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エア本屋・いか文庫の空想ブックフェア【第2回】お弁当フェア

お店も商品も持たない「エア本屋」・いか文庫。
テレビにラジオに書店の棚に、神出鬼没のいか文庫が『小説すばる』誌上で開店しました!

いか文庫スタッフの店主とバイトちゃんが、理想のブックフェア開催を目指してミーティングを重ねる本連載。

第2回のフェアのテーマは「お弁当」です。

作ってみたい、食べてみたい。そんな魅力的なお弁当が登場する、本と漫画をピックアップ! なかなかお出かけできない今だからこそ、いか文庫の選書を手に、ピクニック気分に浸ってみてはいかがでしょう。

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いか文庫 ◆ 本と本屋が好きな店主と、イカが好きなバイトちゃん(ベトナム支社)、バイトぱん(東京支社)、バイトもりもり(関西支社)、バイトいも(イギリス支社)の計5名で活動中のエア本屋さん。

店主 バイトちゃん、新型コロナウィルスが猛威を振るっている春だけど、外に出られないこんな時期だからこそ、新しいフェア企画の相談してもいい?

バイトちゃん(以下、ちゃん) 五月はベトナムは雨期ですが、日本はまだ春! コロナさえなければ、ぽかぽか陽気でお出かけ日和ですね。どんなフェアですか?


店主 その春の陽気の中で食べたい「お弁当」フェアです!

ちゃん いいですね、レシピ本とか?

店主 良いレシピ本もたくさんあるけれど、あえて、それ以外のお弁当が出てくる本に注目したいんだ。私が前に働いていたリアル本屋さんの「食の棚」は、レシピ本のコーナーがあって、その下の棚に、食にまつわる小説、エッセイ、人文書、漫画なんかがまとめられていて、食べることに興味が湧く楽しい棚だったの。それをイメージしたフェア、その中でも「お弁当」にフィーチャーしたいなって思ってます。

ちゃん お弁当が出てくる作品……。ぱっと思いついたのが、森下典子さんのエッセイ『いとしいたべもの』かなぁ。

店主 おぉ! さすがバイトちゃん。まず取り上げたいのは、その本です!

ちゃん 以心伝心! このエッセイでは著者の森下さんの心の片隅に残る、食べ物にまつわるお話が綴られているんですよね。メロンパンとかオムライスとか、子供の頃に誰もがわくわくしてたまらなかった思い出もあれば、森下さんならではの独自の食べ方をこっそり教えてくれるようなものもあって。いか文庫でも、「幸せの配分」という章に書かれている〝崎陽軒のシウマイ弁当〟の食べ方に注目してイベントをやったことがありましたね。店主が書かれているとおりに食べてみたら、あまりにもおいしくて感激したことから企画したという。

いとしいたべもの書影

『いとしいたべもの』文春文庫 本体740円+税

店主 そうそう。実はそれまで私、シウマイ弁当を食べたことがなかったんだけど、この本のおかげで今や大ファン!

ちゃん お弁当を包む紐をほどくところから始まって、醬油をどうつけるかの説明、そしてまず一個目のシウマイを食べて、ごはん、その他のおかず、佃煮を間に入れつつ……と、森下さんのこだわりが熱く語られているページを音読して、その後みんなそれぞれもう一度文章を追いながら実食して、おいし〜い! って。

店主 思い出しただけで幸せな気持ち……。

ちゃん 「ちょいなちょいな」と合いの手を入れながらおかずを食べるという言い回しが出てきますよね? 私はその表現が好きで、あれ以降お弁当を食べるとき、使うようになりました。

店主 あはは! それいいね、私も今度やってみる! それとね、買って食べるお弁当もいいんだけど、自分で作ったり、家族に作ってもらったりするお弁当も、いろんな思いが一緒に詰められていていいよね……って思える本もあって。この『おべんとうの時間』です。この本は、お弁当の写真を撮り続けている写真家の夫・阿部了さんと、ライターの妻・阿部直美さんが、一般の方々のお弁当を撮った写真と、インタビューで聞いたお話をまとめた本なんだけど、バイトちゃんも読んだことあるんだよね?


おべんとうの時間2カバー

『おべんとうの時間』1〜4 木楽舎 各本体1400円+税



ちゃん ANAの機内誌に連載されていますよね? 飛行機に乗るときの楽しみの一つです! 四冊目まで出ていて、台湾やフランスなどでも翻訳されているとか。でも、ご夫婦で作っているのは知らなかったです。

店主 そうなの。日本全国を旅しながら、老若男女いろいろな立場の人にインタビューしていくんだけど。高校生、お坊さん、司書さん、茅葺き職人、留学生……本当にいろんな人が出てきて、お弁当も、手早く食べられるようにおかずを一緒に握った大きなおにぎりとか、指宿温泉の砂かけ役の方は、暑い時でも食べられるようにサラダメインとか、あと私の地元山形の方は、山形ならではの「もってのほか」っていう菊の花のおひたしを入れていたり……その仕事や土地ならではのお弁当でもあるから、レシピを真似するっていうより、ただ単純に、「お弁当作りたいな」って思えるんだ。自分のお弁当の思い出も蘇るから、読むたびにいい本だなぁって思うんだよね。


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『おべんとうの時間』より、
指宿温泉・砂かけさんの田宮さんとサラダメインのお弁当。


ちゃん 家庭で作るお弁当には、一つとして同じものはないですもんね。

店主 人もお弁当もこんなに千差万別なんだなって、たくさんの人の人生を垣間見ているような気持ちになるんだよね。あ、それでふと思い出した本があるよ。『窓ぎわのトットちゃん』。この中で、著者のトットちゃんこと黒柳徹子さんが通っていた学校の校長先生は、お弁当に「海のものと山のものを入れること」を家族に頼んでいて、毎日確認してくれるの。で、それをみんなで見比べたりしながらワイワイ食べる……っていう風景が書かれていて、それを小学生の時に読んで、すごく心が躍ったんだ。


トットちゃん書影

『窓ぎわのトットちゃん』講談社文庫 本体760円+税


ちゃん 素敵だなぁ! 家族の立場としても、気づいてくれるかな? って考えながらお弁当を作るのが楽しそう。私だったら、毎日がんばって娘のお弁当に海のものとしてイカを入れる!  イカリング、イカめし、イカの塩辛!

店主 山のものも忘れずに!(笑)ところでベトナムには、お弁当ってあるの?

ちゃん それが、ベトナムにはお弁当はないんです!  ただ、〝マンベー〟という持ち帰り文化があって、ごはん屋さんではだいたい持ち帰りができます。私はよくプラスチックのお弁当箱に、選んだおかずとごはんを詰めてもらって家で食べるので、それが日本でいうお弁当みたいなものかなと。でも、家族が作るお弁当の文化とはやっぱり違いますね。あ、あと、バインミーというサンドイッチもよく持ち帰ります。見た目はホットドッグに近いかな?

店主 バインミー! 日本でも人気だよ。ちょうど、もう一冊取り上げたいと思った本にも、ホットドッグがでてくるの。『縁側ごはん』っていう漫画です。おばあちゃんが遺した一軒家で一人暮らしをしている主人公キー坊が、お姉ちゃんや友達と気ままにごはんを作って食べるだけの物語なんだけど、おいしそうだし楽しそうだしで、何度も読みたくなるの。その中に、雨の日に外で食べるのに向いてるのは「ホットドッグ」と「おにぎり」どっちか? を比較検討するお話が入っているんだ。


縁側ごはん書影

『縁側ごはん』芳文社 本体848円+税


ちゃん 悩ましい! でもおにぎりかなぁ。

店主 私も普段はおにぎり派なんだけど、この漫画を読んで、ホットドッグの方がいいなぁって思ったの。やさしい音で雨が降る中、屋根のある場所で雨宿りしながら、こんがり焼いたパンとソーセージに、コールスローと粒マスタードを挟んでガブリ! 味と食感を想像したらたまらない! だからこれもシウマイ弁当の時のように、お客さんと実体験してみたいんだよね。漫画と同じレシピで作って、お話と同じく、雨の日の屋外で雨宿りしながら食べる! フェアのイベントとして、どうかな?

ちゃん 漫画を読んで、食べて、どっちがいいか投票するとか? 面白いかも!

店主 やった! 決まった!

ちゃん 想像しただけでワクワクしますねぇ。楽しみです!


※本記事は『小説すばる』2020年5月号掲載分です。第三回は『小説すばる』2020年7月号誌面にて掲載予定です。(http://syousetsu-subaru.shueisha.co.jp/)

#いか文庫 #ブックフェア #選書 #小説すばる

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