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カーテン


 認知症の母と同居していた頃、母には六時ごろ夕飯を食べてもらっていました。冬になると、辺りは真っ暗でした。日が暮れたら、カーテンを閉めるべきですが、私はわざとカーテンを開けて食事の介助をしていました。
 私が母を虐待しないためです。
 認知症介護の現場では介護者による虐待が起こりやすいです。その多くは息子からだそうです。虐待する人を責めるのは簡単です。しかし私には親を虐待する息子の気持ちがよくわかります。男性は介護を期待されて育てられていません。介護に不慣れで下手なのです。親が老いる時期というのは、息子の人生にとって最良に時期になりうる時期と重なります。認知症患者は被介護者を眠らせてくれません。寝不足はあらゆる不調の原因になります。ストレスにさらされた男性は暴力的になりがちです。「こんなことをするために生まれてきたわけじゃない」「ここまでするほど大切に育てられていない」私自身、いつ虐待するかどうかわからに状況で介護をしていました。
 カーテンを開けたまま介護するのは、理性を保つためです。この状態で虐待すれば、通報されます。自分のために虐待しないのです。
 私はついに、一度も母を虐待することなく、施設へと送り出しました。14年間です。認知症について何も知らない人には、当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、私は偉業をなしたと思っています。
 日が暮れて、カーテンの閉まっていないご家庭があったとしたら、何か事情のあるご家庭かもしれませんよ。

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イラスト by トラノスケ

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