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エア本屋・いか文庫の空想ブックフェア【第5回】「自分だけの京都」フェア

お店も商品も持たない「エア本屋」・いか文庫。

テレビにラジオに書店の棚に、神出鬼没のいか文庫が『小説すばる』誌上で開店しました!

第5回のフェアのテーマは「自分だけの京都」です。

いか文庫中

いか文庫 ◆ 本と本屋が好きな店主と、イカが好きなバイトちゃん(ベトナム支社)、バイトぱん(東京支社)、バイトもりもり(関西支社)、バイトいも(イギリス支社)の計5名で活動中のエア本屋さん。

店主 日本は新型コロナの影響がまだ長引きそうだけど、ベトナムはどう?

バイトちゃん(以下、ちゃん) ベトナムは一度落ち着いて普通の生活が送れるようになっていたのですが、再び感染者が出てしまって。日本と同じように、当分自粛生活が続きそうです。

店主 そうなのかぁ。 日本も旅行できなくはないんだけど、感染者が減ったり増えたりでまだまだ安心できない状況だから、最近は、“もし旅行をするなら”って想定で本を読んだりしてるよ。

ちゃん 例えばどんな本でしょう?

店主 『もし京都が東京だったらマップ』です。不動産の仕事をしている著者が、以前住んでいた東京と今住んでいる京都を街ごとに比べて、似ている街と街を組み合わせてみるって試みの本だよ。

もし京都が

『もし京都が東京だったらマップ』岸本千佳 イースト・プレス


ちゃん どうやって比べるんだろう?

店主 例えば、JR中央線の「荻窪〜中野」は、京都でいうと叡山電車沿い、「出町柳〜一乗寺」に似てると。

ちゃん どんなところがですか?

店主 文化やアートの要素が色濃い街で、「一度住んだら抜けられない文化のるつぼ」だからだって。

ちゃん 文化のるつぼ、確かに!本屋さん、古本屋さんも多いですしね。

店主
 そうそう。京都には「一乗寺」に、有名な本屋「恵文社一乗寺店」があるし、「元田中」っていう街は、コーヒー焙煎専門店、雑貨屋さんのようなカレー屋さん、三坪のケーキ屋さんなんかもあって、「高円寺」に似てるって。

ちゃん 「荻窪」は、私たちいか文庫の発祥の地だし、中央線沿いには特にゆかりがあるので、その本を読みながら散歩してみたいですね。本当に似ているかどうか自分たちなりにジャッジしてみたいし、他にも似ているポイントがあるか探したりもできそうですね。

店主 いいね! 楽しそう! それ以外にも、「京都駅」は「東京駅」じゃなくて「品川駅」っていうのにも頷いたよ。

ちゃん 色とか、洗練された感じとかかな?

店主 ううん。「都市の中心じゃなく交通拠点」だから。京都駅のあたりは少し歩くとひっそりとした住宅街なんだって。

ちゃん そうなんですね。言われてみれば、駅を出て京都タワーを眺めたらすぐバスに乗っちゃうから、京都駅周辺については知らなかったかも。

店主 私は友達が京都駅から徒歩三分のところに住んでるって聞いて、まさか!って驚いたから、なるほどって思ったんだ。

ちゃん そんなところに?ですね。

店主 でしょ? あ、じゃあさ、今度のフェアのテーマなんだけど、「視点を変えて知る京都フェア」にしない?

ちゃん 私もなかなか帰国できなそうだし、いろんな角度から京都を見つめる本が選べたらいいかも!

店主 ね! それで実はもう一冊、『台湾男子がこっそり教える! 秘密の京都スポットガイド─左京区男子休日』という本を読んだの。

ちゃん 台湾男子の視点で見た京都?

店主 うん、そうなの。京都の左京区に何度も訪れて、生活するように過ごして体験したものごとが書かれてるんだ。

ちゃん 台湾の男子はどんな京都に惹かれたんだろう?

店主 コロッケ屋さん、定食屋さん、大学、銭湯などなど、だって。それらをエッセイ風の文章で紹介してくれるの。

ちゃん コロッケ屋さん!

店主 バイトちゃん、コロッケ好きだもんね。レンタル自転車でコロッケとドーナツとサイダー買いに行って、鴨川沿いでプチピクニックするんだって。

ちゃん レンタル自転車で、というところが、いいですね。

店主 京都の人が自転車で行き来するのを見ていて、どうしても乗りたくなったそうだよ。あと思わず笑ってしまったのが、「日本のラーメンはすごく塩からい。でもラーメン屋さんにはいつも氷水のピッチャーがあるので、冷たい水で舌に残る塩味を洗い流せる」って書いてあったところ。日本人には気付かない視点から書かれているガイドブックなんてなかなか無いから、興味深いよね。

ちゃん 確かに。この本はもともと台湾で出版されたものなんですね。

店主 そうなんだって。逆輸入の京都本ってところも面白い。

台湾男子

『台湾男子がこっそり教える!秘密の京都スポットガイド─
左京区男子休日』男子休日委員会 エクスナレッジ

ちゃん そういえば私も最近、台湾の人が書いた『いつもひとりだった、京都での日々』という、京都のエッセイを読んだんですよ。
店主 あ!表紙見たことある!

ちゃん 著者は世界的に活躍している台湾出身の映画監督で、十五年ほど前、京都大学に留学した時のことを振り返りつつ綴った本です。外国の文化人がイメージしたり興奮したりする京都って、お寺、舞妓、抹茶など?って予測してたんですけど……。

店主 そうだよね。でも違うの?

ちゃん はい。著者が京都生活の中で惹かれて記憶に大切にしまっているのは、ごく普通に暮らす中で出会った人々なんです。自宅に三十脚の椅子を並べている椅子コレクターの大学教授の話とか、一杯のコーヒーが出てくるまでに二時間半もかかった老舗の喫茶店のおばあちゃんの話、舞妓さんが好きで出待ちをする丸刈り頭の友達の話などなど……。

店主 それは私たちでもなかなか出会えない人たちばかりだね。

いつもひとり

『いつもひとりだった、京都での日々』宋 欣穎 早川書房


ちゃん ですよね。そういう人々との交流の日々に登場する、京都の桜、川沿い、町並みも味わい深く書かれています。アニメ映画監督ということもあってか、暮らす人々にカメラを向けて撮影された映画を見ているような気分になりました。

店主 なるほどなー。同じ日本だけど、「旅行」っていう視点で行くのと「生活」って視点で訪れるのとで、だいぶ感覚が変わるんだろうなってことが伝わってくるね。ますます京都に行きたくなるし、知っておきたくなるね。

ちゃん この間私が気になると伝えた『本の中の、京都。』は読みましたか?電子版がなかったから、海外では読めないのですが読んでみたくて。

本のなかの、京都

『本の中の、京都。』三度目の京都 ディスカバリー号


店主 読んだよ!もう古本しかないんだけど、装丁もすごく凝った作りだったよ。

ちゃん ますます手にしてみたい!

店主 ブックディレクターの幅允孝さんが京都で訪れた居酒屋で「(東京と)あんまり変わらないな」って感じたのをきっかけに、京都の様々な人に話を聞いてみたいと思って作られた本なんだけど、同時に「京都を感じる本」も紹介してもらっているの。

ちゃん 京都に暮らす人々が選ぶ本から、京都を探るということですね。

店主 そうそう。清水寺のお坊さん、織物作家、舞妓さんの着付手伝いをする男衆さん、ホテルの支配人などなど、仕事に直接繫がる本を紹介したり、逆に全く関係ない意外な本、例えば、FOILという出版社の社長は、彼の戦い方が理想だからと、京都出身のジョッキー、武豊さんの本を選んでいたり、京都をより一層知れそうなんだ。

ちゃん お坊さんにも!? 本にまつわるお仕事をしているわけではない人が選んでいるところがまた面白いですね。

店主 ね、あと今回もSNSで、自分だけが知ってる京都の話を集めたりしたいね。

ちゃん 京都のイカスポットも教えてもらいたい!それに“エア京都巡り”として、京都のお散歩マップも作りたいですね。

店主 作りたい!ぜひやろう!今回のフェアタイトルは「自分だけの京都フェア」でもいいかもね。さっそく準備始めましょー!

ちゃん はい!

※本記事は『小説すばる』2020年9月掲載分です。第6回は『小説すばる』2020年10月号誌面にて掲載予定です。(http://syousetsu-subaru.shueisha.co.jp/)

#いか文庫 #ブックフェア #選書 #小説すばる



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