下町やぶさか診療所 5 第一章 散骨の思い・前/池永陽
七月に入って急に夏らしくなった。
微風とともに、台所から漂ってくるのは、カレーの匂いだ。夏にカレーはどうかと考えて、カレーの本場がインドだということに気がつき、麟太郎はすぐに納得の思いを胸にする。
が、問題なのはこれが、カレーライスなのかカレー焼きそばなのかということだ。麟太郎の前に座っている潤一もそれが気になるらしく、妙に落ちつかない様子だ。
「カレーライスか、カレー焼きそばか――親父はどう思う」
台所を気にしながら、低い声で潤一がいう。
「そうだな。お前は、どっち