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エア本屋・いか文庫の空想ブックフェア【第4回】「ひんやり涼しい」フェア

お店も商品も持たない「エア本屋」・いか文庫。
テレビにラジオに書店の棚に、神出鬼没のいか文庫が『小説すばる』誌上で開店しました!

いか文庫スタッフの店主とバイトちゃんが、理想のブックフェア開催を目指してミーティングを重ねる本連載。

第4回のフェアのテーマは「ひんやり涼しい」です。

いよいよやってきた夏本番、いろんな意味で「ひやっ」とできるオリジナルの選書をお届けします!

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いか文庫 ◆ 本と本屋が好きな店主と、イカが好きなバイトちゃん(ベトナム支社)、バイトぱん(東京支社)、バイトもりもり(関西支社)、バイトいも(イギリス支社)の計5名で活動中のエア本屋さん。

店主 日本は梅雨入りして気温もどんどん上がってきてるけど、バイトちゃんが住んでるベトナムはもっと暑いよね?

バイトちゃん(以下、ちゃん) もう暑くて暑くて……。朝八時頃から気温がすでに四十度近くあって、汗をかきすぎて、一日四回も着替えたりしてます。

店主 ひぇ〜! 想像以上だ!  どうやって涼んでるの?

ちゃん 毎日プールに入っています。だから自分史上一番日焼けしてます! それにココナッツミルクアイスが入っているコーヒーを飲んだり。あ、去年日本から買って帰ってきた「はっか油」も、涼むのに役立ってます。

店主 はっか油! 注目されてるよね。

ちゃん もともとは蚊よけのために買ったんですが、新型コロナ対策に思いがけず大活躍。毎日着けているマスクに吹きかけるだけで、鼻がスーッと通って、爽快なんです。

店主 うんうん、その使い方はこちらでも紹介されてる。気になってたところ。

ちゃん それで、せっかくならもっと活用したいな、 と思っていたところに『はっか油の愉しみ』という本を見つけたんです。

店主 その本は知らなかったなぁ。どんな活用法が載ってるの?

ちゃん お風呂場の壁にはっか油を吹きかけることで、シャワーを浴びている時に森林にいる気分になれるアイディアとか。乗り物酔いや頭痛に効く携帯ミントの作り方とか。私が近々試したいのは、アイロンのタンクにはっか油を垂らすこと。夏にアイロンをかけるのは億劫だけど、スチームから爽やかな香りが放たれたら、暑い中でも少しは涼しい気持ちになれるかなと思って。

店主 そんなに使えるのか!

ちゃん この本では作者がはっか油と過ごす日々をエッセイで綴っているんですけど、はっか油のこととなると心が躍りだす様子にも顔がほころんでしまいます。一番初めにはっか油に出会い、匂いを嗅いだ時のことなんて、「うれしくて、頭の中で『タタターン、タタタタタ……タタタタタン!』とトルコ行進曲のさびの部分が鳴り出した」と書いているほど!

はっか油の愉しみ

『はっか油の愉しみ』マガジンハウス、前田京子


店主 ノウハウだけじゃないなんて、さらに面白そう! あ、そうだ、じゃあ今回のフェアのテーマは、「読んでひんやりした気分になれる本」にするのはどうだろう?

ちゃん いいですね!

店主 よし!じゃあさっそく。私が「ひんやり」で思い浮かべる本と言えば、『風立ちぬ・美しい村』かな。

ちゃん あのアニメ映画化された作品?

店主 映画は他のお話も組み合わせてあるんだけど、うん、原作の一つです。作家・堀辰雄の代表作で、自身が軽井沢に長期滞在していた時の体験を基に書かれているそうなんだけど、読み始めてすぐ、山や森、そして植物や建物などが、まるでページに浮かび上がってくるかと思うほど鮮やかに描かれていて驚くんだ。まさにこの新潮文庫版の表紙絵のように! だから、実は私、軽井沢には行ったことがないんだけど、この小説からは夏の避暑地のひんやりした空気を感じられるんだ。

ちゃん 私は訪れたことがありますが、夏なのに青々とした木々の中では涼しく過ごせたことを思い出します。

店主 想像通りなんだ! それは感激! 前半は、夏に主人公と少女が出会って心を通わせていくストーリーで、彼が彼女を連れて歩く川沿いの空気や小道の土の匂いなんかを想像できるくらい、爽やかな気持ちになるんだ。でも後半は、その少女が妻になって病の療養のために訪れる場所に変わるから、夏の章もあるんだけれど、しんとした、苦しさや切なさが漂うひんやり感なんだよね。

風立ちぬ・美しい村

『風立ちぬ・美しい村』新潮文庫、 堀辰雄



ちゃん 二つの感覚を味わえるの、気になります。ちなみに涼しさを感じる場所といえば、山だけでなく海も当てはまりますか? 先日オススメした『海辺のオルランド』という漫画、どうでしたか?

店主 読んだよ! とっても良かった!

ちゃん ライターの主人公が、知人の画家からの遺言によって、海辺にあるマンションの一室と不思議な子供を引き取ることになって。その子供は画家の孫なんだけれど性別不明で、「自分は男か女かわからない」とか、「今日は女で明日は男」と言って、他人も自分も惑わせる……。

店主 うんうん。主人公は、子供のことを心配しているように見えて、でも、子供が主人公のことを「好き」と言うのに対して、「自分は好きになれない」と突き放したりする。そういうひんやりとしたシーンが何度も出てくるよね。

ちゃん 子供は愛情を求めることにただただ純粋なんだけど、主人公ともう一人登場する大人は人を信用していないからか、全体的に流れる空気も冷ややかで、淡々としていて……。

店主 物語の中にも出てきたけど、著者は、作家・ヴァージニア・ウルフの『オーランドー』という作品が好きでこれを描いたらしいよ。

ちゃん 男や女とか、血の繫がり、年齢、あと国籍さえも関係のない存在への愛を考えるための物語なのかもしれないですね。

店主 なるほど、そうかもね。あと、冬が舞台のひやりとした漫画だから、蒸し暑い夏の夜に読むのにもいいよね。

海辺のオルランド

『海辺のオルランド』Amazon Services International,Inc.、イトイ圭


店主 あ、それともう一冊、そもそも暑さをどうにかするための知識を得るのも大事なのでは? と思って取り上げたい本があるんだ。

ちゃん それは大事ですね! どんな本でしょう?

店主 その名も『エアコンのいらない家』

ちゃん いらない? 環境には良さそうだけど、こうも暑いとさすがにエアコンは手放せないなぁ。どんな内容ですか?

店主 この本を書いているのは、家の換気空調設備を設計している方なのだけど、まず、快適さを決めるのは、温度、湿度、気流、放射であって、それをどう扱えばエアコンの必要のない家にすることができるか? を、わかりやすく説明してくれるの。例えば、日差しを遮ったり、空気や湿気の流れを理解して、その逃げ場を作ったり。かつて日本のどこの家にもあった土間と縁側って、その法則に沿った設備の一つだったんだって。

ちゃん 家作りの根本から説明をしてくれるんですね。部屋を決める時、間取りとか眺めなどで選びがちだけど、空気の流れや湿度のことを知っていたら、居心地のよい部屋探しにすごく役立ちそう。

店主 そうなの! 私もちょうど引っ越しを考えてたから、日当たりがよいことが必ずしも良いとは限らないんだとわかって、勉強になったよ。それに「すだれ」が一番優秀ってことも書いてあったから、買いに行こうと思ってる。

ちゃん え、すだれが!?

店主 そう。すだれで太陽光を遮断するだけで、だいぶ変わるらしいよ。

エアコンのいらない家

『エアコンのいらない家』エクスナレッジ、山田浩幸

ちゃん そういえばベトナムの家って、光が入りづらくて部屋の中が薄暗い家が多いんですけど、暑い国だからこそあえてそういう造りなのかもと、今気づきました。

店主 そうだとしたら、理に適ってる! 今年は新型コロナの影響で海水浴場も開かない場所が多いらしいし、涼む場所が少なくなりそうだから、ひんやり涼しくなる本をもっと集めたいね。

ちゃん 表紙が涼しそうだったり、いろんな意味で涼しくなる内容の本を集めてSNSで発信するとか、タイムラインがひんやりしそうでいいですね。

店主 ひんやりタイムライン! それ私やりたい! イカの見た目も涼しげだから、イカ好きのバイトちゃんにはイカ情報を発信して欲しい!

ちゃん イカしてる! すぐ始めます!

※本記事は『小説すばる』2020年8月掲載分です。第五回は『小説すばる』2020年9月号誌面にて掲載予定です。(http://syousetsu-subaru.shueisha.co.jp/)

#いか文庫 #ブックフェア #選書 #小説すばる

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