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掌編とか短編とか!

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自作の掌編・短編小説を格納していきます。
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#逆噴射レギュレーション

【ぼくときみの海辺の村の】 #第一回お肉仮面文芸祭

 ゴッゴッカン……  ゴッゴッカン……  ぼくの記憶はそんな音からはじまった。繰り返し打ちならされる音には不思議な静けさがあって、そしてぼくの口のなかには、いっぱいになにかがひろがっていて、ぼくはとにかく夢中でそれを食べていた。とてもおいしかったことだけはよく覚えている。  ぼくは食べる。ゴッゴッカン……。するとそれは少しずつ小さくなっていく。ゴッゴッカン……。ぼくは食べる。ゴッゴッカン……。それはかけらのようになっていく。ゴッゴッカン……。ぼくは食べる。ゴッゴッカン……

世界を揺るがす天才CEO 亜嵐慶

 その時、男は得意の絶頂だった。  話題のベンチャー、ビッグトーク社。その新製品発表会。詰めかけたプレスが注目する中、巨大プロジェクターを前にして堂々とプレゼンを続ける男。  ビッグトーク社の若き創業者、亜嵐慶(あらん・けい)。 「まさにセキュリティ乱世の時代! 大手が開発した決済システムが、最近やられたばかりだ!」  亜嵐は両手を広げて大仰に続けた。 「皆さんも覚えてますよね。『二段階認証』。今では当たり前になったその仕組みすら、事故ったシステムは備えていなかった

ノア・サーティーン

「行ってしまうのか……ノア」 「はい……お爺様」  雨はやむことなく降り続けている。しとしとと、いつまでも。ノアと呼ばれた少女は丘の上から見下ろしていた。変わり果てた国の姿を。一面の泥の海を。  その傍らで山羊のチッポラがメェと鳴いた。ノアは微笑み、その頬にそっと触れる。 「大丈夫。わたし、絶対戻ってくるよ」  そのおさげ髪が風に煽られ、ばたばたと揺れている。健気で気丈。その様を見てメトセラ翁は苦しげに呻いていた。 「あぁ、神よ……なぜ……なぜ孫に……なぜノアにこん

ニルラポランと君は笑った

 ポラペニアンとマニャマニャの二人がテレタンのオアシスに辿り着いたのは、蛙の太陽が真上に、そして亀の太陽が西から昇り始めた頃だった。 「うわぁ」  ポラペニアンの丸い顔がぱぁっと輝く。それはまるで、かのゾラの花が咲いたかのようだ。市場の賑わい。異形の人々。奇怪な大道芸。ポラペニアンのふっくらとしたほっぺがぷくりと膨らみ、その小さな体がバザールの中を跳ねるようにして歩いていく。そのふわふわの衣服が綿毛のようにぽよぽよと、楽しげに弾んでいる。  その後ろをマニャマニャはしず