見出し画像

「手さぐり01」作品説明

musa2アート&デザイン展2023に出品した作品について

 1980年代の後半、デザインの勉強を始めたばかりの自分には、J.J.ギブソンの「アフォーダンス」という概念は、正直行ってその意味を理解することは難しかった。数えるほどの出席者しかいない大教室で、講師がドアの取手を指差して「この取手の形は、”引く”という行為を・・・」といった話を、分かったような分からないような、首を傾げながら聞いていた記憶がある。後日談だが、このドアの取手の話はD.ノーマンの著作が元になっていて、ノーマンがギブソンの言ったアフォーダンスを誤解していて、これからは「シグニファイア」と言おう、とノーマンが言ったとかいう話をずいぶん後になって読んだ。ともあれ、物の形状と人間の行為の間の関係に注目する機会に、デザインに関わる仕事をしながら何度も何度も遭遇した。

さて、さて。

 最近、「物に触る」ということに関して先行研究の論文を読んでいたところ、J.J.ギブソンの名前と再会した。アフォーダンスではなく「アクティブタッチ」という「感覚」である。「アクティブタッチ」は手で触るという刺激が生み出す感覚や知覚についての研究論文にしばしば登場する。最新のゲーム機のコントローラに使われている、ユーザに振動や動きを使って感覚を伝える「ハプティクス」と言われる触覚技術も、元はギブソンの提唱した、五感の触覚に変わる新しい概念として、皮膚感覚に加え筋肉が受ける刺激も含めた感覚とし定義した「ハプティクス」から発展したのだと考えられる。

 私達の得る情報は視覚に頼ることが多い。もちろん、視覚以外から得られる情報にも接しているのだが、それらには鈍感というか、聴き過ごしたり、触りそこねたりしていることが多いのではないだろうか。特に美術館や博物館において、作品を見ることはあっても、それを「触る」機会は少ない。資料や作品を長く残し未来に伝えていくということを考えれば、至極当然のことなのだが、もしかしたら、触ることで得られるはずの感動(心の動き)の機会を失っているかもしれない。
 そんな考えから「触る」ことを意識した作品制作を作ってみようと思い立った。

 この「手さぐり01」という作品は、指先と手のひらの使い方、動かし方によって、造形物の形の印象が変わるのではないかと考えて作成した最初の作品である。

 触る手の形で形状の認識は変わるかもしれない。できれば目を開けたり、目を瞑ったりして触れて欲しい。(この記事だけを読んでいる方は、作品を触ることができませんね。ごめんなさい!)

 左側のピラミッドのような造形物は、指先で触ると、エッジの効いたゴツゴツとした塊が並んでいるようにしか感じないと思うが、手のひらを使って全体を触ると、丸みを帯びた膨らみのように感じないだろうか?
 右側の小さな凸凹は、指先で触ると、単なる凸凹であるが、指先でなぞると、何かの連続性が分かるかもしれない。手のひらで触る、その手のひらを動かしてみる。それぞれで、単なる小さな突起物の凸凹は、何か別の物に触れた時の感覚が呼び戻されたりしないだろうか?

 ただ、観るだけでなく、触ることで、何か新しい経験が生まれるのか? いや、生まれないのか? そうした作品を少しづつ作っていきたいと考えている。  (2023年9月12日)

手さぐりして感じる形を探してみてください


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?