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ビンタの演技

 私は高校演劇出身です。
 高校演劇の大会というのは、講評という作業があります。各校の代表が集まって、芝居の感想を言いあったりする会です。私はそのメンバーの一人だったことがあります。地元の大人の演劇人がアドバイザーとして参加していました。
 とある高校の発表で、あるシーンが問題になりました。
 出演者が他の出演者に思いっきりビンタをしたのです。ホントにやりました。高校生はこういうの大好きですからね。大うけでした。
 しかし、これが講評委員会で大問題になったのです。講評委員には地元演劇人が二人入っていたのですが、この二人のこのシーンの評価が真っ二つに割れたのです。
 一人はこのシーンを酷評。いかなる場合でも暴力は許されない。けがをして芝居が止まってしまったらどうするのだ。
 もう一人は絶賛。リアリティーがあっていい。力の加減は練習してあれば大丈夫だ。
 二人はこのシーンをめぐって、高校生をそっちのけにして大激論! 私たち高校生はポカンとしておりました。
 しかし、それもそのはず。この議論はいまだに決着がついていない演劇界の大論争の一つなんですね。世界中でです。
 私自身は、打つ役者と打たれる役者と演出に信頼関係があって、稽古をしてあればやってもいいと思っています。
 というか、最近の演劇ではビンタをするシーンはあまりありませんので、この議論自体がもう必要ないのかもしれません。
 「男はつらいよ」の初期の作品で、寅さんがさくらさんをビンタするシーンがあります。渥美清さんは監督から実際にビンタするように指示されて、すごく悩んだんでしょうね。芝居として成立するかしないかギリギリのやさしいビンタでした。
 多分これが正解の一つです。
イラスト by VECTORIUM

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