ふるさとの味

 味の好みというのは大人になってもそう変わるものではないようで、とりわけ、学生時代に食べていた味は今でも恋しく、帰省した時には、母の手料理が並ぶ夕食の前に「ただいま」というような気分で立ち寄るお店がある。

 「天領うどん」という名前のうどん屋さん。僕の地元である宮崎県の県北地域で展開しているお店で、細く滑らかな麺と、塩っけのある薄い色味の出汁が特徴。今でも立ち寄ったら当時の友人と遭遇することが多々あるくらい、地元ではソウルフードとして定着している。実際店内で「おかえり」「ただいま」と言い合ったこともある。
 ここ最近では年に一回、正月に帰省するくらいになってしまったために、その味を味わう機会も年越しの儀式めいてきたのだけれど、先日、父親がその天領うどんの持ち帰りセットを送ってくれた。「今年は帰って来れないかもしれないし、あったら喜ぶんじゃないか」という弟のチョイスらしい。行動パターンが完全にバレている。

 自分でも注文はできるけれど、思いがけないタイミングで届いたので、受け取った瞬間、自然と頬が緩んだ。帰るべきではない今、少しでも地元を感じられるものは僕にとって、とてもありがたい。

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