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『DREAMIN'』脚本公開

初演:2023年7月15日 中津Vi-codeにて

第2稿(2023年6月12日投稿)※note掲載用に一部修正あり

作:江村修平


『DREAMIN’』
 
 
 
 
登場人物
 
難波マヒロ
横山レン
恒岡アキ
安野ウタ
畑野ユウキ
小鷹トオコ
  
 
 
 
 
   
   とあるライブハウス。
   難波マヒロが客席後方から入ってくる。

難 波「すいませーん。」

   楽屋カーテンから横山レンが顔をのぞかせる。

横 山「はい。」
難 波「あの、スタッフ募集の件で面接に伺った難波マヒロと申しますけれ ども。ご担当の方は……。」
横 山「ああ!お電話いただいた!」
難 波「そうです。」
横 山「お待ちしておりました。あ、どうぞこちらへ。」
難 波「あ、はい、失礼します。」

   難波、横山に促されステージ上の椅子に 座る。

横 山「ええ、では履歴書をいただいてもいいですか?」
難 波「あ、はい(渡す)。」
横 山「はい、ありがとうございます。あ、京都のご出身なんですね。」
難 波「はい。」
横 山「京都のどのあたりですか?」
難 波「伏見っていって、ちょっとだけ南の方です。」
横 山「ラウワンとかあるあたりですね。」
難 波「そうです!ご存知なんですか?」
横 山「私もあの辺住んでたことあるんですよ。あ、申し遅れました。私、面接を担当させてもらいます横山レンっていいます。」
難 波「横山さん。よろしくお願いします。」
横 山「よろしくお願いします。」
難 波「店長さん、ですか?」
横 山「ああ、いえ、アルバイトでステージを担当してます。」
難 波「すごいですね、アルバイトで面接もご担当されるって。」
横 山「いえ、まあ仕方なくみたいな感じです。」
難 波「……?」
横 山「このライブハウス、オーナーがご兄弟で、お二人で経営してるんですけど、それ以外は全員アルバイトなんです。けど先月お二人とも事故に遭っちゃって今は入院中で。」
難 波「大変ですね。」
横 山「はい。それでずっと休業してたんですけど、そろそろやべえなってなって、何とかバイトだけでやっていくことになったんです。」
難 波「ああ、それで。」
横 山「はい、人手不足が二人分も出ちゃったので、急遽募集をかけたってわけです。」
難 波「なるほど。」
横 山「はい。マヒロさんはライブハウスで働いたご経験はないみたいですけど、なんでここで働こうと思ったんですか?」
難 波「将来、自分のライブハウスが持てたらいいなと思ってて。」
横 山「へえ、いいですね。音楽、お好きなんですか?」
難 波「好きです。っていうか、生演奏が好きなんです。もちろん、いろんな技術で、最高のテイクがレコーディングされた音源も良いんですけど、生演奏って演奏してる人のその日のコンディションとか、わかるじゃないですか。どんなに上手い人でもたまにミスとかしちゃったり。そういうの見ると、『あ、この人も生きてる人間なんだなあ。』って。あと、お客さんを目の前にして、その人たちを楽しませてあげるぞっていうパフォーマンスを見ると、エネルギーがダイレクトに伝わってきて、私も元気をもらえるというか、負けずに頑張ろうって思えるから。バンドさんからみたらちょっと嫌な客かもしれないですね。」
横 山「いえ、楽しみ方は人それぞれですし、私は素敵だと思います。……めちゃくちゃ本音ですね。」
難 波「?……はい。」
横 山「(少し笑って)いえ、すみません。そういう気持ちって、いつまでも大事にして欲しいです。」
難 波「はい。」
横 山「働くことになったら重たいものを一人で持たなきゃいけなかったり、機材の名前とか用語とか覚えることたくさんあったりしますけど大丈夫ですか?」
難 波「大丈夫です。」
横 山「まあ、ご自分のライブハウスを開くならいずれは覚えなきゃですもんね。」
難 波「はい。」
横 山「うん、じゃあ採用ってことで。」
難 波「え。ありがとうございます。」
横 山「ちなみに今日ってこの後ご予定あります?なければ早速いろいろお教えしていきたいんですけど。あ、もちろんお給料も出ます。」
難 波「あ、ぜひお願いします。」
横 山「よかった。あ、じゃあ先に他のアルバイト紹介しますね。」
難 波「あ、はい。」

   横山が楽屋にスタッフを呼びに行く。

横 山「ちょっと今いい?新しい人来たから挨拶だけして。」
畑 野「え、入ったの?」
小 鷹「ホントに来たんだ。」
横 山「そう決まったじゃん。はい、早く。」

   横山が畑野ユウキ、小鷹トオコ、恒岡アキを連れて戻ってくる。

横 山「お待たせしましたー。この子がつね……。」
恒 岡「恒岡でーす。」
 
   言ってすぐに楽屋に戻る。
 
横 山「アキ。……ごめんね。恒岡アキっていうんだけど、新しい人募集すること、あんまりよく思ってないみたいで……。もうちょっと社会性持ってくれてもいいのに。」
畑 野「アキだけじゃないけどね、よく思ってないのは。まあ俺は社会性あるからあそこまであからさまな態度は取らないけど。照明の畑野ユウキです。(マヒロに握手を求めて)よろしくね。」
難 波「(手を取り)よろしくお願いします。」
横 山「はい。で、この子が照明の小鷹トオコ。」
小 鷹「トオコです。よろしくお願いします。」
難 波「よろしくお願いします。」
横 山「以上の四人が、今のスタッフです。」
難 波「ありがとうございます。今日もライブの予定入ってるんですか?」
横 山「いや、ないですよ?」
難 波「みなさん揃われてるのは……?」
横 山「ああ。みんなここが居心地がいいみたいで、仕事があるない関係なく入り浸るようになってるんです。」
小 鷹「てかもうほぼ住んでるよね。」
畑 野「シャワーも布団もあるからいけちゃうんだよね。」
小 鷹「誰かしらいるし。」
畑 野「それ。暇しない。」
小 鷹「担当はどこになるんすか?音響?ステージ?」
横 山「まだ決まってないんだけど、最終的には全体を把握してもらおうかなって思ってる。将来自分のライブハウスを開きたいんだって。だからそのうち照明のことも教えてあげて欲しいんだけど。」
小 鷹「え、照明はもうユウキさんと二人いるんで大丈夫ですよ?てゆーか音響もアキちゃん一人で全然できちゃうし、ステージもレンさんがやってるから問題なくないすか?」
難 波「……。」
横 山「……。」
小 鷹「あ、ごめんなさいそういうつもりで言ったんじゃなくて、純粋になんで増やす必要あったんだろうっていう疑問です。別に嫌とかではなく。」
横 山「とにかくこれから一緒に仕事して一緒に過ごしていくんだから、仲良くやっていこ。お互いギスギスするの嫌でしょ?」
畑 野「邪魔されるのも嫌だけどね。」
横 山「誰かに何かあったときに、どこでもできる人が一人いたら安心じゃん。」
畑 野「……何かあったときって何。事故とか?誰かがまた入院しても心配ないってこと?」
横 山「そう言うことじゃなくて、普通に体調不良とか、普通に休みが欲しいとか。」
 
   少しの間。
 
畑 野「とりあえず今日は音響関連教えてあげなよ。問題ないとはいえ今はアキ一人なんだし。じゃあこれからよろしくお願いしまーす。」
小 鷹「よろしくお願いしまーす。」
 
   畑野と小鷹が出ていく。
 
横 山「ごめんね。オーナーの事故のことがあってからみんなピリピリしてて……悪い人たちじゃないからすぐに馴染めると思うんだけど。私が責任もって居心地良くなるようにするから心配しないで。」
難 波「いえ、大丈夫です。私も頑張ります。」
横 山「とは言っても、どうやったら認めてもらえるのか……。あ、そうだ!」
難 波「……?はい。」
横 山「8の字巻き覚えよう!」
難 波「ハチノジマキ。」
横 山「ケーブル類を巻くとき、伸ばしやすいようにする巻き方があるの。あとケーブルに負担がかからないようにするって意味合いもあるんだけど。」
 
   横山、壁にかかっているシールドを手に取り。
 
横 山「こうして先を前に向けて、一回目は順に、二回目は逆向きに、って巻いてくと、伸ばした時にまっすぐになるの。」
難 波「おお!すごい!」
横 山「ライブハウスってとにかくケーブル類が多いからね。これさえ覚えておけばまったく動けないってことはないはず。私も最初これから覚えたし、そこから先輩たちに認めてもらえるようになったから。」
難 波「ありがとうございます!」
横 山「じゃあ早速やってみて。」
難 波「ええと……。」
横 山「まず先端を前に向けて……そうそう上手。あ、ケータイ貸して。後で練習できるようにムービー撮っといてあげる。」
難 波「あ、お願いします。(横山に渡す。)」
 
   8の字巻きを練習する二人。

   日替わり、一週間後のライブ終わり。
 
バンドマン(OFF)「ありがとうございました。またお願いします。」
難波・横山(OFF)「お疲れ様でした。」
 
   難波、横山がステージ上で片付けをしている。
 
横 山「じゃああとこの辺よろしく。」
難 波「はい。」
 
   客席後方に去る横山。
   ケーブルを巻いている難波。
   頭痛がし、一度ケーブルを落とす。
   (M2:救急車の音)
   おさまり、ケーブルを拾いもう一度巻き直し始め る。
   楽屋から小鷹が出てくる。
 
難 波「お疲れさまでした。」
小 鷹「あ、お疲れ様でーす。……え、8の字できるんすか?」
難 波「あ、いや、まだあんまり綺麗にできなくて。」
小 鷹「それだけできれば充分でしょ。経験あるんすか?」
難 波「いえ。」
小 鷹「覚えたの?」
難 波「はい。」
小 鷹「ここに来てから?」
難 波「はい。レンさんに教えてもらって。」
小 鷹「すごいすね。」
難 波「ありがとうございます。」
横 山「来てもらって良かったでしょ?」
 
   客席後方から横山が来る。
 
小 鷹「確かに私らの負担減るのはデカいすね。」
横 山「だから言ったじゃん。」
小 鷹「いや私は反対してないすよ。」
横 山「『なんで増やす必要あるんすか』みたいなこと言ってたじゃん。」
小 鷹「いやまあそれはね、言いましたけど。」
 
   畑野が楽屋から出てくる。
 
難 波「お疲れ様です。」
小 鷹「あ、ねえユウキさん。これ難波さんがやったんですよ。すごくないですか?」
畑 野「(手に取って)綺麗にできてるな。」
小 鷹「ね。」
難 波「ありがとうございます。」
 
   畑野、横山を見る。
   横山、畑野に目で何かを訴える。
 
畑 野「経験あるの?」
難 波「いえ。」
小 鷹「それさっき私も聞きました。」
畑 野「あそう。ここに来てから練習したってこと?」
難 波「はい。」
小 鷹「それも聞きました。」
畑 野「あそう。」
横 山「めちゃくちゃ仲良しじゃん。」
 
   なんとなく笑い合う四人。
 
横 山「(畑野に)で?」
畑 野「……あのさ。」
難 波「はい。」
畑 野「ごめん、あの、初日。」
難 波「え?」
畑 野「難波さんには関係ないことで苛立ってて。八つ当たりみたいになっちゃった。」
難 波「ああ、いえ、大変なときに来ちゃったってことは聞きましたし、お気持ちはわかるので。」
畑 野「あの時レンにも言われたけどさ、やっぱり人が増えるのはいいことだと思う。それぞれの負担も減るし、その分仕事の質も上がるだろうなって。ごめん。」
難 波「いや、もう本当に全然。お気になさらず。」
畑 野「ありがとう。」
横 山「良かったあ。やっと仲間入りできた。」
畑 野「レンもごめん、余計な心配させて。」
横 山「いや私は。マヒロにここに居てほしいだけだから。」
難 波「……ありがとうございます。」
小 鷹「……でもよく辞めようと思いませんでしたね、あんな言い方されて。」
畑 野「いやお前も大概だったけどな。まあでも確かに。ライブハウスなんて他にいくらでもあっただろうし。」
難 波「……ここが、よかったんです。」
横 山「なんで?」
難 波「……妹と、よく来てたんです、ここに。」
横 山「妹さん?」
難 波「はい。ちょっと前から帰って来てなくて、どこ行ったか分からなくなっちゃてるんです。」
小 鷹「……え。」
難 波「いろいろ探してみたんですけど、見つからなくて。」
畑 野「そうなんだ……。」
難 波「それで、ここで働いてたら、フラッと来てくれるかもしれないなーとか、そんな感じです。」
畑 野「そっか……。」
難 波「すいません、こんな話。」
畑 野「いや、こっちこそ。」
横 山「きっとそのうち来てくれるよ。その日まで頑張ろ。」
難 波「はい。」
恒 岡「来たって意味ないですよ。」
 
   恒岡が客席後方から入ってくる。
 
小 鷹「あ、アキちゃん。おはよー。」
難 波「え……と、意味ないって、どういうことですか?」
恒 岡「そのままの意味ですけど。だってもうあなたに会いたくないから帰ってこなくなっちゃったんじゃないんですか?」
難 波「……え?」
横 山「アキ。」
恒 岡「だって帰ってこない理由なんてそれでしかないでしょ。」
難 波「いや、何かに巻き込まれてるかもしれないじゃないですか。……事件とか……事故……とか。」
恒 岡「だったらそもそもライブハウスなんて来れるわけないでしょ。それに来たとしても、ケーブル巻くのに必死で妹さんだって気付けないんじゃないですか?」
横 山「アキもうやめて。」
恒 岡「この二人は味方にできたのか知らないけど、私はこの人がここにいること認めないから。」
 
   恒岡が楽屋に去る。
 
小 鷹「どうしたんだろあの子……。」
横 山「ごめんね、あれはさすがに言い過ぎだわ。」
難 波「いえ……私もなんとなくはそう思ってたので……。結局は私の自己満なんだって……。」
畑 野「それにしてもなんであんなに難波さんを目の敵にするんだ?」
小 鷹「難波さんなんかしたんすか?」
難 波「何もしてないと思いますけど……。」
畑 野「もとから知り合いだったの?」
難 波「いえ、ここに来てから初めてです。」
小 鷹「それであんなにあたり強くなるもん?」
畑 野「本当はどっかで会ったことあるんじゃない?で、何か遺恨があるんだけど難波さんが忘れてるだけとか。」
小 鷹「ああそれだったらめちゃくちゃ怒るのも納得すけどね。」
難 波「……そう、なのかな。」
安 野「すいませーん。」
 
   安野ウタが客席後方から入ってくる。
 
横 山「はい。」
安 野「あの、面接で伺った安野ウタですけれども。」
横 山「面接?」
安 野「はい、恒岡さんはいらっしゃいますか?」
横 山「あ、面接担当は私なんですけど……。」
安 野「えーと、恒岡アキさんに呼んでいただいて来たんですけど……。」
 
   小鷹、楽屋を覗いて。
 
小 鷹「アキちゃーん、面接に来たって人が来たんだけど。」
 
   恒岡がステージ上に出てくる。
 
恒 岡「ああ!待ってました!」
 
   恒岡が客席に降りて。
 
恒 岡「今日から一緒に働いてもらう安野ウタさんです。」
難 波「え?」
畑 野「え、アキは人増やすの反対じゃなかったの?」
恒 岡「いや、別に。」
畑 野「だって……。」
横 山「あのさあ。」
恒 岡「え、なに?文句ないよね?人増えた方がいいんでしょ?ウタちゃんは音響の専門学校出て、卒業後はずっとライブハウスで働いてたから即戦力だし。」
横 山「……全然いいんだだけど、一応面接担当は私なんだからさ。」
恒 岡「その面接担当が頼りにならないからじゃん。場違いな人連れてきたりするし。」
横 山「……あっちで話そか。」
 
   客席後方から出ていく横山と恒岡。
 
安 野「え……と。来たらダメな感じでした?」
畑 野「いや、そんなことはないよ!ただちょっとこっちにいろいろ問題があって……。安野さんは気にしなくて大丈夫。」
小 鷹「人が増えるのが嫌なんだと思ってたけど違うんですね、アキちゃん。」
畑 野「そうみたいだね。あ、(安野に)照明の畑野ユウキです。よろしくお願いします。」
安 野「あ、安野ウタです。よろしくお願いします。」
小 鷹「同じく照明の小鷹トオコです。お願いします。」
安 野「お願いします。」
難 波「難波マヒロです。よろしくお願いします。」
安 野「お願いします。」
小 鷹「難波さんもまだ先週入ったばっかりなんだよね。」
安 野「あ、そうなんですか。」
難 波「はい。まだ全然よくわかってなくて……。」
安 野「難波さんの担当はどこなんですか?」
畑 野「音響になるかなあと思ってたんだけど、安野さんが来てくれたからステージになるかなきっと。」
安 野「あ、じゃあバンドさんと一番近い所じゃないですか、いいなあ。音響とか孤独ですからね。一番クレーム多い部署だし。」
小 鷹「ああやっぱりどこもそうなんだ。」
安 野「まあバンドさん次第ですけどね。こだわる人は照明とかも結構注文多いですけど。やっぱり音響ほどではない気がしますね。」
畑 野「でもその方がやりがいはあるよね。照明とか、こっちでめっちゃカッコよくいけた!と思っても案外誰も見てなかったりするもん。」
安 野「いやそんなことないでしょ。カッコいい照明のときって音響ミスっててもカッコよく見えますし。やっぱり一般のお客さんに伝わりやすいのは音よりビジュアルですからね。結構助けてもらってました。すいません、こちらでも助けていただくことになると思います。」
小 鷹「またまたあ。」
 
   頭痛がしてその場にしゃがみ込む難波。
 
小 鷹「難波さん?」
畑 野「どうした?」
難 波「(ゆっくり立ち上がりながら)いえ、大丈夫です。ちょっと頭痛がして。」
安 野「結構辛そうですけど……。」
難 波「大丈夫です。」
小 鷹「ちょっとこっちで休んどいた方がいいですよ。」
畑 野「そうだね。」
難 波「いえ、大丈夫です。大丈……。」
 
   その場に崩れる難波。
   三人が「難波さん」と呼びかけ続ける。
   呼びかけが「起きて、マヒロさん」に変わっていく。

   日替わり、翌日。
   ステージ上に座っている安野。
   難波が楽屋から出てくる。
 
安 野「あ、おはようございます。」
難 波「おはようございます。」
安 野「具合どうですか?」
難 波「もう大丈夫です。ありがとうございます。」
 
   難波も座る。
   少しの間。
 
難 波「何してるんですか?」
安 野「別に何も。ただこの空間にいることを楽しんでました。」
難 波「(笑って)いいですね。」
安 野「ここ、居心地いいですね。皆さん仲良くて優しいし。」
難 波「はい……。」
安 野「あ、すいません。アキちゃんのことですよね……。」
難 波「いえ。まあでも他の方々には本当に良くしていただいてますし。……私、何かしたのかな。」
安 野「私はちょっと前からアキちゃんのこと知ってるんですけど、あんなに怒った感じのアキちゃん見たことないから正直びっくりでした。」
難 波「まあでも頑張るしかないです。恒岡さんがいるとちょっと息苦しいですけど、それ以外は本当に居心地良いし。ここで働き続けなきゃですし。」
安 野「あ、それちょっとだけ聞きました。妹さんに会いたいんですよね?それっぽい人見たら教えてほしいってユウキさんとトオコさんが。」
難 波「(会釈のように頷く)」
安 野「妹さんとは、仲良かったんですか?」
難 波「はい。……両親が少し前に亡くなって、家族経営してたお店を二人で引き継ぐことになったんです。閉めることも考えたんですけど、両親が残してくれたものだし、もうちょっと頑張ってみようって。」
安 野「それで妹さんと支えあって、みたいな?」
難 波「はい。急なことだったのでなかなか上手くいかなかったんですけど……。妹はいつも前向きで、私を引っ張ってくれて。いつも妹に助けてもらってました。……。」
安 野「今そのお店は?」
難 波「(首を振り)休業中です。私一人ではとても……。」
安 野「それは早く帰って来てほしいなあ……。」
難 波「まあでも、今は皆さんがいてくれるので。」
安 野「どんな方なんですか?妹さん。特徴とか。」
難 波「ええと、どちらかと言えば背は低い方で、線が細くて、あまり私に似てなくて。」
安 野「うーん。写真とかは無いんですか?」
難 波「あ、あります。」
 
   難波、ケータイで写真を探す。
 
難 波「あれ……。ない。なんで無いんだろう?」
安 野「間違って消しちゃったり……は無いか。」
難 波「だとしても妹が写ってた写真全部ないなんてことはあり得ないです。」
安 野「なんかほかに特徴にあります?これ!ってやつ。」
難 波「ええと……。あ、私とお揃いのネックレスをしてます。今も持ってれば、ですけど……。」
安 野「どんなのですか?」
難 波「(見せて)これです。」
安 野「……どっかで見たことあるかも。」
難 波「え……どこでですか?」
安 野「ええと……あ。」
難 波「?」
安 野「アキちゃんが。持ってました。」
難 波「……え?」
安 野「いや、でも、たまたま同じデザインのもの持ってただけかも知れないし……。」
難 波「ありえません。……これ、妹がオーダーして作ってくれたプレゼントなんで。」
安 野「……。」
 
   恒岡が客席後方から入ってくる。
 
難 波「恒岡さん。このネックレス、持ってますか?」
恒 岡「(見せて)持ってるけど。」
難 波「なんであなたが持ってるのか、説明してもらえますか。」
恒 岡「なんでって、私のだからですけど。」
難 波「そんなわけないです。これは……。」
恒 岡「妹さんがくれたんですよね?二人のお祝いにって。これから頑張ろうねって。」
難 波「……え?」
 
   難波を頭痛が襲う。
 
恒 岡「今日でこのライブハウス閉めるので、出て行ってもらっていいです
    か?」
難 波「は?どういうことですか?」
 
   横山が客席後方から来る。
 
恒 岡「そのままの意味ですけど。ここはもう終わりです。」
横 山「そんなことさせるわけないでしょ。」
難 波「私のことが気に入らないのはいいですけど、ユウキさんとトオコさんにまで迷惑かける必要ないでしょ。」
恒 岡「誰ですかそれ。」
難 波「なんなんですか?ここで一緒に働いてるユウキさんとトオコさんですよ。」
恒 岡「ウタちゃん知ってる?」
安 野「いや、知らないけど……。」
 
   安野が楽屋に去る。
 
難 波「……え?昨日楽しそうに話してたでしょ。さっきだって妹の話を二人から聞いたって……。」
横 山「マヒロ。大丈夫。私は知ってる。大丈夫だから心配しないで。」
難 波「どういうこと?何?ちゃんと説明して。」
恒 岡「もういい加減目を覚ましたら?お姉ちゃん。」
 
   ××××××××××××××××
   (以下、音声フラッシュ)

横 山「このライブハウス、オーナーがご兄弟で、お二人で経営してるんで
    すけど、先月お二人とも事故に遭っちゃって今は入院中で。」

   (M:救急車の音)

難 波「妹と、よく来てたんです、ここに。」
恒 岡「来たとしても、妹さんだって気付けないんじゃないですか?」
   ××××××××××××××××
 
恒 岡「思い出した?」
難 波「これは……ここは、夢?」
恒 岡「そりゃ居心地も良いよね。私がいる以外は。」
難 波「私の夢なのに、なんでアキは優しくしてくれないんだろう。」
恒 岡「優しく接することだけが優しさじゃないって、お姉ちゃん自身が知ってるからじゃないの?」
難 波「……アキは本当にすごいなあ。」
恒 岡「そういうことで、あなたももう諦めたら?」
横 山「……諦めない。ここにいれば苦しいことなんてない。幸せなことしかない。」
難 波「……そっか……レンさんは私だったんだ。目を覚ましたくないと思ってる私……。」
横 山「ここに居ようよ。起きたってまた嫌な思いするだけじゃん。お父さんもお母さんももういない、ライブハウスの運営だってわかんないことばっかりでみんなに迷惑ばっかりかけて。ここなら全部上手くいくんだよ。みんなが思い通りに動いてくれるし、欲しい言葉だけを言ってくれる。」
恒 岡「私がいるよ。私がいる限りそんなことにはならない。夢の中のほうが良いなんて絶対に思わせない。」
横 山「なんで……。アキだって迷惑してるんでしょ。私のせいで……私が足引っ張ってばっかりで……もう、疲れたよ。」
恒 岡「……どんなに上手いミュージシャンだって、ミスをすることはあるよ。その姿を見て、私はダサいなんて思わない。人前で失敗することを恐れないで、ステージに立って、一生懸命に目の前の人たちを楽しませてあげようとする姿がカッコいいと思う。夢に向かって傷つきながら走り続ける姿がカッコいいと思う。そんな人たちが失敗するからこそ、『この人も私と同じ生きてる人間なんだなあ。』って安心する。私は、お姉ちゃんがいたから前を向いていられたんだよ。」
横 山「(声を上げて泣く)」
難 波「(横山に歩み寄り)……ありがとう。レンさんのおかげで、ずっと抑え込んでた本当の自分の気持ちがわかった。たまには素直に吐き出すことも、大事なんだろうなって思った。もし私がこの先、また自分を押し殺して苦しい思いをしたときは、また夢に出てきて。」
恒 岡「さて、そろそろ起きて。ユウキさんもトオコさんもみんな心配してるから。」
難 波「うん。ありがとう。目が覚めたら改めてお礼言うね。」
恒 岡「……うん。」

   楽屋へ去る横山と恒岡。
   恒岡が止まって。
 
恒 岡「お姉ちゃん。」
難 波「?」
 
   戻って来て難波に抱きつく。
 
恒 岡「ありがとう。」
難 波「……うん。」
 
   横山が楽屋へ去る。

   現実世界。
   病院の一室。
   ベッドの上に寝ている難波。
   畑野と小鷹がその傍にいる。

畑 野「……マヒロ?」
小 鷹「マヒロさん!」
難 波「(起き上がり)おはよう。」
畑 野「良かった……。」
小 鷹「良かった……。」
難 波「ご心配おかけしました。……あれ、アキは?先に起きてたんじゃな
    いの?」
畑 野「……。」
小 鷹「……。」
難 波「……?」

   ふと気づき楽屋の方へ駆け出す。
   カーテン裏で。

難 波「アキ?……アキ?噓でしょ?」
 
   声を上げて泣く難波。

   日替わり、しばらく経ったある日のライブ終わり。
 
バンドマン(OFF)「ありがとうございました。またお願いします。」
難波・畑野・小鷹(OFF)「お疲れ様でした。」
 
   難波、畑野、小鷹がステージ上で片付けをしてい る。
 
小 鷹「3人はさすがにきついですて。」
難 波「仕方ないじゃん応募が来ないんだから。」
畑 野「こんなライブハウスないっすよマジで。」
難 波「Vi-codeさんだって3人で回してるじゃん。」
畑 野「あんなめちゃくちゃ優秀なライブハウスと比べないでくださいよ。」
小 鷹「そうだそうだ。」
難 波「ちょっとトオコさ、森本さんあたり引き抜いてきてくんない?」
小 鷹「いや音響は?オーナーと照明3人って余計意味わかんないでしょ。」
難 波「あの人来ちゃったら二人を切らなきゃいけなくなるか……。」
畑 野「そういうの良くない。」
小 鷹「冗談でも言っちゃいけないやつ。」
安 野「すいませーん。」
 
   安野が客席後方から入ってくる。
 
安 野「あの、表の音響スタッフ募集って張り紙見たんですけど……。」
 
   顔を見合わせる三人。
 
三 人「きたあああああ。」
 
   「いつから働ける?」「好きな食べ物は?」「趣味は?」など言いな
   がら客席後方から去る。
   横山と恒岡が楽屋カーテンから少し覗き、3人が行ったのを確認して
   からステージに出てくる。
   顔を見合わせて少し笑う。
   (M:エンディング)
 


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