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小人の行方【超短編小説#2】

僕には幼馴染の小人がいる。

出会いは覚えてないが、気が付くと仲良くなっていた。
彼とはすごく気が合って、頑固な性格も似ていた。

もちろん他にも友達はいた。
でも、彼との時間ばかりが思い出に残っている。

彼はいつもそばにいてくれた。

書初めで金賞をとったとき
大好きな祖父が他界したとき
受験に合格したとき

彼がいると、嬉しさは倍増し、悲しみは分かち合うことができた。

住む場所も近く、
話したい時に訪ねると、彼は必ず時間を作ってくれた。

学校のこと、ゲームのこと、好きな子のこと
何でも話したが、1番花を咲かせたのは将来のこと。

小学生のとき、僕が「作家になりたい」と話すと、
彼は、まるで自分のことのように喜んで話を膨らませた。

中学、高校と時が経ち、
作家が教師に変わっても、弁護士になっても
彼は嬉しそうに話を聞いてくれた。
だんだんと反応は薄くなっていったが。


大学に進学すると、彼とは殆ど会わなくなった。

話が合わなくなってきたからだ。

バイトやサークルの苦労話をしても、
変わらず無邪気な彼には共感してもらえない。
短く話を切り上げて別れることが増えた。

昔と変わらない彼の間に、溝ができたようだった。

就職してからは、彼とは一度も会っていない。

ときどき住処を訪ねたりもしたが、会うことはできなかった。

この20年で、彼の家の付近も大きく変わったようだ。
一本道の途中には草木が生い茂り、見たことのない生き物も徘徊している。
毎日のように通っていた場所が、今では未開の地だ。

迂回して彼の家があった場所にたどり着いたが、そこには何もなかった。

ときどき彼に無性に会いたくなる時がある。
理由はわからない、でも会わなきゃいけないような気がするんだ。

その度に彼の住処を訪ねるが、会えたことは一度もない。


いったい彼はどこに行ってしまったんだ。


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