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軌道旋風ギャブリエル

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電子パルプマガジン「無数の銃弾」で連載しているシリーズを、最新号から一話遅れて掲載していきます。
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軌道旋風ギャブリエル 目次

『エピソード・ゼロ』 壮絶メリクリ殺! 『楽園の地獄』  第一話   地獄の王  第二話   君は、なぜ  第三話   空から来た女  第四話   

軌道旋風ギャブリエル 『楽園の地獄』 第五話 「死して屍拾う者なし」

【前回】 登場人物たち◆  戦争がすべてを狂わせたのか、それとも、狂っていたから戦争が起きたのか――デミルにはわからない。  しかし、これだけははっきりとわかっている。  戦争によって失われたのだ。  セレン。  ずっと一緒だった人。  大切だった君。  君はもう、二度と戻ってくることはない。  ――そう、わかっていた。  手からこぼれ落ちた水のように、君の笑顔も、君の優しさも、君のぬくもりも、そのすべてが。  だから。  デミルは、闇のなかで立ちどまった。  敵地、エク

軌道旋風ギャブリエル 『楽園の地獄』 第四話 「マキシムの楽園」

【前回】 登場人物たち◆  それは陽が落ち始めた夕刻。人びとが一日の終わりを感じはじめた、その時だった。エクサゴナル共和国の首都パリスと周辺都市で、次々と火の手があがりはじめたのは──。  まず手始めに交通機関、南部の浄水施設、港湾都市ポールドペ……各地で自動車爆弾がさく裂し、建物が倒壊。凄まじい数の死傷者がうみだされた。そして直後。国際空港と各地の治安施設を武装集団が強襲。治安組織との間で激しい銃撃戦がはじまった。それはさながら内戦だった。  国営放送はジャックされてい

軌道旋風ギャブリエル 『楽園の地獄』 第三話 「空から来た女」

【前回】 この物語の登場人物たち  ◆  瓦礫と化した貧民街の片隅で、ルウルウは見あげていた。  それは神々しくも、畏怖を抱かせる光景だった。  エクサゴナル共和国の首都、パリス上空。  黒煙たなびく空を貫くように、一条の、赤い光が落ちてくる。 軌道旋風ギャブリエル 『楽園の地獄』第三話 「空から来た女」  ルウルウの十メートルほど後方。灰色の髪が静かに揺れていた。  デミル。〈屍衆〉の青年だ。  デミルは幼馴染の少女セレンの屍を抱きながら、冷徹にいまの状況を整理し

軌道旋風ギャブリエル『楽園の地獄』第二話「君は、なぜ」

【前回】  たった一日で、すべては変わってしまった。のちに「楽園の地獄・第一幕」と呼ばれる絶望の一日が終わりを告げて、あらたな朝を迎えても、それでも、なお。  エクサゴナル共和国の首都パリスは、いまだ燃え続けていた。  テロがもたらした被害の全容は、ようとして知れない。エクサゴナル陸軍直属の消防旅団による救助活動も開始された。しかしそれは、遅々として進もうとしなかった。なぜなら。 『警告する! 首都は今、テロリストの脅威にさらされている! 戒厳令を破り出歩くものは、即刻射

軌道旋風ギャブリエル 『楽園の地獄』 第一話 「地獄の王」

【前回】 「君は、なぜ……」  デミルは表情を変えずに、ただ呟いていた。  古いアパートメントの一室。  冬の乾いた空気。  クリスマスの朝。そして、血の匂い。  デミルはひざまずく。横たわる少女に触れる。  そこに、もはや温もりは存在しない。 「……セレン」  セレン。幼馴染の少女。床に横たわり、足を投げ出し、もう動くことはない。デミルは確かめるようにその頬に触れた。あの暖かさは、もう伝わってはこない。  冷たくなった手を握りしめる。時は刻々と過ぎていく。窓の

軌道旋風ギャブリエル 「エピソード・ゼロ」

 静かな朝だった。  ピピーガガッ…… 『死ぬには良い朝だ』 『ザザッ……そうね、アデル』  完全なる無音の世界。丸みを帯びた大気層に、眩い陽の光が差していく。それはたった5分程度の朝だ。あっという間に過ぎ去っていく、儚い朝。 『ごめんなさい、アデル。わたしは、もう……』 『ガガッ……わかっている……わかっているさ、ファティハ』 『あぁ……わたし……血が止まらない』 『ファティハ……もう……話すな』 『わたし……もうあなたのことを……サポートできない』 『わかっている