(フトダマノミコト)
を呼んで鹿の骨で占わせます。

次に
榊に勾玉や鏡や布をかけ
フトダマが捧げ持ち
アメノコヤネが祝詞を奏上します。

そして
天手力男神(アメノタヂカラヲノカミ)が
岩戸の入口に立ち
天宇受売命(アメノウズメノミコト)が
神がかりになって踊り、神々は一斉に笑いました。

そこで、アマテラスは不思議に思って戸をちょっと開けます。

そこへすかさず「あなたより貴い神が現れました」と鏡を差し出して、アマテラスがのぞきこんだところを
アメノタヂカラヲが外に引き出し
フトダマが戸に注連縄をかけます。

この天の岩屋戸の古伝承は、神社祭祀の起源といわれています。

そしてスサノオは、沢山の品物を提出させられ、髭を切られ手足の爪を抜かれ、高天原から追放されます。
このとき天岩戸に集った神々は氏族の祖先とされます。

・オモイカネ:知恵の神様。総合プロデューサー
・イシコリドメ:八咫の鏡を製作。鏡作氏の祖先
・タマノヤ:勾玉を製作。玉祖(たまのおや)氏の祖先
・アメノコヤネ:祝詞を唱える。藤原氏の祖先
・フトダマ:注連縄を張った。忌部氏の祖先
・アメノタヂカラオ:岩を投げ飛ばす
・アメノウズメ:芸能・お神楽。猿女氏の祖先

天の岩戸に登場する神様のなぞ

これまで古事記では宇宙の最初の神様から順番に紹介し、さらにイザナギ・イザナミが神生みをした話になり、神様の系列がわかるようになっていました。

ところが天の岩屋戸に登場する神様は
●思金神
(オモヒカネノカミ)
のみは「タカミムスヒの子」と書かれていますが

それ以外の
●伊斯許理度売命
(イシコリドメノミコト)
●玉祖命
(タマノヤノミコト)
●天児屋命
(アメノコヤネノミコト)
●布刀玉命
(フトダマノミコト)
●天手力男神
(アメノタヂカラヲノカミ)
●天宇受売命
(アメノウズメノミコト)

はどこから来たのか書かれていないのです。
あえてそこに触れる必要はないということなのでしょうか。

じゃあなぜオモイカネだけは、タカミムスヒの子だと書いてあるのだろう…

もしかして、「タカミムスヒの子」というのは、その後の神様全員のこと?
いや、それはないよな。

そういえばタカミムスヒって覚えていらっしゃいますか?
造化三神のおひとりです!

●天之御中主神
(アメノミナカヌシノカミ)
●高御産巣日神
(タカミムスヒノカミ)
●神産巣日神
(カミムスノカミヒ)

ということで古事記には謎が多いのですが、とくこの天の岩戸の部分は突っ込みどころ満載です。

そもそもスサノオは、挨拶に来ただけのはずなのにどうしてずっと高天原にいるんだろう?というのが私的には最大の謎です…

五穀の起源(ごこくのきげん)

*この部分は前後のストーリーから遊離しているので、「遊離神話」と呼ばれています。

スサノオは食物を
大気津比売神(オホゲツヒメノカミ)
に求めました。

そこでオオゲツヒメは、鼻や口、尻からおいしい食べ物を取り出して、色々な方法で調理して差し上げます。

スサノオはその振る舞いをのぞいて、汚いことをしていると思ってオオゲツヒメを殺してしまいます。殺されたオオゲツヒメの身体から、色々な穀物が生まれます。

頭に蚕が、2つの目に稲の種が、2つの耳に粟が、鼻に小豆が、陰部に麦が、尻に大豆が生まれました。そこでカミムスヒの御祖神(みのやのみこと)が、これを取って五穀の種にされました。

さてここで問題なのはスサノオが「汚いふるまいだ」と思ってしまったことです。目の前の出来事は自分の心を映しています。ですから「汚い」というのは、スサノオの心の汚れ。なので、これを切って祓ったのです。

その結果、貴重な食べ物である五穀が生まれます。

五穀の起源のなぞ

実はこの「五穀の起源」もなぞの多い章です。
「スサノオは食物を大気津比売神(オホゲツヒメノカミ)に求めた」とありますが、この主語をスサノオとする見方と、八百万神とする見方があります。

舞台はどこなのかも書かれていません。高天原からの追放と出雲への降臨の間のどこかであることは確実です。

食物を八百万神が求めたとすると舞台は高天原。
ただ、自分たちが食べようとしたのか、スサノオに食べさせようとしたのかはなぞです。

もうひとつのなぞはオオゲツヒメの正体。
オオゲツヒメは古事記で複数回登場します。

①国生み神話
「粟国は大宜都比売と謂ひ」
②神生み神話
「次に大宜都比売神を生みたまひき」
③五穀の起源
「大気都比売神」「大気都比売」「大宜津比売神」
④大年神の系譜
「羽山戸神、大気都比売神を娶りて生みたまひ」

ここで登場した神様は、どの神様なのでしょうか??

さらに困ったことに、日本書紀ではこの話の主人公はスサノオではなく、まさかの月夜見尊(ツキヨミノミコト)ということになっています。

須佐之男命の大蛇退治①(すさのおのをろちたいじ)

スサノオは追放されて、出雲の国の斐伊川の上流「鳥髪」というところに降り立ちます。ここで有名な「ヤマタノオロチ事件」が起こります。

スサノオは川の上流から箸が流れてくるのを見て、人が住んでいると思って行ってみると、老夫婦が泣いています。

名を聞くと
国つ神・オオヤマツミの子の
足名椎(アシナヅチ)
妻の名は手名椎(テナヅチ)
娘の名は
櫛名田比売(クシナダヒメ)
と答えます。

泣いている理由を尋ねると、娘はもともと八人いたが、毎年八岐大蛇の生け贄になっていた。今年もその時期がやってきたから泣いているのです、と答えます。

八岐大蛇は目が赤いホオズキのようで、八つの頭と八つの尾があり、身体には苔とヒノキ・杉が生え、長さは八つの谷、八つの丘にまたがっていて、腹には常に血がただれているようです。

ここからスサノオの成長物語になります。

須佐之男命の大蛇退治②(すさのおのをろちたいじ)

アシナヅチの話を聞いて「あなたの娘さんをください」とスサノオは言います。
「え。でもまだ名前聞いてないし…」とアシナヅチ。
スサノオは「自分はアマテラスの弟で、今、高天原から降りてきた」と言います。

と言われたらnoとは言えない。スサノオは娘を櫛の姿に変え、髪に刺して言います。「何度も醸造した強い酒を作って、垣根を作り、そこに8つの門を作ってそれぞれに酒をおいてくれ」

その通りにして待っているとヤマタノオロチがやってきて、その酒を飲んで酔っぱらって寝てしまいます。
その隙にスサノオは、剣でオロチを切り刻み殺してしまいます。

すると尾のところから剣が出てきたので不思議なものだと思って、アマテラスに献上します。これが三種の神器のひとつで熱田神宮の御神体の「草薙の剣」です。

須佐之男命の大蛇退治③(すさのおのをろちたいじ)

ヤマタノオロチを退治したスサノオは、新婚のための宮殿を出雲の国に探しました。そして島根県大原郡につくと「私の心はすがすがしい」と言って、そこに宮殿を建てました。

なのでその地を「須賀(すが)」といいます。
ここにスサノオとクシナダヒメを祀る「須我神社」があります。

スサノオが宮殿を作ったとき雲が立ち上がりました。
そこで御歌を読まれました。

”八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を”
これが日本初の和歌といわれています。

そしてアシナヅチを呼んで宮殿の長官にしました。
また
稲田宮主須賀八耳神(イナダノミヤヌシスガノヤツミミノカミ)
という名を与えました。

クシナダヒメとの間に
八島士奴美神(ヤジマジヌミノカミ)
という子が生まれました。

また、オオヤマツミの娘
神大市比売(カムオホイチヒメ)
を娶って生んだ子は
●大年神(オホトシノカミ)
●宇迦之御魂神(ウカノミタマノカミ)

兄の
八島士奴美神(ヤシマジヌミノカミ)が
オオヤマツミの娘
木花知流比売(コノハハチルヒメ)
を娶って生んだ子は
●布波能母遅久奴須奴神(フハノモヂクヌスヌノカミ)

この神が
淤迦美神の娘
日河比売(ヒカハヒメ)
を娶って生んだ子は、
●深渕之水夜礼花神(フカブチノミヅヤレハナノカミ)

この神が
天之都度閇知泥神(アメノツドヘチネノカミ)
を娶って生んだ子は、
●淤美豆奴神(イミヅヌノカミ)

この神が
布怒豆怒神(フテミミノカミ)の娘
布帝耳神(フテミミノカミ)
を娶って生んだ子は、
●天之冬衣神(アメノフユキヌノカミ)

この神が
刺国大神(サシクニオオホノカミ)の娘
刺国若比売(サシクニワカヒメ)
を娶って生んだのは、
●大国主神(オオクニヌシノカミ)

またの名を
大穴牟遅神(オオナムヂノカミ)
葦原色許男神(アシハラシコヲノカミ)
八千矛神(ヤチホコノカミ)
宇都志国玉神(ウツシクニダマノカミ)
といい、あわせて5つの名があります。

ということでこの先のお話の主人公は、大国主神になります。

ヤマタノオロチ神話のなぞ

ここでは、ヤマタノオロチが何を意味するのかが、議論が分かれるところです。

代表的なものは3つあります。
1)盗賊説
本文が「高志の八岐大蛇」とあることから、ヤマタノオロチは越(北陸)からやってきた盗賊連合軍ではないかという説。

2)氾濫説
ヤマタノオロチは斐伊川の氾濫を形容したのではないかという説。
頭が8つというのは河口が8つあるということ、尾が8つというのは支流が多いこと、ということです。

3)水の精霊説
ヤマタノオロチは水の精霊(水神)で、処女をいけにえとして捧げているのではないかという説。

私としては、治水は国家の事業として大切なものであることから、氾濫、洪水説が妥当なのでないかと思っています。

それにしても高天原で大暴れしたスサノオが、知恵と勇気で人助けし、きれいな奥様までもらっちゃうなんて成長されたものだと微笑ましく思うのであります。

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