インボイス制度に関する現場の苦悩
電子書籍の取次サービスを運営しています。
公正取引委員会から電話が1本。
インボイス制度導入に向け、先月から弊社取次サービス利用作家 数百名に対して、インボイス適格請求書発行事業者登録番号の取得状況を確認しています。
登録予定のない作家には、「制度開始の10月以降、今までロイヤリティに消費税相当分10%を加算した金額をお支払いしていたものから、消費税相当分10%を加算しない金額をお支払いするといった形に変更させていただきたい」とご説明してきました。
その説明が優越的地位の濫用にあたる可能性があるとのこと。
説明を受けた作家から公正取引委員会へクレームがあったようです。
聞き取り調査を受けたあと、資料の提出を求められました。
現在も対応中。
インボイス制度は、経過措置として【令和5年10月~令和8年9月の期間】80%、【令和8年10月~令和11年9月の期間】50%、
インボイス登録していない事業者に支払ったものについても消費税の計算で控除できるという仕組みがあります。
そのため、「経過措置期間、消費税10%の内、50~80%は控除されるのだから、その分をロイヤリティに上乗せして支払って欲しい」という要望があります。
それも分かるので、個別に交渉しています。
しかしながら、経済コスト的には「今までロイヤリティに消費税相当分10%を加算した金額をお支払いしていたものから、消費税相当分10%を加算しない金額をお支払いする」と変更してもおそらく赤字です。
繰り返しとなりますが、現場では数百の取引先(作家)に登録番号の申請状況を確認しています。
すんなり確認できる例はそれほど多くなく、個別に説明や交渉を繰り返す必要があります。
すんなり確認できたとしても、メールの通読と最低限の返信、確認結果の管理表への記入などはしなければいけません。
一つひとつの作業ボリュームは小さくとも、数百人分となると人的、時間的コストは大きな負担となります。
メールボックスには次々と作家からの回答や質問が届き、対応が必要な案件は常に数十件が溜まっています。
僕はその実務を担当しています。
僕の説明に対し、「私はインボイスに強く反対します!」と怒り出す人もいれば、「インボイスってなんですか?バカでも分かるように教えてくださいw」と笑い出す人もいます。
制度の概要を理解できていない作家は非常に多いです。
作業にあてた時間は3月から4月後半の現在まで90時間ほど。
今後は経理システムの改修や事務処理の負担が増えることも分かりきっています。
消費税納税の負担も増加します。
これまで免税事業者だった事業者(=作家)は、制度開始後も引き続き免税事業者でいることもできます。
が、僕らのような中間業者(=出版社、取次)は強制的に負担が増えます。
そのコストをどのように捻出するかは大きな問題です。
こちらとしてはコスト回収のためにサービス利用手数料を上げるようなことはしたくありません。
経過措置期間に控除されるお金とガッツで乗り越えたいところです。
なので、ひとまずは「消費税相当分10%を加算しない金額をお支払いするといった形に変更したい」とご提案しました。
それがストレートな物言い過ぎたのでしょうね。
しかし、「優越的地位を利用して免税事業者から消費税相当分を中抜きするなんで酷い!」と捉える作家さんもいると思うとなかなか悲しいです。
とは言え、捉え方は自由です。
疑問や不満があれば随時ぶつけて欲しいです。
公正取引委員会に対しては、「これが優越的地位の濫用にあたるなら、僕らは潰れるしかないじゃないか」と思います。
それとも、「その問題には触れず時期を見てこっそり手数料の値上げでもしとけ」ということでしょうか。
あるいは商品価格を一斉に値上げすれば良いでしょうか?
インボイス制度を作った人たちに対しては、「実質的には免税撤廃なのに、免税事業者は制度開始後も引き続き免税事業者でいられますよとか、だけど免税事業者でいると取引先に負担がかかるので仕事を取りくくなりますよとか、だけどご心配いりません、親切な私たちは経過措置を設けていますよとか、で、最終的に誰が消費税を支払うかは民間で揉めてくださいねとか、自分たちに批判の矛先が向かないように仕組みを複雑にして現場の仕事を増やしていますよね」と思っています。
僕はインボイス制度に賛成する立場にはありません。
「クソみたいな制度だなぁ」と思っています。
一方で電子書籍取次サービスを運営している立場上、制度を無視することはできません。
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