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【感想】映画「カラオケ行こ!」(ネタバレあり)


●記事概要

好きな声優さんが本作を見に行ったらしいというのと、かなり人気らしく気になっていたところ、Netflixに入っていたので視聴してみた。同名の漫画が原作とのことだが、そちらは読んでいない。

<原作>

<映画公式サイト>

●前提として

メインの登場人物である狂児はヤクザだ。筆者はヤンキー漫画とかが嫌いで、要は反社会的な存在を美化ないし正当化するというか、「彼ら(彼女ら)にもこういう良い面があるんですよ」みたいな作品は基本的に好きではない。

ただ、「ヤクザ」というのはシリアスに捉えれば全く笑えない存在だが、フィクションにおいてはギャグとして笑い飛ばすこともできるような世の中の方が健全だろうとは思っている。

そういう意味で、本作の「ヤクザ」についてはコメディの一要素としてとらえておくことにしようと思う。

※以下、本作の内容全編に触れていますのでご注意ください

●全体的な感想

自分は関西出身なので、関西が舞台かつ関西弁で繰り広げられる物語に親近感はあり、笑える部分も多かった。好きなシーンもいくつかあり、楽しめたがそれ以上の感慨はそんなに無いかな・・・という感じ。
あまり性別とか属性で十把一絡げの言い方は良くないと思うが、いわゆるブロマンス(男性同士の親密な関係)作品として、女性視聴者に支持を得ているのかな、という印象。男性の自分からするとそこらへんがあまりピンと来ていないのかと思う。

●面白かった・気になったポイント

以下、ポイントで書いているので物語上の時系列には沿っていない場合があります。

冒頭

ネオンサイン風のタイトルが出たところで「あ、”映倫”のマークもネオンサイン風にしたりできるんだ・・・」とヘンなところで感心してしまった。できるんだ・・・

ちなみに、恥ずかしながら筆者は役者さんとか全然わからないので、聡実役の齋藤潤さんは全く存じ上げなかったし、狂児役の綾野剛さんについても「人気俳優らしい・・・」くらいの認識で顔もわからなかった。

で、見た目の印象だが聡実くんは「美形だな」狂児は「年齢感が絶妙だな」といった感じ。

ハイエナの兄貴

たんぽぽ音楽教室に入っていくシーンは笑ってしまった。

聡実と家族

父親が買ってきた傘のセンスを嫌がりつつ、露骨に落ち込む父親を見て結局使っているあたり、聡実の優しさが伝わってくる。
「親が買ってくる服(ないし身につけるもの)がダサい」というのはこのくらいの年代でのあるあるかと思うが、舞台が関西だとより際立つ感じがする。(親のセンスも、周囲で売っているもののセンスも両方ぶっ飛んでいる場合が多い)
後のシーンだが、両親が聡実におまもりを渡すところのやりとりが好きで、「こういうのどこで買うん?」という聡美のセリフ(言外の意味をあえて読むなら、「傘といいこのおまもりといい、わざわざ探さないと売ってないような代物をいちいちどこで買ってくるのか」みたいなことだろう)に対する父親の「いいってそんな気にすんな・・・」みたいな身振り手振りが、なんとも噛み合っていなくて、でも親ってそういう感じだよな・・・というところのリアリティというか、そこにじわじわ来るおかしみがある。

愛とは

映画(カサブランカ)を見て、「愛は与えるものらしい」「何を与えるん」みたいな会話の直後のシーンで、聡実の母親が父親に焼き鮭の皮をあげるシーン。たぶん父親は鮭の皮が好きで、夫婦間ではいつもそうしているのだろう、といった両者の自然な所作。(あるいは母親の方が苦手なのか、その両方か)こともなげに行われるそのやりとりに、聡美は「愛」とはどういうものか、なんとなく感じていたのかもしれない。
直後の合唱のシーンで歌われている「心の瞳」の歌詞が「愛することそれがどんなことだかわかりかけてきた」というのが示唆的だ。

組員大集合カラオケ

キティ先輩、ハイエナ先輩も登場。
聡実のアドバイスが、最初は「音を良く聞いて」「声が続いてない」とかだったのがだんだん「うるさいです」で最終的に「カスです」になるところが笑える。「”カス”ってアドバイス言うよりほぼ悪口・・・」という組員の反論がド正論でそこもまた。

もう無理

組員大集合の件と、車の中で指を発見(ここは笑った)して「もう無理」となる聡実。
狂児の命名エピソード、映画(三十四丁目の奇蹟)のシーンを経て、音叉を買ったという狂児からの電話を受けて、狂児だけならレッスンを続けてもいいという聡実。
正直、ここの聡実の心の動きというか、なぜ続けてもいいとなったのか、そこはいまいちピンと来なかった・・・と言うのも、音叉の件含めて狂児なりに歌の上達に関しては真剣なのだろうと感じて、ということとか、もちろんこれまでの時間の積み重ねとか、色々あるのだろうとは思うので、「全く理解できない」というわけではないが、あまり自分としては説得力を感じなかったというか・・・もちろん自分の感受性が鈍いだけかもしれないが。でもできればもうちょっと説得力の感じられる描写を欲しかったかなと思う。

キレる聡実

狂児に対してキレながら、ちょっとアゴが前に出る感じがリアルで良かった。直後のLINEでの「キレるとフリーザみたいやな」には笑ってしまった。
あと聡実くんの待受画像、おそらく去年合唱部で全国に行ったときの写真なんだろう。彼の部活への想いが感じられる。

聡実の「紅」

聡実が歌い終わってから、じゃなくて歌ってる途中で狂児が映るのが良かった。ちょっと遅れて違和感が来る感じというか。「・・・ん???」「おるやんけ、、、」みたいな。

和田くん

聡実を敬愛していて、部活にも真剣なんだろうな・・・と思った。真剣であるがゆえか、聡実の声変わりとか、そういう部分には気づけていなかったのだろう。次期部長らしいので、頑張ってほしい。
ただ、和田くんへの(物語としての)フォローが薄いのは気になったというか・・・結局、合唱祭は聡実が「歌えません」と言って急きょ抜けて、補欠として和田くんがソプラノを担当したわけじゃないですか。「逃げた部長の代わりにやってやりますよ」とか言って。流れ的には闇堕ちルートじゃない?最終的にはそんなこともなかったようだが、じゃあわだかまりがとけたにしても、そこの描写が全くないのはちょっと気になった。

映画

聡実はしばしば「映画を見る部」で映画を見ていた。終盤で明らかになるが、部のビデオデッキは故障していて、巻き戻しができない。(すると壊れる)
これはベタな読みだろうが、聡実の声変わりとか、成長・・・「戻らない時間」「過ぎ去っていく現在」の象徴だろう。

見ていた映画は以下のタイトル。
「白熱」・・・序盤、ギャング団の話とかしていたときの作品
「カサブランカ」・・・「君の瞳に乾杯」のやつ。「愛は与えるものらしい」「何を与えるん」という会話をしていたときの作品
「三十四丁目の奇蹟」・・・サンタクロースの話をしていたときの作品
「自転車泥棒」・・・「大人って汚い、不条理だ」という話をしていたときの作品

映画を見る部の彼(栗山というらしい)がいい味出していたと思う。聡実が狂児のことを話したのは(おそらく)彼にだけだろうが、それもなんとなく納得できる雰囲気(話は聞くが、深入りはしない。もしかしたらさほど興味がないのかもしれない・・・といった絶妙な距離感)を醸し出していたと思う。

ラストシーン(エンドロール前)

狂児とはLINEがつながらなくなった・・・ということで、最初狂児の方から連絡を断った(カタギである聡実がこれ以上ヤクザに関わらない方がいい、的な)のかとも思ったが、エンドロール後のシーンを考えるとそういうことでも無かったのかもしれない。推測にすぎないが、狂児がヤクザだということを考えると、何かの事情で身を隠していたとか、シンプルに捕まっていたとか・・・

ラストシーン(エンドロール後)

建設中の「NEW MINAMI HOTEL」を前にした狂児の後ろ姿。腕には「聡実」の入れ墨。
「お~、久しぶり・・・元気そうやなあ」
「今度は負けられへんからなあ・・・なあ聡実くん」
「カラオケ行こ」

それなりに組み上がったホテルからすると、エンドロール前のシーンから数年は経過しているようだ。
「今度は負けられへん」ということはおそらく、狂児は「歌ヘタ王」になってしまったのだろう。(聡実が「紅」を歌ったあの日にか、それ以降でかはわからないが、負けたことを聡実も知っている前提のような口ぶりからすると、前者のような気もする)
で、「聡実」の入れ墨はその称号として組長に入れられたと思われる。

組長の入れ墨の腕前は「絵心が死んでる」はずだが、出来栄えを見ると文字ならそこそこイケるのかもしれない。

そんなことより、入れ墨は「嫌いなモチーフ」を彫られるはずだが・・・ここでビデオデッキ購入直後の聡実と狂児の「まんじゅう怖い作戦」の会話が思い出される。

「逆に組長さんの前で好きなもんを嫌い嫌いと言い続けてみたらどやろ?」
「どうせ彫られるなら好きなもんの方がええよ」

狂児が組長とどのような交渉を経て「聡実」の入れ墨に至ったのかも含めて、想像が広がるのだった。



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