新 戦国太平記 信玄 第七章 新波到来(しんぱとうらい)11/海道龍一朗
九十
戦いが動いたのは、駿河だけではない。
武田勢の侵攻を知り、徳川(松平)家康も遠江へ侵攻を開始する。
最初に標的としたのは、浜松にある曳馬城だった。
五千の兵で城を囲み、無血での降伏を迫っていた。
「城方からの返答はまだか?」
徳川家康は苛立った様子で訊く。
「まだにござりまする」
酒井忠次が顰面で答える。
「あの寡婦はいつまで意地を張るつもりなのだ。まさか、籠城するつもりではあるまいな」
家康が言った寡婦とは、曳馬城の主だった飯尾連龍の妻、於田鶴の方