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雌鶏/楡 周平

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昭和29年、ナイトクラブ「ニュー・サボイ」で働く貴美子は、上客の鬼頭から京都で占い師として生計を立てないかとスカウトを受ける。服役の過去を持つ貴美子は、そこを足掛かりに次々と成り…
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2024年4月の記事一覧

雌鶏 第六章 2/楡 周平

【前回】    4  小早川(こばやかわ)の告白を聞いて、貴美子(きみこ)は動揺した。  誕生の時期といい、手放してから養子にもらわれていくまでの経緯といい、鴨上(かもうえ)から聞かされていた話と酷似している。  だが、もしその子供が勝彦(かつひこ)であったなら……。  止(や)むに止まれぬ状況下にあったとはいえ、我が子を手放さざるを得なかった母親の心情は鴨上にも理解できるはずだ。鴨上にしても、空襲で亡くなった妻子のことを語ったのは一度きり。その後一切触れずにきたのも、今