エア本屋・いか文庫の空想ブックフェア【第17回】「仕事」が好きになる本フェア
お店も商品も持たない「エア本屋」・いか文庫。
テレビにラジオに書店の棚に、神出鬼没のいか文庫が『小説すばる』誌上で開店しました!
第17回のフェアのテーマは「仕事」です。
いか文庫 ◆店主(リアルでも書店員)と、イカが大好きなバイトちゃん(ベトナム支社)、バイトぱん(東京支社)、バイトもりもり(関西支社)、バイトいも(イギリス支社)の計5名で活躍中のエア本屋さん。
店主 バイトちゃん、この本知ってる?
バイトちゃん(以下、ちゃん) 『マイノリティデザイン』?
『マイノリティデザイン』澤田智洋(ライツ社)
店主 私も最近、著者の澤田智洋さんがテレビに出ていて知ったんだけど、すごく面白い仕事をしている方でね。「ゆるスポーツ」というものを生み出して、世界中に広める仕事をしている人なんだ。
ちゃん スポーツなのに、ゆる……。どんなスポーツなんでしょう?
店主 健常者も障害者も、運動音痴も年齢、性別も関係なく楽しめる、例えば、ハンドソープで手をつるつるにしてやる「ハンドソープボール」とか。全員がボールを落としやすい状態でやるから、ボール競技が得意な人でも苦手な人でも同じレベルで戦えるんだって。
ちゃん なるほど!足の速さや力では男の人にかなわないけど、このスポーツなら勝てる可能性があるってことですね。
店主 そうそう。足が不自由な人も一緒に楽しめる、イモムシのデザインのウエアを着てやる「イモムシラグビー」とか、振動を与えすぎると赤ちゃんの泣き声が出るボールを使った、そーっと動かなきゃいけない「ベビーバスケ」とか、とにかく目からうろこのアイデアばかりなの。
ちゃん どっちも挑戦してみたい!タイトルからデザインの本かと思ったけど、企画の仕方や発想法を学べそうですね。
店主 それもそうなんだけど。澤田さんはもともとコピーライターとして広告の仕事をしてたんだけど、息子さんが生後3ヶ月で目が見えないってわかったことをきっかけに、マイノリティの“良さ”を見出すことに目覚めたんだって。それを知ってもらうために働いて、さらに社会を変えていくというのが「マイノリティデザイン」の意味だそう。壮大だけど、ワクワクもするよね。
ちゃん そういう背景から生まれたものなのか。前向きでワクワクしますね。仕事といえば、私は最近クリエイティブディレクター水野学さんの『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』を読みました!くまモンや中川政七商店などのプロジェクトを手がけてきた方の本です。
『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』
水野 学(ダイヤモンド社)
店主 あー!私こそ読まなきゃいけないって思ってた本!
ちゃん 段取りって仕事の超基本なのに、学校では何一つ教えてくれないんですよね。私は新入社員として入った会社で「時間の見積もりが甘い!」って上司からお叱りを受けた苦い経験を思い出しながら読みました。
店主 私、今なおお叱りを受けてもおかしくない状態だよ……。
ちゃん うぅ……。締切に向かって、どういう順序で進めていくかを見定めることの大切さ。それを頭の中だけじゃなくて、見える形で手帳なり、スマホなりにアウトプットしていますか?っていう話が序盤にあって。店主はいつも手帳に色々書きこんでいますよね?だから第一段階はクリアかなと思います!
店主 良かった〜!
ちゃん 本の中では段取りの組み立て方、なぜそれが必要なのか?が、エピソードと共に紹介されていきます。段取り良く物事を進める最大の目的は「余白を作ること」だそうで。いくつもの案件を同時に抱える水野さんが、新しいアイデアを生み出せるのは、常に余白を残した状態で物事に向き合えているからなんだと。
店主 すごく合点がいく!よしやるぞって気持ちの時より、ボーッとしている時の方が、面白いこと思いついたり、原稿にしたい言葉が浮かんでくる気がするもの。
ちゃん いか文庫を始めたばかりの頃は、メンバーみんなが常にアイデアを心に持っていて、それを実現するために動いていましたよね。今はありがたいことに、お仕事も増えて環境も変わり、目の前のことだけで精一杯になってしまい……この状況を抜け出して、余白を作って新しいことを考えてみたくなりました。だから、段取りの本はみんなにも読んでほしい!
店主 絶対読む!じゃあ今回は、「仕事」について考えるフェアにしない?
ちゃん いいですね。ここ数年で仕事のやり方や、仕事観が変わった人も多いんじゃないかなと感じるので、私自身もあらためて考えてみたいです。
店主 最近、その名も『お仕事です!』っていう、柴門ふみさんのマンガも読んでね。これも取り上げたいな。20代の女性3人が起業して奮闘していく物語なんだけど、全員バラバラの性格、価値観のメンバーでね。それはそれはぶつかりまくるのだけど、でもそれぞれ違った魅力と能力を持ってるから、戦いつつ、補いつつで、進んでいくんだ。
『お仕事です!』柴門ふみ(小学館)
ちゃん 1995年の作品なんですね。今とだいぶ違いそうだけど……。
店主 確かに時代を感じるシーンも多いんだけど、むしろこの時代にも、こんなに現代的でパワフルな女性像があったのか!って驚くよ。それに作者の柴門さんも、あとがきで、「10年前の別の作品で恋愛こそすべてと描いたけど、今は恋愛だけじゃもたない。人生をより深く、広く、味わい尽くすにはお仕事です」というようなことを書かれていて、私たち現代の女性たちに向けて言ってくれているような気もしてくるんだ。
ちゃん 働く人たちの背中を押してくれそうなマンガですね。私が住んでいるベトナムは、世界的に見ても女性の就業率が高いそうなんですが、バリバリ働く友人たちの姿を見ると私も頑張らなきゃっていつも思います。作者の言葉も気になるし、読んでみたくなりました。
店主 もう1冊取り上げたいのが、これ。オードリー・タンさんの『オードリー・タン 自由への手紙』です。
『オードリー・タン 自由への手紙』クーリエ・ジャポン編集チーム
(講談社)
ちゃん オードリー・タン?
店主 台湾のデジタル大臣だよ。デジタルテクノロジーを活用して様々な政策を打ち立てている、IQ180の天才。去年、台湾でマスクが品薄になった時に、各お店の在庫がわかるアプリを開発したりして、日本でも有名になったんだ。
ちゃん Siriの開発メンバーの一人ってプロフィールに!
店主 この本は、ジェンダーとか、格差とか、お金とか、様々なことに悩む日本の若者に向けて彼女が語ったことをまとめた本なんだけどね。仕事についての章では、AIが将来、自分たちの仕事を奪ってしまうという不安について、「AIが自分たちの手助けをしてくれると考えてみては?」って提案するの。山登りをして感動するのは人間にしかできないけど、山の上にある設備のメンテナンスはドローンにもできますよねって。
ちゃん たしかにAIの急速な進歩に、私たちの未来は大丈夫っ?て心配になることもあるけど、恩恵もたくさん受けていますもんね。
店主 仕事で目一杯になっちゃうと、何かしらネガティブな言い訳をしたくなっちゃうけど、彼女の話を聞いていると、視野を広くしてポジティブに考えた方が、より良い未来に進めるんだなってことがわかって、明るい気持ちになってくるよ。
ちゃん この方も頭の中に余白があるんだろうなぁ。
店主 私さ、辛くなる時も多いけど、仕事すること自体はすごく大好きで、趣味と言えるくらいなんだよね。だから、このフェアの本で、より仕事が好きになれたらいいな、そういう人が増えたらいいなって思うんだ。
ちゃん うんうん。私は段取りの本で学んだことをイカして、フェアの準備を進めていきます!
※本記事は『小説すばる』2021年10月掲載分です。第18回は『小説すばる』2021年11月号誌面にて掲載予定です。(http://syousetsu-subaru.shueisha.co.jp/)