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ママレモン

 「ママレモン」とは昔、一般的だったお皿洗い用の液体洗剤の商品名です。ネットで調べたら、今でも販売しているんですね。
 さて、私が保育園児だったある日、保育園の先生が言いました。
「明日はプール開きです。水鉄砲を持って来てもいいですよ」
 私の通っていた保育園には、幼児用のプールがあったんですね。
 私は水鉄砲を持っておりませんでした。ですから母に頼みました。水鉄砲を買ってほしいと。しかし母はこう提案しました。
「空になったママレモンの入れ物に水をいれれば、水鉄砲になるでしょう?」
 次の日、私は空のママレモンを持って登園しました。
 待ちに待ったプールの時間。みんな当たり前のように水鉄砲を持っていました。ママレモンの容器を持っていたのは私だけでした。
 水鉄砲とママレモンの容器。みなさまは同じように思うでしょうが、致命的な違いがあります。射程距離です。ママレモンの容器でも水はとばせますがせいぜい1,2メートルです。本物の水鉄砲は5メートルはとばせるのです。勝負になりません。
 しかし問題はこの後です。その後、保育園では水鉄砲を持って来てはいけないことになりました。最近までその理由が分からなかったのです。
 最近気づきました。もしかしたら、あれは私たちのせいだったのかもしれません。
 本物の水鉄砲にママレモンで対抗していた悲惨な私の姿を見て、先生たちは思ったのかもしれません。
(世の中には、水鉄砲も買ってもらえないかわいそうな子どもがいるのだ。それを私たちは『水鉄砲を持ってこい』などと…なんと残酷なことを言ってしまったのだろう)
 言っておきますが、我が家は経済的困窮家庭ではありませんでしたよ。母はアイディアウーマンですし、無駄遣いも嫌いだし、買いに行くのがめんどくさいから「ママレモン」というアイディアを出したのだと思います。
 悪いことしたなぁ。幼児用プールといっても、事故が心配だから、水はくるぶしぐらいまでしか、いれないんです。それで何をして遊べばいいかといえば、水鉄砲くらいしかないんです。その水鉄砲もダメとなれば、もうプールの意味がありません。
 みなさま、お子様には水鉄砲を買ってあげましょう。

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イラスト こびと


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