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. * 女は昼間は潜り、夕刻には十右衛門をつれて父、政次の許に出向き、こまやかな気配りで面倒をみた。 まったく喋れぬほどに衰弱している政次だが、枯れ木と化した腕を力なく動かして癇癪を破裂させる。 怒りの理由がわからず、十右衛門にはただの理不尽にしか感じられない。我儘を通り越して、もはや悪意のかたまりである。 政次が振り払ったせいでこぼれた潮汁を始末し、女はあらためて汁を用意する。 咀嚼ができない政次が滋養をとれるようにと白身の魚をかたちがなくなるまですりつ
. 02 さて、どうしたものか。 十右衛門は、途方に暮れていた。 元服をすませて七兵衛あらため十右衛門と七つから十に名前の数は増えはしたが、まだ齢十三、産毛じみた鬚がわずかに生えてはきたが、当人は軀の変化を気にとめることもなく、眼差しなどじつに穉い。 まだ子供だが、いつだって狙い澄ましたように難題が突き刺さる。そのほとんどは家の問題、貧困の問題、父親の問題であった。 生まれてからずっと難題にまみれて足掻いてきたが、路傍に座りこんだ十右衛門が抱えているいま