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雌鶏/楡 周平

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昭和29年、ナイトクラブ「ニュー・サボイ」で働く貴美子は、上客の鬼頭から京都で占い師として生計を立てないかとスカウトを受ける。服役の過去を持つ貴美子は、そこを足掛かりに次々と成り…
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2023年12月の記事一覧

雌鶏 第五章/楡 周平

【前回】    1  淀(よど)興業を『ヨド』に改めて以来、事業規模はますます拡大の一途を辿(たど)った。  支店はほぼ全国を網羅。それも人口規模によって、複数の支店を置く都市もある。業績もまた鰻(うなぎ)登りなら、業態の呼称も古くから用いられてきた『街金』に加え、七〇年代に入ると『サラリーマン金融』、略して『サラ金』が使われるようになった。  手形金融の業績も殊(こと)の外順調に推移した。  最大の追い風となったのは、東京オリンピックの翌年、昭和四十年九月に開催が決定

雌鶏 第四章 2/楡 周平

【前回】   3 「坂道を転げ落ちるように」とは、凋落(ちょうらく)の速さを比喩する言葉だが、逆の場合にも言えるのだと清彦(きよひこ)は思った。  手形金融に続いて清彦が始めた主婦金融は、予想を超える大商いとなった。  まずは、尼崎(あまがさき)の大手製鉄会社の社宅の郵便受けに「担保不要、審査ナシ、電話一本で即融資」と謳(うた)った広告チラシを入れたところ、ちょうど夏の賞与を翌々月に控えていたこともあったのだろう。半月も経(た)たぬうちに、融資を申し込む電話が引きも切ら