エア本屋・いか文庫の空想ブックフェア【第1回】本屋の可能性
お店も商品も持たない「エア本屋」・いか文庫。
テレビにラジオに書店の棚に、神出鬼没のいか文庫が『小説すばる』誌上で開店しました!
いか文庫スタッフの店主とバイトちゃんが、理想のブックフェア開催を目指してミーティングを重ねる本連載。
記念すべき第1回のフェアのテーマは「本屋の可能性」です。
先行きが心配されている本屋さん業界ですが、そう暗い話ばかりでもないらしく……?
二人の会話とオリジナルの選書にご注目!
いか文庫 ◆ 本と本屋が好きな店主と、イカが好きなバイトちゃん(ベトナム支社)、バイトぱん(東京支社)、バイトもりもり(関西支社)、バイトいも(イギリス支社)の計5名で活動中のエア本屋さん。
バイトちゃん(以下、ちゃん) 店主! 聴きましたよ! 店主が出演したTBSラジオの「アフター6ジャンクション」! ラジオ好きの私としては、ブースに店主がいることを想像するだけで大興奮でした!
店主 超緊張したよー! しかも隣にはパーソナリティの宇多丸さんが居たし、話したいことの半分も話せなかった……。
ちゃん 伝わってきました! でも、個性派の本屋さんが集まっていた中で店主はいつもどおり楽しそうだったし、本屋の未来についての話題では皆さん前向きなコメントをされていて、私も嬉しくなりました。
店主 そうなのよね。それに、このラジオ出演のきっかけになった、本屋さんが40店舗集まったイベント「二子玉川 本屋博」には、二日間で三万三千人もの来場があって、本も一万冊以上売れたんだって。本屋さん周りには暗いニュースが多い……なんて最近よく聞くけど、そればかりじゃないよね、やっぱり本屋って楽しいよね! って思ったと同時に、「いか文庫」って何なんだっけ? って考える機会にもなったんだ。その話、してもいい?
ちゃん もちろん! 聞きたいです!
店主 お店も商品も無い本屋って、じゃあ何をしてるのか? というと、最初は、リアル本屋さんの書棚を借りて、本屋さんと一緒に決めたテーマで選書して、仕入れてもらった本で売り場を作る「期間限定フェア」から始めたわけだけど。テーマを考える時はいつも、本以外のものからも興味を持ってもらえるように、本×旅だったり、本×深海、本×新宿、みたいに、本×○○を意識してきたじゃない?
ちゃん イベントもそうですね。店主が好きな「音楽」と組み合わせた時は、音楽フェスの企画を一から作って、ライブハウスを貸し切って、出演オファーもやって。出演者が演奏をしている最中に、ライブエリアの外に作った一夜限りの本屋で、ライブに合わせた本を売ったりもしましたよね。
店主 そうそう、大変だったけどすごーく楽しかったよね。バイトちゃんが好きな「イカ」とコラボした時は、大きなスクリーンでダイオウイカの映像を見ながらイカ料理を食べた後、イカの本を売ったね。我ながら斬新だったし、それこそ、私たちの強みでもあるなって、今回のラジオをきっかけに、より意識するようになったんだ。
ちゃん 私も同じくです! 今年はオリンピックの年なのでスポーツともコラボしてみたいし、四月に石川県能登町に「イカの駅」がオープンするので、能登などの地域ともコラボしたい!
店主 うんうん。それらが好きな人、関わる人が、本に出会うきっかけにもなるしね。で、前置きが長くなっちゃったんだけど、今日は新しいフェアについて相談したいんだ。このインターネット会議で企画を出してもいいかな?
ちゃん お願いします! テーマは……?
店主 ズバリ「本×本屋」です!
ちゃん んー。ちょっと普通すぎる気が。もう少し具体的な方が……。
店主 じゃあ「本×本屋の可能性」なんてどう? 私はやっぱり、本屋は先行き不安ばかりじゃない気がしていて。いか文庫が活動してきた八年の間にも、面白い本屋さんって続々と増えているし。それが伝わるフェアをやりたいなと。
ちゃん 私はいまベトナムに住んでいるので実際に訪れることはできないけれど、SNSで、新しくオープンする本屋さんや、イベントの情報をよく見かけます。たしかに盛り上がっているなぁという印象だけど、それが伝わる本のフェアか……どんな本がありますか?
店主 まずはこの『東京こだわりブックショップ地図』。吉祥寺の「BOOKSルーエ」のような町の本屋さんはもちろん、作家さんにも選書してもらっている赤坂の「双子のライオン堂」、校正会社が運営している神楽坂の「かもめブックス」、下北沢の「古書ビビビ」などの古本屋さんも載っているし、さらに銭湯にある漫画スペースまで! 「この本屋に今すぐ行きたい!」って興奮するから、メインにしたいんだ。
ちゃん なるほど! そういえば他にも、一箱古本市や私たちエア本屋まで取り上げられていますよね。
店主 「本の挑戦者たち」っていうコラムの中でね。そうやって読み物として楽しめるところも良いなと思って。
『東京こだわりブックショップ地図』交通新聞社/本体1200円+税
ちゃん いいですね! 他にはどんな本がありますかね? 教えてください!
店主 つぎは本屋経験が全く無かったのに、「本×猫」っていうコンセプトを思いついて、実店舗を開店させた方の本、『夢の猫本屋ができるまで』だよ。その「キャッツミャウブックス」の店長と店員は猫六匹とニンゲン二人で、さらに置いてある本は全て猫にまつわる本なんだ。
ちゃん 店主と行きましたね! 漫画や小説、写真集、海外の本もあって、どれも猫の本ばかりで、猫店員が自分の足元を通り過ぎたかと思えば、本棚にささっと登ってみたりするのも、楽しかったです。
店主 あ! そうだったね。しかも開店までの一部始終が書かれているから、ビジネスの本として読めるのもいいし。
ちゃん この本をきっかけに、本屋をやってみたいという人がさらに出てくるかもしれないですね。ぜひ並べましょう!
『夢の猫本屋ができるまで』ホーム社/本体1700円+税
店主 やったー! あと、アクセントとしてこの本も並べたくって。ジャジャーン! 『あるかしら書店』です。
ちゃん あっ、小説すばるの表紙絵も手がけているヨシタケシンスケさんの本! 私も大好きな一冊です。
店主 お客さんから「こんな本あるかしら?」って聞かれて、店主が「これなんてどうかしら!」って差し出す、本のカタログみたいな本なんだけど、差し出す本が妄想の本ばかり! っていうところが、楽しくって夢があって最高なんだ。
ちゃん いいですね。私はこの本に登場する水中図書館に興味津々です!
『あるかしら書店』ポプラ社/本体1200円+税
店主 よし、じゃあ最後の一冊は……『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』です。「ガイド」っていうタイトルだけど、実はここに載っている本屋は全て実在していない店で、その「架空の本屋」を本屋さんで働いている22人が小説風に紹介しているっていうのが今までにない試みで! 「心霊に関する本を集めた本屋」とか、「人の家を転々として開店する本屋」とか、あと、街中で本を読んでいる人にインタビューしてwebで紹介する本屋とか、これこそ、本屋の可能性を目一杯感じられる一冊じゃないかなって思うんだ。
『まだまだ知らない夢の本屋ガイド』朝日出版社/本体1600円+税
ちゃん この本を読むと、「本屋さんの頭の中って、こんなにアイデア満載なのか!」って驚きますよね。やっぱり本屋さんはイカしてる!
店主 うん! イカしてる! ところで、ベトナムの本屋さんってどんな感じなの?
ちゃん こちらの出版物には国の検閲が入るらしく、そもそも出版されている本が日本よりも少ない気がします。だから本屋さんも、日本のようにたくさんは無いんです。
店主 そうなんだ。雰囲気も違うの?
ちゃん 子供が多い国だからか、入ってすぐの棚はだいたい子供向けの本が並んでいるし、絵本コーナーはかなり充実しています。 あと、私がよく行くハノイの本屋の店主は、扇風機の前で寝転がりながら本を読んでいることが多いんです。接客しながらでも本を読んじゃうほど本が好き! なのが伝わってきて、憎めないんですよね。
店主 どこの国の本屋さんも、本が好きなのは共通してるってことだね。本好きな人が増えるように、私たちもがんばりたいね。
ちゃん あと、イカ好きも……。
店主 そうだった! イカ好きが増える仕掛けも加えつつ、フェアの準備進めます!
※本記事は『小説すばる』2020年4月号掲載分です。第二回は『小説すばる』2020年5月号誌面にて掲載予定です。(http://syousetsu-subaru.shueisha.co.jp/)
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