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ボクたちの冒険07/深夜のブルックリンブリッジを撮る

ボクが「ブルックリンブリッジなめマンハッタンの夜景」を撮りたいと思うようになったのは他でもない。

初めてニューヨークを訪れた23年前に伯母の家のリビングに飾ってあったこの白黒写真を見たからである。おそらく70年代の撮影と思われる。「ブルックリンブリッジなめ」の「なめる」とは撮影用語で「前景に入れる」という意味である。

痺れるほどニューヨークを感じた。以来,この「ブルックリンブリッジなめ」の夜景を撮ってやろうと重い機材を肩に何度もチャレンジしてきた。この稿をお目に留めて下さった方は,恐縮ながら前回の撮影の様子を記したこちらのエッセイを合わせてお読みくださると興もまたひとしおにお楽しみ頂けると思う次第である。

↑もう10年前になる。フルサイズの一眼と三脚を担いで橋の真ん中まで歩いての撮影行であった。

ところが今回,伯父の運転する車でJFKからブルックリンブリッジを渡ってマンハッタンに入るとき,ボクはふと思ったのである。

「ブルックリン側の岸から撮ればいいのではないか。」

なぜ6回もニューヨークを訪れていながらこんな簡単なことに気づかなかったのであろう。いったい橋を歩いて渡る必要がどこにあったのだろうか。地下鉄A Trainに乗ればブルックリン側のたもとにあるハイ・ストリート・ブルックリン・ブリッジ駅はチェンバーズストリート駅からたった3つ目の駅である。地下鉄なのでいつイーストリバーの下をくぐったのかさえ気づかないくらいだ。まさに「A列車で行こう」である。

10年前と比べるとグーグルマップのビュー機能は格段に進歩した。ブルックリン側の岸から橋を臨める場所はすぐに見つかった。

若きカメラマン諸君!地下鉄は24時間走っている。ニューヨークへ行ったら三脚を持って夜のペブルビーチを訪ねるといい。そこには時代を超えたザ!ニューヨークの景観が待っている。

滞在先が地下鉄Fに近ければマンハッタンブリッジの袂にあるヨーク・ストリート駅の方がより最寄りである。

イーストリバーの岸辺に向かっては人通りも寂しいが,昔に比べてニューヨークの治安は格段によくなっている。

今回ももちろんドレミは同行している。腰痛のボクの代わりに三脚を担いで前をゆく。ボクはカメラマンではないので,もし彼女と一緒でなければこんなところまで写真を撮りに来る気力も理由もない。

川沿いの公園の出入り口は開放されていた。もしかしたら午前0時を過ぎると閉鎖されるのかもしれない。とまれペブルビーチは人気のデートスポットのようだった。深夜なのに浜には若い男女が溢れている。

ドレミ撮影

あらよ!ごめんよ。…と江戸弁でカップルの間を縫いながら構図を探して歩く。

長年,思い描いた風景の前にボクは三脚を立てた。今回,重い一眼はもう持ってこられなかったので機材はミラーレスにポータブル三脚になってしまったが撮影には全力を傾けた。

万感の想いをこめたこの写真はきっと居間に掛かっている白黒写真を超えたと思う。

勇躍アパートメントに帰るとちょうど伯母が起きて来たので,すぐにカメラで簡易現像しiPadの大きな液晶でこの写真を彼女に見せた。伯母はボクの絵や写真を見ると必ずこう言う。
「シューイチさん!素晴らしいわ!」
いつも,いつでもそう言うのだ。
「これを引き延ばして古くなったあの写真と交換してくださらない?」
「え?あれは大事な写真じゃなんですか?」
「No problem. あれはね。お金のない頃にトムがゴミ捨て場で拾ったのよ。あははは。」
驚いた。ボクは長年ゴミ捨て場で拾った写真と張り合っていたのだった。

大好きな伯母はこのときから3か月後に亡くなった。ボクたちにとってニューヨークはとても遠い場所になった。この写真は近いうちに白黒で現像して部屋に飾り,ときどきニューヨークの町を思い出しては伯母を偲ぼうと思う。

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