Web漫画雑誌「マンガ on ウェブ」はなぜ敗北したのか?
突然ですが、Web漫画雑誌「マンガ on ウェブ」は、2021年1月1日発売の第24号をもって休刊となります。
2015年4月15日創刊より6年間、多くの作家さま、読者の皆さま、各関係者に支えられ歩んできました。
お世話になったすべての方に深く感謝いたします。
と、僕は雑誌の編集/発行を手掛けていました。
ここ3年は僕一人でほぼすべての編集作業を担当していました。
連載途中作品が多くありますが、各作品は雑誌休刊後、「電書バト」レーベルより電子書籍単行本、分冊版の発行を継続します。
各作品の今後のつきましては以下の通り。
・[poor](プア) ~ゼラニウムの誘惑~ 郷田マモラ →2021/3/1 最終5巻、分冊版18~20発行
・女王のトランク 北森サイ →最新話を分冊版で随時発行、単行本発行
・軍と死 -637日- 莉(ルビ:イ)ジャンヒュン →最新話を分冊版で随時発行、単行本発行
・浜翔 HAMASHO! 白鳥貴久 →最新話を分冊版で随時発行、単行本発行
・やれたかも委員会 吉田貴司 →最新話を分冊版で随時発行、単行本発行
・リーフティア・アドベンチャー 陽崎杜萌子 →最新話を分冊版で随時発行、単行本発行
・若奥さま喜々一発! 小本田絵舞 →未定
・Stand by me 描クえもん 佐藤秀峰 →最新話を分冊版で随時発行、単行本発行
・LOVE FOR SALE ~俺様のお値段~ 内田春菊 →最新話を分冊版で随時発行、単行本発行
・八百森のエリー 仔鹿リナ →最新話を分冊版で随時発行、単行本発行
・マタしてもクロでした うえみあゆみ →最新話を分冊版で随時発行、単行本発行
・THE3名様 ~壊れかけのド深夜編~ 石原まこちん →最新話を分冊版で随時発行、単行本発行
・ウォーハンマー 一智和智 →単行本発行
・エルソナシンドローム 左紳之介 →単行本発行
・漫画 黒川温泉新明館 柴田敏明 →近日単行本第3巻(完結巻)発行予定
・青い谷 オヌマヨシテル →近日単行本発行開始予定
・童貞・影山七之介の冒険 虎井シュメール →近日単行本発行開始予定
・ホッカイダー Since1998 神威バズ →KDP(キンドルダイレクトパブリッシング)にて単行本発行予定
・ムニムニくん TTOMUU →単行本発行
・珈琲が冷めない距離 鷲岡胡世子 →単行本発行
・1勝22敗1分け 見ル野栄司 →単行本発行
・密着!生態調査!漫画家サファリパーク なかむらみつのり →近日単行本発行予定
・真湖のワイン~saison2~ 佐藤 智美 →最新話を分冊版随時発行、単行本発行
・靴cream 尾々根正/大鳥居明楽 →最新話を分冊版随時発行、単行本発行
また、2021年夏頃より新作「モリのアサガオ2」(郷田マモラ)が分冊版発売開始となります。
その他にも「電書バト」レーベルより新作電子書籍単行本、分冊版が続々と登場予定です。
楽しみにお待ちいただけますと幸いです。
休刊の背景を説明します。
まず、「マンガ on ウェブ」は売上が低迷していました。
創刊号のロイヤリティは、現在、確定値が出ている2015年4月~2020年7月の5年間の累計で¥421,896です。
同じく7月の第22号初月ロイヤリティは、¥15,679でした。
雑誌の製作費は1冊あたり¥10,00,000 ~15,00,000ほどです。
ロイヤリティから製作費を差し引いた金額の累計は¥33,320,135のマイナスでした。
年額にして500万円強の赤字です。
今後も既刊は配信され続け、売れ続けるため赤字は少しずつ減っていきます。
ただ、製作費を回収し、黒字に転換することは難しいと思われます。
一方、掲載作品の各分冊版、単行本の売り上げは非常に好調でした。
具体的な作品名や数字を出すことがためらわれるため、詳細を書くことはできませんが、売れ行きの良い作品は、毎月50万円ほどのロイヤリティが発生していました。
その一部(20%)を手数料としていただき、雑誌製作費に充てるという状態が続いていました。
いわゆる、「雑誌の赤字を単行本で埋める」という状態です。
冷静に考えれば、雑誌のほうがお得です。
例えば、1冊30P前後の分冊版であれば、価格は¥100の場合が多いです。
1ページあたりの単価は3.3円。
対する雑誌は500~600Pで350円。
1ページあたりの単価は0.7円。
雑誌内に読みたい作品がいくつかあるなら、雑誌を購入したほうが断然割安です。
それにも関わらず、雑誌の売れ行きが芳しくないという現象について、どのように捉えれば良いでしょうか。
エンターテイメント全般に視野を広げると、音楽の世界では大雑把に「レコード→CD→ストリーミング」というメディアの変遷がありました。
レコードの時代は、A面を聴き終わったらレコードを裏返して、B面をターンテーブルに乗せる必要がありました。
A面とB面でそれぞれのドラマがありました。
CDの時代はその手間はなくなり、アルバムを1枚通して聴けるようになりました。
アルバム時代の到来です。
ストリーミングの時代では好きな曲だけを1曲単位で聴くことが普通になりました。
あるいは「J-POP NOW」的なプレイリストを聴けば、流行りの曲をまとめて聴くこともできます。
オムニバスアルバムという概念は崩壊しました。
アルバムという概念自体が成立しにくくなっています。
漫画においては「紙→電子書籍」というメディアの変遷の中で、雑誌を1冊通して楽しむという概念がなくなりつつあります。
書店に出向いて物体としての本を買う必要がない電子書籍では、読みたいときに読みたい作品だけを買うことが可能です。
「コンビニで雑誌を買って、気に入った作品の単行本を本屋で買う」「せっかく本屋まできたから、ついでにこれも買う」といった行動は必要がなくなったのです。
気になる作品の分冊版を直接ストアで立ち読みし、気に入ったら買うだけ。
あるいはKindle unlimitedのような読み放題サービスで、好きな作品を毎月定額で読み続けることもできます。
電子書籍ストア自体が雑誌のような役割を担うことになり、個別に雑誌を発行する意味がなくなってきたのかもしれません。
検討の結果、電子書籍と漫画雑誌という形態がマッチしていないとの結論に至りました。
「そんなことは雑誌を出す前に分かりきっていたことだ」と言われるかもしれません。
しかし、僕は世に問うてみたかったのです。
「勝てない勝負に挑んでいるか?」
いつも考えています。
勝てない勝負にこそ挑むべきだと。
SNSでは、作家個人が作品を宣伝し注目を集めることが普通になっています。
注目を浴びる作品は、SNSの特性上、気軽に読めてシェアしたくなる内容のもの。
短いページ数でわかりやすく面白いもの。
だけど、電子書籍ストアで売れている作品は、SNSで流行る作品とはあまり一致していません。
無料だから読む作品と、お金を出して読みたい作品は違います。
誰にでもできるSNSを活用した宣伝は時代遅れなのかもしれません。
漫画を読みたいと思って電子書籍ストアにやってきた読者に、その場で直接作品を訴求すること、興味を持てるように売り方を工夫すること。
それが僕にできる最善の方法に思えました。
であれば、各連載作品の分冊版、単行本版の発行に注力し、より発展を目指そうと考えました。
作品の力を信じ、大手出版社にはできないセールを組み、新作を読み放題に投入し、データのクオリティを上げる。
そんなことに力を使いたいと考えています。
とは言え、苦渋の決断でした。
楽しみにしてくださった読者の皆さんのこと、連載作家の方々のこと、スタッフ、お世話になったいろんな方のお顔を思い浮かべると、まだまだ続けたい気持ちでした。
創刊当初、「100号まで続けます!」と常に言っていました。
その言葉は嘘になりました。
とても申し訳なく感じています。
ということで、雑誌は休刊いたします。
繰り返しとなりますが、掲載作品につきましては引き続き分冊版、単行本版を発行いたします。
詳細は雑誌巻末の「休刊のお知らせ」ページにてご説明させていただいておりますのでご覧くださいませ。
長い間誠にありがとうございました。