マガジンのカバー画像

下町やぶさか診療所5

5
看護師知子の義母が癌のため死去。故郷島根の海へ散骨してほしいとの遺言を残した。大先生こと麟太郎が知子夫妻に同行すると知った居候の高校生麻世は……。ユーモア&人情小説。
運営しているクリエイター

2024年3月の記事一覧

下町やぶさか診療所 5 第一章 散骨の思い・前/池永陽

 七月に入って急に夏らしくなった。  微風とともに、台所から漂ってくるのは、カレーの匂いだ。夏にカレーはどうかと考えて、カレーの本場がインドだということに気がつき、麟太郎はすぐに納得の思いを胸にする。  が、問題なのはこれが、カレーライスなのかカレー焼きそばなのかということだ。麟太郎の前に座っている潤一もそれが気になるらしく、妙に落ちつかない様子だ。 「カレーライスか、カレー焼きそばか――親父はどう思う」  台所を気にしながら、低い声で潤一がいう。 「そうだな。お前は、どっち